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九龍懐古  作者: カロン
和気藹々
130/492

家庭事情とお会計・前

和気藹々6






そこまでおかしなことではない。


子供にはいつだって需要がある、売手(うりて)買手(かいて)も欲しがっている。出自(しゅつじ)のわからない子供。戸籍のない子供。棄てられた子供。スラムや貧民街は商人達のパラダイスだ。


(ネイ)が狙われたのも不思議ではなかった。けれど、狙われたのではなく付け(・・)狙われたとなれば話は変わってくる。

わざわざ(ネイ)を追いかける理由──見えてきた事実は、看過できない程度には重要な問題をはらんでいた。







夕飯時、(レン)食肆(レストラン)でデザートを頬張る(イツキ)


「落ちましたよぉ!」

「ほんほは。ありがほ(レン)


ニコニコと上着を両手で掲げる吉娃娃(チワワ)に、(イツキ)揚枝甘露(ヨンジーガムロ)を口いっぱいに含みながら礼を言う。隣で身体を小さくする(ネイ)

(レン)は、血は食器用洗剤でよく落ちるんですよぉ!と豆知識を披露しつつ、ここで乾かしときますねとまだ濡れている上着をハンガーに干す。




バーの備品を買い出しに行った帰りに、(ネイ)はまたしても人攫い(・・・)と遭遇…しかしタイミングよく、何でも屋の配達終わりに(レン)食肆(レストラン)へおやつを食べに来た(イツキ)が通りがかり、誘拐犯はあっという間にボコボコに。

(イツキ)は連中を適当に(まと)めて路地裏に積み上げると一旦(ネイ)をバーに送った。そして足早に現場へ帰還、簀巻(すま)きにしてあった男達にどこのグループか?他に仲間はいるのか?などなどいつもの質問をし、特に問題が無いとわかると例のごとくポキポキ首をへし折った。

死体は燈瑩(トウエイ)が言っていた‘捨てるのにオススメの場所リスト’の中から1番近い裏道──別にそのままその辺に転がしておいてもいいんだけど、なんとなく、一応──まで運搬。それからバーに戻って(ネイ)と一緒に(レン)の店へ。

上着についた返り血を(レン)が洗ってくれるというので、お言葉に甘えてデザートを食べながら洗濯を待つことにしたのだった。


危険な目にあった事、またもや厄介をかけてしまった事、帰りが遅くなりそうな事…()()ぜになった(ネイ)がソワソワしているので、(イツキ)は俺から(カムラ)に説明しとくよと携帯を開く。数回コールが鳴った(のち)燈瑩(トウエイ)が出た。


「あれ燈瑩(トウエイ)(カムラ)は?あ、そう…てかさっき天后古廟の裏に何人かポイってしちゃったんだけど平気だよね?別に何でも無い感じの…いや、(ネイ)が… ……」


通話を終え、(カムラ)ご飯食べに来るって、燈瑩(トウエイ)も居るみたいと(イツキ)(ネイ)の顔を見る。‘何人かポイってしちゃった’の(くだり)(ネイ)は若干キョトンとしていたが、とりあえず聞き返されはしなかった。


(イツキ)さん、ごめんなさい…」

「なにが?」


(ネイ)が謝るも既に(イツキ)の意識は完全にスイーツに移っている、先程の出来事など微塵も気にしていないようだ。(イツキ)(ネイ)も食べなよ、これ(レン)からのサービス、あっでも熱いから気を付けてと湯圆(しらたま)の入った器を差し出す。


「あの…私…」

「ん?」


湯圆(しらたま)嫌い?と首を傾げる(イツキ)に視線を合わせ考え込む(ネイ)

───優しい。(イツキ)も、(レン)も、みんな。なのに自分は謝ってばかり、助けてもらっても何にも出来ない…昔からずっとこう、私なんて…自己嫌悪する(ネイ)の頭に大地(ダイチ)の台詞が響く。


‘今までのことは変えられないけど、今からのことは変えられるじゃん’


今からのことは、変えられる。


そうだ。まだ思うように行かない自分でも、それでも、何か出来る事があるはずで。返したいなら、変えていきたいなら、きっとこういうときは───ごめんなさいじゃない。


「…ありがとう、ございます」

「うん」


謝罪ではなく、感謝を。後ろ向きな言葉じゃ駄目なんだ。


勇気と決意を含んだ(ネイ)の声。少しずつ前に進もうとする意志を宿す涅色(くりいろ)の瞳に応えるように、(イツキ)も頷いた。




2人がデザートを平らげた頃、燈瑩(トウエイ)(カムラ)だけでなく(マオ)大地(ダイチ)もやってきた。

あら、全員揃っちゃったな…意図せずに仲間外れになってしまった(アズマ)を不憫に思い、(イツキ)は一言〈食肆(レストラン)〉とメールを打つ。吉娃娃(チワワ)の絵文字も添付。

すぐに(アズマ)からサムズアップのスタンプの返信、30分もすればここに来るだろう。


円卓を囲み本日のオススメから定番まで山ほど注文した料理を皆でつつくも、あまり箸を進めない(カムラ)(イツキ)は疑問符を浮かべる。燈瑩(トウエイ)(ほとん)ど食べていない、‘ご飯を食べに来る’とは言っていたが本当の目的は違うのか。

(カムラ)がチラチラと(ネイ)を見た。何か尋ねようとして口を開きかけ、閉じ。開きかけ、閉じ。

痺れを切らした(マオ)が声を上げる。


「おい、(ネイ)。なんか隠してることあんだろ。饅頭が聞きてぇってよ」


いきなりの質問に(ネイ)は目をパチクリさせたが慌てて首を横に振った。何のことだかわからない様子。

(カムラ)が焦るも、饅頭てめぇ燈瑩(トウエイ)と調べたんだろと(マオ)。その内容を確かめる為わざわざ(マオ)も付いてきたのだ。

(ネイ)の反応に、隠している訳ではないのだと思った燈瑩(トウエイ)が質問を変えた。


「えっと…最近【紫竹】の龍頭(ボス)の娘が九龍に来たっていう噂聞いたんだけど」


途端に(ネイ)の顔が青ざめる。そこでもう答えは出ていたが、燈瑩(トウエイ)は続けた。


「その娘って───(ネイ)ちゃんじゃない?」


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