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九龍懐古  作者: カロン
区区之心
20/492

一歩前進とスッカラカン

区区之心4






大地(ダイチ)が家に着くと、(カムラ)はもう帰ってきていた。


「おかえり大地(ダイチ)雞蛋仔(エッグワッフル)どうやった?」

「美味しかったよ。これお土産」


(カムラ)の声に応えつつ大地(ダイチ)豆腐花(ダウフーファ)の入った袋をガサッとテーブルに乗せる。そのテーブルの隅に、封筒が置いてあった。(カムラ)がさっき燈瑩(トウエイ)に渡していたものと似ている。

大地(ダイチ)が封筒を手に取ると、(カムラ)豆腐花(ダウフーファ)の紙パックを開けながら言った。


「あぁ…それ、(マオ)に届けなあかんねん。まぁ今日やなくてもええんやけどな、明日でも」

「ふぅん…」


会話が途切れる。


…あれ?変だな。いつもなら大地(ダイチ)は、俺が行くとか一緒に連れていってとか騒ぐはずなのに。そう思い(カムラ)はチラッと大地(ダイチ)を見た。


大地(ダイチ)は封筒を見詰めたままなにか考えている。

そして。


「気をつけて行ってきてね」


そう言うと、封筒をテーブルに戻し風呂場の方へ足を向けた。

その後ろ姿を(カムラ)咄嗟(とっさ)に呼び止める。


「ちょ!待て待てどうしたん」

「どうした、って?シャワー浴びるんだけど…(カムラ)、先にお風呂使いたいの?」

「あ…えっと…」


キョトンとしている大地(ダイチ)に困惑する(カムラ)


普段と態度が違い過ぎる。

文句を言う大地(ダイチ)(カムラ)があれやこれやと口煩く返し、ひとしきり揉めた後、もう!バカムラ!とか悪態をつかれるまでがワンセットなのに。


けど…いや、これでいいんじゃないか?

そんな考えが(カムラ)の頭を巡る。


心配の種がひとつ減ったんだから。少しでも危ないことはさせたくないし、危ない場所には行かせたくなかった(カムラ)としては、願ってもない変化。


だが。



「…早めに浴びるよ。明日も忙しいんでしょ」


そう呟いた大地(ダイチ)の顔が、寂しそうに見えた。

(カムラ)はふと燈瑩(トウエイ)との会話を思い返す。


追い付きたい、役に立ちたいという気持ち。

けれど力が足りなくて守られている側の、悔しくてもどかしい気持ち。

その気持ちを1番わかるのは、わかってやれるのは────他でもない(カムラ)のはずだ。


「そうなんよ、忙しいねん。やから…これ、大地(ダイチ)に頼んでもええかな?」


その(カムラ)の台詞に大地(ダイチ)が驚いて目を見開く。天と地がひっくり返ったかのような表情。


(マオ)ん所なら大丈夫やろ、1人でも。危ないけど、昼間なら大丈夫やろ。危ないけど」


自分で言っていて、ちょっとチグハグだな…と(カムラ)は思ったが、心配は心配なのだから仕方無い。

大地(ダイチ)が小さな声で聞き返す。


「…いいの?」

「ええよ。ちゅうか、俺が心配症やからやねんな。うるさく()うてまうのは」


(カムラ)は先ほどの燈瑩(トウエイ)の言葉を拝借した。すんません、上手い言い方だったんで。その勢いのまま続ける。


「やけど、力になりたいって気持ちはわかるんよ。わかるから…これからは、大地(ダイチ)に任せられる仕事は任せる。ええかな?」


それを聞いた大地(ダイチ)の顔が、パアッと明るくなった。本当に!?とキラキラした瞳で(カムラ)にたずねる。

簡単なやつだけやぞと(カムラ)は念を押したが、嬉しそうに部屋を駆け回る大地(ダイチ)はちゃんと聞いてくれているだろうか。


やっぱり明日、(イツキ)に頼んでついてってもらおかな。ハシャぐ大地(ダイチ)の笑顔を見ながら(カムラ)は思った。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






その頃【東風】では─────


「ただいま」

「あっ…(イツキ)…まだある…?」

「あるよ、はい(アズマ)の分」

豆腐花(ダウフーファ)?ありがとう…いや、じゃなくて、お土産じゃなくて」

雞蛋仔(エッグワッフル)は食べちゃったよ」

「いや、あの…お金、まだある?」

「無いよ」

「ですよね!!!!」




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