保護者とティーンエイジャー
区区之心２
プレーン、チョコ、抹茶に苺。全種類の味を買い、トッピングもマシマシにした雞蛋仔を両手に抱えて大地はため息をつく。
「上はすぐアレ駄目コレ駄目！ってさ。ちょっとはいいじゃん、俺だって子供じゃないんだし」
その言葉に樹は若干答えに窮する。大地は年齢も十分子供だし見た目も子供だからだ。
けれど確かに九龍は他所とは事情が違う。
大地くらいの歳ならば、真っ当な仕事であるにしろないにしろ働いて日銭を稼ぎながら生きている少年少女はめずらしくない。
大地と上は幼い頃両親を亡くし、スラム街の近くで彷徨っていた時に燈瑩に助けてもらったそうだ。
成長するにつれ段々と上がひとり立ちをはじめて燈瑩の仕事も手伝えるようになってくる中、大地は自分が何も出来ないのがもどかしいらしい。
「上は大事なんでしょ、大地のことが」
「けど俺だって哥の役に立ちたいもん」
上のではなく燈瑩の、というところがなんとも上が不憫だが……保護者という立場はいつだって年頃の子供には煩わしく思われてしまうものである。
東は放任だよなぁと、樹は珍珠奶茶をすすりながら思った。放任というより俺が言う事を聞かないだけか。いや保護者という訳では全く無いのだが。
けれど、どうしてか東は樹に対してかなり一生懸命である。それは樹もわかっている。
東も不憫だなぁ…あとで余ったお菓子をあげよう。そう考え樹は１人で頷く。
「樹はいいなぁ。何でも屋さんで、喧嘩も強いし」
「大地もそのうちなにか見つかるよ」
「そのうちじゃ遅いよ、今役に立ちたいんだもん」
「んー…役には立ってるとおもう。燈瑩の役にも、上の役にも」
樹の返答に、え？と大地が不思議そうな顔をする。
「大地は純粋で真っ直ぐだから。そういう部分に、みんな元気もらってるとおもう」
犯罪が蔓延り連日死体が転がる‘東洋の魔窟’…などと呼ばれるこの九龍で、変わらず天真爛漫で居ることがどれだけすごいか。
他の【東風】の面々が全員スレていて邪悪という事ではない──はずだ──が、やはり大地の純真さはなかなか得られない貴重なものだ。
そんな大地の素直さも、上は護りたいんだろう。
「そうかなぁ」
「そうだよ」
うーん、と呻ってうつむく大地。納得したような、でもやっぱりしていないような。
早く大人になりたいな。ポツリとこぼす。
その気持ちは樹にもよくわかる。樹も昔抱えていた気持ちだ。誰かの為という訳ではなかったけれど、独りでも生きていける力が欲しかった。
だが、きっと今そう思っているのは、大地だけじゃないはず。
樹はある提案をした。
「大地、燈瑩と上のとこ行ってみる？」
「え？どこに居るか知ってるの？」
「花街じゃないかな。猫がそんなような話してた」
燈瑩には付き合いの長い風俗店が何軒かあり、定期的に挨拶がてら様子を見に行っているらしい。
ついでに俺からつって漢方とか薬とか差し入れしてもらっとくんだよ、まぁ横の繋がりも大事だからな…と、さっき樹が【宵城】へと【東風】の漢方の売上金を取りに行った際に猫が言っていた。
ちなみにお察しの通り、樹が東に渡さず持ってきたのはこのお金だ。
なのでおそらく仕事先は花街で、上もそこに行くのだろうけれど…燈瑩が上を呼ぶとしたら十中八九、危険の少ない中流階級が暮らす区域側だ。
その中で燈瑩と昔馴染の店といえば、おおかた見当はつく。
上は危ないと言っていたが、あの辺りであれば夜中にフラフラとウロつくならともかく昼間に歩くぶんにはとりたてて危険なわけではない。
「２人のこと見に行こう。そしたら多分理解るよ」
樹の言葉に大地は首をかしげたが、雞蛋仔を齧りつつ頷いた。
