表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
九龍懐古  作者: カロン
有害無益
180/492

枯草とダウナー

有害無益7






「ふーん。じゃその(チェン)(ウー)っつー奴を捕まえりゃいいわけだ」


一仕事(ひとしごと)終え、【宵城】。成り行きを聞いた(マオ)は首を左右に倒してコキコキ鳴らす。


「聞いたことねぇな、そいつ」

「名前違うんじゃない?もともとは」


言いながら燈瑩(トウエイ)が煙草を灰皿でこすった。


売人はコロコロ名前を変える。案件に応じてだったりうっかり下手を打ったからだったり理由は様々だが、例の男は山茶花(カメリア)を取り扱うようになってから通り名を変更───または増やしたのだろう。


「まー、ちっとその線でいくつかルート当たってみマス」

「俺もそこいらの半グレ連中探ってみるで」


(アズマ)(カムラ)の言葉を受けて、パイプを振りつつ頼むわと答える(マオ)。頑張ってるからツケあと一声(ひとこえ)マケてと両手を合わせる(アズマ)にもいいよと即答。訊いてはみたものの通ると思っていなかった(アズマ)は‘えっ’と叫んだ拍子に(くわ)えていた煙草を口から落とし、手の甲を燃やして()()ち言った。


ここを処理すれば、【宵城】への(ドラッグ)引き抜き(・・・・)のルートはさしあたり断つことが出来るだろう。スピーディーに糸口は見付かり、問題は解決へ向かっているようだった。


そして実際に向かってはいた。ただその方向性が、予想を裏切る形だったというだけで。







翌日、夜も更けた頃、(マオ)は情報を提供してくれたキャストを呼び出してあらかたの事情を説明。友人の件をどうにかしたいか尋ねたが彼女は口を(つぐ)んだ。助けたいというわけでもないのか?話を続ける(マオ)


「とにかく、絡んでんのは(チェン)(ウー)って名前の男らしい。けどどっかに隠れちまってて尻尾出さねんだわ」

(チェン)(ウー)…」


繰り返して呟く彼女に、心当たりがあるのか(マオ)が問う。女性は首を横に振り、私も知り合いに聞いてみますと弱々しく答えた。


───ほんのわずかに生じた違和感。迷ったが、憔悴した様子の彼女を問い詰めるのもどうかと思い、(マオ)は何も言わず紫煙を流す。


その正体が明らかになるのは数日後。全てが終息する時だった。








きっかけは(アズマ)からの着信。いつものキャストを交え【宵城】にて(カムラ)の報告を受けていた(マオ)燈瑩(トウエイ)のもとへ、(チェン)(ウー)の正体に近そうな人物の噂を得たとの連絡が入った。


(もしもぉし)?わかったよん。そいつ、他んトコで(ラウ)って名乗ってた奴かも」


ハンズフリーのスピーカーで聞いていた(カムラ)が、前屈みの身体を起こし背筋を伸ばす。


(ラウ)?やったら合安らへんのバーで名前出てはりましたね」


すぐさま携帯を操作して合安楼付近の人間へ詳細を求める(カムラ)。数分も待たず返事が届き、目を通してポンと膝を叩く。


「今()るみたいですよ。合安二期の店で1人で飲んどるって」


思いがけないチャンス。(マオ)燈瑩(トウエイ)は目配せをして立ちあがり、上着を羽織るとキャストへ声を掛けた。


「ありがとね。色々協力してもらって」

「お前、今日はもうアガリでいいよ。時給はラストまで出しとくから」


感謝を述べる燈瑩(トウエイ)と仕事終了を告げる(マオ)に、彼女はペコリと頭を下げた。荒事にはてんで向いていない(カムラ)もステイ。(ラウ)の容貌を2人に伝え、‘気ぃ付けて下さいね’と手を振った。


合安楼までは裏道を使えばさして時間もかからない。女性を帰し、(カムラ)も家路へつかせて、適当に煙草をふかしつつ夜の城塞を歩く。


(マオ)、どうするの?(ラウ)って奴」

「どうもしねぇ。忠告(・・)するだけ」

「こっわ」

燈瑩(おまえ)に言われたくねぇつってんだろ」


軽口を叩きあいながら目的地へ。ひっそりとした路地の奥、ボロい扉を押して店内に入るとすぐに漂う‘枯れ草’の香り。ダウナー系の音楽に呂律(ろれつ)の回っていなさそうな客、随分と品の良い(・・・・)バーだ。

革張りのソファに座る一際(ひときわ)態度のデカい男が目に付く。(カムラ)に聞いた特徴と合致、あれが(ラウ)。事前情報の通りに連れは無し。奴のグラスが()くのを入り口の(そば)で待つ。程なくして、酒を取りに行こうとカウンターへ向かう(ラウ)の首根っこを引っ掴んだ(マオ)はそのまま外へと引きずり出した。


人気(ひとけ)のない袋小路に連れ込んでご挨拶。男は抵抗したが、(マオ)(ふところ)から抜いた小刀を男の頬を掠めてガスッと壁に突き立てると大人しくなった。隣の燈瑩(トウエイ)が銃を手にしていたからというのもある、裏社会の住人だとて不要な怪我は極力避けたいものだ。


「お前が(チェン)(ウー)だろ?」


ニタリと笑う(マオ)。閻魔。男は黙すも、燈瑩(トウエイ)がカララッとリボルバーのシリンダーを回すと小さく顎を引く。ちょこっとお願いがあるんだけど、と(マオ)は顔を斜めに(かたむ)けた。愛らしい動きと(かも)しだす殺気がとてもミスマッチ。


「テメェのルートからこっちに山茶花(カメリア)がきててな、女がジャンキーんなったり消えたりで迷惑してんの。(ほか)ぁどこ流しててもいいけどよ、【宵城(ウチ)】に流さねぇでほしんだわ」


その(マオ)の言葉に、男が答えかけた時。




パンッ。と、明後日の方角から軽い銃声。同時に(チェン)(ウー)、もとい(ラウ)の腹辺りからドバッと血が噴き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ