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九龍懐古  作者: カロン
一雁高空
105/492

月夜と鏖

一雁高空3






真夜中。時計の短針が頂上を越すか越さないか、そんな時刻。


(マオ)は本家の門前に立った。番をしていた眠そうな男が2人、暗闇で(おぼろ)げにその姿を見る。


「ん?貴様、何か用───」


1人が口を開いたが、次の瞬間ふいに上顎から頭のてっぺんまでが消失し、深紅の液体が噴き出した。続いて急な出来事で固まるもう1人の顔面が縦に真っ二つになる。(マオ)の納刀の動作とともに(つば)(さや)を叩く音が微かに聞こえ、勢いよく飛び散る血液が髪にかかり月明かりに光る金糸を赤く染めた。

そのまま扉を抜けて庭先へスタスタと歩を進める(マオ)に、玄関のあたりから誰かが近寄ってきた。その男が言葉を発する前に袈裟斬りに。返り血を浴びる。

下駄を脱ぐこともせず室内へ、スパァンと思い切り襖を開けば見知った顔が女を相手にしていた。こいつは確か…本家の次男か。呑気なもんだ。

次男は一瞬不思議そうな表情をしたが、(マオ)が身に(まと)う赤黒いものが血だとわかると声を震わせた。


「なんだお前は…!?」


なんだもクソもねぇよ、一応は知ってんだろ俺のこと。いや、誰だかわかってないのか?どっちでもいいけど。(マオ)は返答をした。




「【黃刀】次代当主、(マオ)




継ぐ気は無い─────ここで、終わらせるつもりで来た。その為の名乗りだ。




次男が刀に手を伸ばす、より先に、(マオ)がその右腕を根本から切り飛ばした。悲鳴と血しぶきが上がり(マオ)は軽く耳をふさぎながら言う。


「うるせぇな。テメェだろ、親父(オヤジ)()ったの」


次男はヒィヒィ喚くだけで質問に答えないので、右耳もピッと削いでやる。また悲鳴。奇襲し(しかけ)ておいて、自分が奇襲さ(やら)れたらコレだ…情けねぇ…(マオ)は本家の醜態にため息をつき、振り返りもせず刀を肩越しに背中へ回す。キンッと金属がぶつかる音が響いた。

背後から斬りかかってきた何者かの刀と(マオ)の刀が衝突したのだ。入ると思った死角からの一撃をガードされ、襲撃者はたじろぐ。(マオ)はフッと腰を落として相手のバランスを崩させると、低い体勢で回転しつつ刀を振った。両足首が胴体とサヨナラをし敵はゴロンと後ろにひっくり返る。再三の悲鳴。


「うるせぇって」


ドンと心臓に一突き。静かになった。次男に視線を戻すと青白い顔でグッタリしている、出血多量か?腕一本で大袈裟な…サービスで左も切り飛ばすか?考えながら次男の刀を拾っていると、廊下から2人、新手(あらて)がやってきた。(マオ)は振り向きざまに居合で片方の首を跳ねる。


「なんだこりゃ、使いづれぇな」


独り言が漏れた。抜刀したのは今しがた拾った次男の打刀(うちがたな)、手入れを怠っているとみえる。首を無くした仲間を見てもう1人は怯んだがそれでもどうにか(こら)え斬りかかってきたので、(マオ)は返す刀で男の腹のあたりを横一文字に()(さば)いた。デロッとこぼれ落ちる内臓。倒れ込む男の背中に打刀(うちがたな)を突き刺して捨てると、横で小さくなっている女に声を掛ける。


「おい。他の家族はどこだよ」

「え!?あっ、お、奥のお部屋に…」

「あっそ。どーも。オメェは帰れよ、もう金貰ったんだろ」


女には目もくれず、出口を指差し言うと自身は隣の部屋へ。誰も居ない。もうひとつ隣へ。誰か居た。でもこいつじゃないな、まぁこいつもだとは思うが…斬りかかってくる刀を弾き首元を剣先で撫でる(マオ)。相手は床に突っ伏した。

まだ奥か。木製の扉を開けようとしたが、鍵がかかっている。思い切り蹴りを入れた。蝶番(ちょうつがい)ごとふっ飛んで、中に居た男が目を見開く。


「よぉ。テメェが首謀者だろ」


そう口にする(マオ)の視線の先には、本家の長男。こいつも何度か見たことがある…剣を向けて言葉を続けた。


「自分らに才能がねぇからってよ、親父(オヤジ)潰しゃぁ脅威は無くなるとでも思ったか?」


そこで男は(マオ)に向かって短く‘息子か’と言った。そーだよお早い到着だろ?と(マオ)は笑う。


「ろくに家にも帰らない放蕩息子だと聞いていたが…復讐にでるとは思わなかったな」

「べつに、ムカついたから来ただけだ。まぁせめて死体はどっかに隠しておくべきだったんじゃねーか」


言いながらおもむろに立ち上がって長刀を抜く男に、(マオ)は肩を(すく)めて答えた。


騒ぎを聞きつけた人間が新たに5人ほどやってきて(マオ)を取り囲む。なんだ、手勢(てぜい)はこれだけか?まだ他にもいくらかは居るのだろうが…親父(オヤジ)が結構な数連れてった(・・・・・)のかな。そう思い、(マオ)はククッと喉を鳴らすと言った。


「おめーら、親父(オヤジ)()って安心してんなら残念なお知らせがあるぜ」


そして(ゆる)く刀を構える。刀身が鈍く光り、いくらか重たくなった(マオ)の声が響いた。


「【黃刀】で1番(つぇ)えのは親父(オヤジ)じゃねぇ…────俺だ」


その台詞を合図に、全員が一斉に(マオ)へと斬りかかった。

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