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九龍懐古  作者: カロン
倶会一処
204/492

兄と弟






何かひとつ掛け違っていただけで出会えず。何かひとつ擦れ違っただけで交わらず。

それでも、ほんのひとときだけでも、指先にだけでも、触れることが出来たのであれば。


人はそれを運命と呼ぶのだろう。例え───どんな結末を迎えたとしても。















倶会一処0
















「あ、ラストだ」


おやつ時の【東風】、大地(ダイチ)熊猫曲奇(パンダクッキー)をつまみかけた手を止める。先程開封したばかりの曲奇(クッキー)は雑談中にいつの間にやら数を減らしていたらしく、気付けば最後の1匹に。

(イツキ)普洱茶(ポーレイチャ)を啜りながら、殿(しんがり)を務めている熊猫(パンダ)()れ物ごと大地(ダイチ)の方へ押しやった。


大地(ダイチ)が食べて」

「え!いいの?」

「うん」


わぁい!と喜び颯爽と(かじ)りつく大地(ダイチ)。討ち取ったり。だが口に入れた直後、はたと思い付き‘半分こしたら良かったな’と呟く。(イツキ)が‘俺いっぱい食べたし平気だよ’と返せば隣で見ていた(カムラ)が肩を(すく)めた。


「すまんな、毎度毎度」

「全然」


ヒラヒラと(てのひら)を振る(イツキ)


基本的に、年齢の関係で──大食いなことも手伝い──皆から分けてもらう側の(イツキ)だが、大地(ダイチ)(ネイ)に関しては年下だ。譲って(しか)るべきである。(から)になった箱を覗き、また(アズマ)に買って貰おうと決める。これも(しか)るべきである。


(カムラ)大地(ダイチ)の髪をポンポン撫でた。


(もろ)てばっかなんやから礼せんと駄目やで」

「またお花摘んでくるもん」


その言葉にヒュッと喉を鳴らす(アズマ)を横目に、(イツキ)は仲睦まじく会話をする兄弟を眺めた。


(カムラ)ってしっかりしてるよな。しっかり、というか過保護なきらいもあるが、年下の扱いが上手い。(アズマ)も世話焼きなものの‘兄’とは違う。(イツキ)は自分の兄弟を少し思い返した。


弟か。兄は居た──といっても居ないに等しかった──けれど、弟は居なかった。自分より幼い存在とはあまり関わった試しが無い。

そういえば、子供と接する時のコツみたいなものを以前(カムラ)に訊こうとした事があった。紅花(ホンファ)と一緒に過ごしていた頃だ。あの時は、バタバタ続きでそのまま忘れてしまったが…またの機会に尋ねてみよう、‘(カムラ)のお兄ちゃん講座’。


「せや大地(ダイチ)、なんや(レン)が新作食いに食肆(レストラン)こい言うとったで」

「え?ペースやば!アイデアマンじゃん」

「店のBGM変わってから前より調子ええんやって。みんなで行こか」


なぁ?と(カムラ)(アズマ)(イツキ)を誘う。時計を見た(イツキ)は夕飯までに合流すると言って立ち上がった。


「バイトなん?」

「うん。荷物届けに行く」


今日は配達(・・)の仕事を頼まれていた。(カムラ)が気ぃ付けてなと声を掛け、大地(ダイチ)は行ってらっしゃいと無邪気な笑顔。先に食肆(レストラン)向かって──食材の仕込みを手伝って──るからとの(アズマ)の言葉に指でオーケーサインを作り、(イツキ)は鞄を抱えて【東風】をあとにした。

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