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九龍懐古  作者: カロン
千錯万綜
157/492

茶煙草と明け透け・後

千錯万綜14






「早いやろ!信用すんの!」

「だって嘘っぽくないし…ほら」


パリパリと曲奇(クッキー)の欠片を(かじ)(イツキ)は、中から出てきた紙を(カムラ)に見せた。大吉。

大吉(それ)関係あるんかとツッコミを入れる(カムラ)だが、さりとて、藍漣(アイラン)を信じていないわけではない。寝首をかくつもりなら【神豹】について忠告する必要もなかっただろうし、救けてくれた善意や話の内容は信ずるに(あたい)する物ではある。


それに何より、樹本人(ターゲット)が‘いい’と言ったからにはこれ以上の審議は不要にも思えた。


(カムラ)藍漣(アイラン)を見やる。


「信用するとして、仲間はどないすんねん」

「だな。(イツキ)狙ってこられても困るしな」

「ちゃうちゃう」


こめかみに手を当て考える藍漣(アイラン)に、そこではなく、まず寝返ることは構わないのかと気を揉む(カムラ)。煙草に火を点けた藍漣(アイラン)は口に煙を溜め短く沈黙してから、あいつらとはソリが合わずに散々揉めてたし構わないと笑った。


「まぁ…せやったらええけど…。とにかく、そこのメンバーと【神豹】の奴ら、なんとかせんとアカンな」


藍漣(アイラン)の意見を了承した(カムラ)は眉根を寄せて呟く。(カムラ)へ依頼してきた【神豹】系列のチンピラの狙いも(イツキ)なのだろうか?どうあれ、どちらも撤退させられる手立てが欲しい───…

と、閃いた!という風に大地(ダイチ)が声高に発言。


「そことそこ、ぶつけちゃえば?」


言いながら両手の人差し指をトントンと叩き合わせた。


悪くないアイデア。上手い具合に両陣営を九龍に呼び寄せ敵対する状況を作り出す。最終的には全員始末出来たら萬歲(ばんざい)、目撃者が残らなければ事実は捻じ曲げ放題なので勝手に(・・・)争って相討ちということにしてしまえ。この2つは両方上海のグループだ、残党や関連組織が次に散らす火花は九龍(ここ)ではなく上海でということになるだろう。


「‘責任逃れ大作戦’!」

「内容の割にネーミングが可愛いね」


パンッと手を叩き作戦名をつける大地(ダイチ)燈瑩(トウエイ)がクスクス笑う。


【神豹】に対しても藍漣(アイラン)のグループに対しても、やはり餌は(イツキ)。【黑龍】の息子を味方に…よりは‘仕留めた’の方が都合がいいか。そのポジションが浮いているので、縄張りや後釜を狙うなら今だと(そそのか)す。ついでにアンバーの名前も出し、協力を仰いだと言って武器でもいくらか送り付ければ喰い付くはず。龍頭(イツキ)が死んだビッグチャンスをみすみす見逃す奴はいない。


「‘死んだフリ作戦パート(ツー)’、か…」

「くはっ」


真剣な顔で口にする(イツキ)に、今度は吹き出す燈瑩(トウエイ)。お前ほんと笑いのツボ浅いなと(マオ)がパイプの煙をユルユル吐いた。ちなみに‘パート(ワン)’は(ネイ)の件のことである。


武器仕入れとこうか?ウチは何でもいいよ。俺、素手で平気。えー!どれがいいかなぁ!いやお前と俺は留守番やから。俺も行かねぇからな、最近働き過ぎだわ。

口々に好き勝手なことを言いながらも大体の方針を(まと)め、日時や場所など細かいところを詰めていく。あとは【神豹】と藍漣(アイラン)のグループ、それぞれを操作し予定を擦り合わせ実行に移すのみ。


「よし!じゃあ‘責任逃れ死んだフリ大作戦パート(ツー)’いくよ!」

「名前までまとまっとるやん」


元気に宣言する大地(ダイチ)(カムラ)は安定のツッコミ、ひたすら面倒くさそうな(マオ)、おー!と言ったはいいがフライングだったので誰とも噛み合わず不思議そうな(イツキ)、それを見て燈瑩(トウエイ)は再び静かに爆笑。


藍漣(アイラン)が首を傾けて(アズマ)に笑いかけた。


「良い仲間持ったな」

「うん?そうね…ありがたいことよ」


(アズマ)も答えつつ少し()んだ。藍漣(アイラン)はその瞳を見詰め、お前がイイ奴だからだよ、ありがとなと礼を言う。


「なにが?」

「さっき、悩んでくれただろ。どうやったら両方(・・)守れるか」

藍漣(おまえ)が無茶な喋り方するからでしょ」


(マオ)の質問に空気がピリついた時。


藍漣(アイラン)に敵意が無いのはわかっていた、しかし(イツキ)に関連するトラブルを放置しておく訳にもいかず、そして本気になった(マオ)は──本気じゃなくても(すこぶ)る無理だけれど──止められない。(あいだ)に入ったら腕の1本くらいは飛んじゃうかも…(アズマ)はそんな覚悟をうっすらとしていた。


「お人好しだな(アズマ)

「まぁね」

「好きだよ、そういうとこ」

「どうも」

「ほんとだぜ?」


言って、藍漣(アイラン)は普段とは違う屈託のない笑顔を見せた。一瞬それに目を奪われた(アズマ)───の(ひたい)へ、ゴンッという音と共にぶつかる(から)の酒瓶。(アズマ)は椅子から転げ落ち背後の薬棚に倒れ込む。


()っっったぁ!!」

「おかわり」

「普通に伝えてよ!!」


瓶を投げ付けた(マオ)がウヒャヒャと悪魔じみた声を上げる。


「良い目みてんだから痛い目も見ろよ」

痛い目(それ)はいつも見てんでしょ」


(マオ)の言葉に文句をつけるも戸棚から新しい酒瓶を取り出す(アズマ)に、藍漣(アイラン)はまた、‘お人好しだな’と笑った。



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