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九龍懐古  作者: カロン
往事渺茫
118/492

医者と旧友

往事渺茫 1






なんでだよ。
















「…マ、(アズマ)

「────(トキ)?」

「え?」


おやつ時。【東風】のカウンターでうたた寝をする(アズマ)を揺り起こした(イツキ)は目をパチパチさせる。

一方むにゃむにゃしながら意識を覚醒させた(アズマ)は、ボケっとした顔で首をあげゴシゴシと寝ぼけ眼をこすった。


「ん、どした(イツキ)?」

「何か適当なお茶の葉貰おうと思って。月餅食べるから」

「りょ。今出す、ちょうど新しい緑茶買ったんだわ」


いつもの調子で言うなり(アズマ)はノロノロ立ち上がり、茶葉が山程詰まった戸棚をゴソゴソといじる。(イツキ)は小首をかしげつつその背中に声を掛けた。


「悪い夢でも見た?」

「え?なんで?」

「うーんうーん唸ってた」

「マジか。悪いって訳でもないけど…」


良いともいえないなと思う(アズマ)。ちょっと待ってねと(イツキ)をカウンターに残しキッチンへ。


台所の(すみ)で煙草に火を点け、欠伸をして首をグルグル回した。しかし久し振りに見たな、こんな夢。最近【黑龍】だとか医者だとか昔の話をしたからか。電気ケトルのスイッチを入れ湯が沸くのをぼんやりと待つ。


───東、お医者さんも出来るんだ。


燈瑩(トウエイ)の手当をした時に(イツキ)に言われたセリフ。出来るのは俺じゃないんだよ…思い出して苦笑いする(アズマ)の頭にチラつく記憶。短くなってきた煙草で灰皿のフチを叩く。

ケトルを眺めているとコポコポと音を立て水面(すいめん)が揺れ始めたので、早目に電源を落とした。この緑茶は90℃くらいが丁度いい。本当は一度沸騰させて冷ましたお湯が理想的、とはいえ(イツキ)は食道楽だが食にうるさい訳ではない。うっかり失敗した料理でもペロッと平らげてくれるし。そんな事を考えつつ器を温め、吸い殻を捨て、のんびり茶を淹れる。


(アズマ)が湯呑を片手に戻ってくると、テーブルで頬杖をついた(イツキ)がその顔をジッと見た。


「俺のこと、トキって呼んでたよ」

「え?あ…ほんと?ごめん」


友達?と聞いてくる(イツキ)(アズマ)の頬がゆるむ。


(イツキ)、俺に興味持ってくれてるの?」

「持ってないって言った事なくない?」


確かに言ったことは無かったが、【獣幇】のとき(しか)り【天堂會】のとき(しか)り、態度がそれを示していた。

まぁ、紅花(ホンファ)の件があった際にお互いの昔話をしてから幾分(いくぶん)優しくなってはいたし、先日ついに‘家族’にまで昇格したけれど。


でも───俺も、昔話と言えるほども語ってはいないか。語るような内容でも無いと思っていたからではあるが…。(アズマ)はフッと笑って口を開く。


「友達だよ。【黑龍】に入るより前の。気にしてくれて嬉しいんだけど、そんなに面白い話じゃないよ」


(イツキ)は不思議そうな表情をして、別によくない?過去が面白くなきゃいけない必要は無いじゃんと返す。

その返答に今度は声をあげて笑った(アズマ)は、じゃあ、と言って話しはじめた。




一昔(ひとむかし)以上前。薬師が、まだ薬師になる前の出来事を。

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