好奇心と寝物語
旧雨今雨7
深夜、【宵城】最上階、朱塗りの天守。
天蓋付きのベッドにゴロンと転がり大地は息を吐く。
上から急に‘猫の所に泊まりに行ってくれ’とメッセージが入り、寺子屋へ迎えに来た猫にいくらか事情を聞いた。
お泊りはいつだってワクワクするが【東風】の面々は何やら大変そうにしており、呑気な事も言っていられない。大地はムゥと天井を睨んだ。
「哥たち大丈夫かなぁ…」
「大地、そこは‘上たち’って言ってやらねぇとあのブラコン泣くぞ」
「だって哥がケガしたっていうから」
「燈瑩はしぶてぇから平気だよ」
横でパイプをふかす猫が、早く寝ねぇと明日寺子屋遅刻すんぞと大地にブランケットをかける。
「寝れないよ、蓮君の仲間の事も襲ってきた人の事も気になるし」
「蓮の方は俺が何とかするから心配すんな。襲ってきた奴は上が調べつけんだろ、伊達に情報屋やってねぇよあの饅頭も」
唇を尖らす大地の髪を撫でながら答える猫。口調は素っ気無いが、気を回してくれている様子がわかる。
大地は猫を黙ったまま上目遣いに見やり、暫くしてから、あのさぁと口を開いた。
「猫って【黃刀】?の1番偉い人なの?」
「あ?んだよいきなり」
「蓮君が言ってたじゃん」
「よく覚えてんな。偉くねぇよただの剣術の流派だし、それに【黃刀】は俺が終わらせちまったからもう無ぇ」
「なんで?」
「ほんっと好奇心の塊だな大地は」
普通遠慮して訊かねぇもんだぜ?と笑う猫を、ブランケットから半分だけ顔を出した大地はジッと見詰めた。
猫はフゥと煙を吐いて、それからもう一度大地の頭を撫でる。
「しゃあねぇな。まぁ、寝物語くらいにはなるか…聞いたら良い子に寝ろよ」
そしてポツポツと語りはじめた。
九龍城砦、花街一の店主の、昔話を。