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九龍懐古  作者: カロン
和気藹々
135/492

イメージチェンジとリスタート

和気藹々10






「うわ何これ、真っ赤」

「新作の士多啤梨(イチゴ)デザートでしゅっ」


小鉢に入って提供されたドロドロの(なにがし)かを眺めて驚く大地(ダイチ)に、(レン)がドヤ顔を決める。

でも味は美味しいと感想を述べる(イツキ)の口元はゾンビさながらになっていた。テーブルの上に積みあがっている空の皿、一気に大量にカッ込み過ぎである。



一晩(ひとばん)明け、(レン)食肆(レストラン)へ遅めの午餐(ランチ)を食べに来た(イツキ)と寺子屋の帰りに顔を出した大地(ダイチ)。昨夜の出来事についてはだんだんと話が広がっていくだろう、(カムラ)にもチマチマ(ネイ)に関する噂を流してもらい、あとは全てが終息するのを待つのみ。

‘最後の作戦’ も無事終わった様子、残るは、その出来を確認するだけなのだが…はたしてどう仕上がって(・・・・・)いるか。


その時。


「お疲れ様です…」


おそるおそる、といった声音と共に入り口の扉が開き、2人はそちらへ視線を向けた。


「ど、どう…かな…?」


モジモジしながら立っていたのは(ネイ)。しかしその容貌は様変わりしていた。

ショートに切った髪。前は目元にかかるくらいを残して顔が少し隠れるようにしてあり、色も赤茶けた明るいカラーになっていた。

服装は限りなくボーイッシュ。コロンとしたスニーカーにオーバーサイズのパンツ、大きめのフードがついたパーカーがお洒落だ。


「いいじゃん!すっごい似合う!」


大地(ダイチ)の台詞に(ネイ)は頬を染めた。


最後の作戦とは、簡単に言えばイメージチェンジ。(ネイ)の見た目は裏社会でも知れ渡っているので、大地(ダイチ)(ソラ)に扮するがごとく(ネイ)も別人になってしまおうというもの。

そして結果は上々だ、これで元の(ネイ)とは全く違う少年(・・)に見える。


「ったりめーだろ俺がやってんだから。腕が(ちげ)ぇのよ腕が」


パイプをふかしつつ(マオ)も店内に入ってきた。服は僕も選んだんでしゅよイイ感じでしょうと(レン)が割り込んで声を張ると、(マオ)はそーだなオメェ意外にセンスあるもんなと投げやりに褒める。思いがけない称賛に吉娃娃(チワワ)は喜び尻尾をブンブン振った。

(ネイ)の外見を変化させたのは(マオ)だ、普段から常に【宵城】で働くスタッフ達の身なりを整えるのに手を貸している為プロデュースを任せて間違いはない。ちなみに(ソラ)のメイクを担当しているのも(マオ)である。


「部屋も空けといたから。お前ら荷物運ぶの手伝ってやれよ」


(マオ)の言葉に大地(ダイチ)がはぁいと返事をし、(イツキ)も唇の血──もとい士多啤梨(イチゴ)ソース──を(ぬぐ)いオーケーを出す。


(ネイ)(レン)の店の従業員の寮にお邪魔することにしたのだ。職場が近くてスタッフの仲も良い、(マオ)の計らいで家賃も安くしてもらった。この上ない好条件。


(マオ)はこれ(カギ)なとテーブルの上にキーを置くと厨房へ消えた。間髪入れずガシャァンと調理器具が引っくり返る音と隠れていた(アズマ)の悲鳴が聞こえてくる。何やら赤い液体が飛び散るのが見えたが士多啤梨(イチゴ)ソースだろう、まぁ、多分。

面食らう(ネイ)にいつもだから平気、(アズマ)どうせ飲み代のツケ返してないんでしょと(イツキ)は言い、立ち上がって大地(ダイチ)の肩を叩く。その合図に大地(ダイチ)も腰を上げ(ネイ)の腕をとった。


「行こ、(ネイ)!日が暮れる前に終わらせよう」


(ネイ)は頷いたものの…店を出た所ではたと足を止め大地(ダイチ)の袖を引いた。まごまごと呟く。


「あの、えっと…引っ越しちゃっても…またそっちに遊びに行ってもいいかな…?」


一瞬の間があって、それから大地(ダイチ)が弾けるように笑った。


「当たり前じゃん!ていうか、遊びにじゃなくてさ。ウチも(ネイ)の家だから。いつでも好きなときに帰ってきていいんだよ」


屈託のない笑顔に(ネイ)の表情も(ほころ)ぶ。和やかな空気の中に店の奥から助けを求める(アズマ)の声が風情(ふぜい)なく轟いたので、(イツキ)は入り口のドアをパンッと閉めた。




仲睦まじく話しながら九龍を歩く少年(・・)達。燦々とした()の光りが、その道の先に明るく降り注いでいた。

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