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牛乳好きの堅物女騎士、クリーミーたらこパスタを食べる。

 羽ペンで羊皮紙にインクを走らせていると、提示を知らせる鐘の音にあわせて腹が鳴った。

 根をつめていたせいで時間がすぎていくのも忘れてしまっていたようだ。


 しかし腹が鳴ったとはいえ、今日は机仕事しかやっていないから腹いっぱい肉を食べるのもよくないだろう。

 運動していない日に肉を食べすぎると筋肉ではなく脂肪になるというし。


 それでも騎士として任務にあたれるだけの肉体を維持しておかげな、と思う。

 すると、太らなそうで体にいいものを選んでとるべきだろうが……


 牛乳、だろうか。


「なんかないか、牛乳を効率よくとる方法は」


「飲めばいいじゃないですかー」


「却下。もっと工夫がほしい」


 飲み物をとりすぎると消化に悪く胃の調子にもよくないから却下。

 それに腹にたまらないからあっというまに空腹になってしまう。


 雑談とはいえ上司に提案を却下された部下が、

「そんなふうに切って捨てるから行き遅れるんですよ」

 そういってきたので羽ペンを投げつけて彼女の額に突き刺しておく。


「牛乳、牛乳か……」


 料理に使うことは知っているし、よく菓子に使われていることも聞いた覚えがある。

 しかし牛乳を食べ物としてたくさんとる方法を知らない。

 リゾットにでもすればいいのだろうか? 料理が苦手な私にはむずかしそうだ。


「とりあえず喫茶店にでもいけば、まぁバイトがなんとかするだろう」


 そういうことになった。

 皆目見当もつかないがあいつに丸投げしておけば悪いことにはならないだろう。


「せんぱーい、外で男でも捕まえたんですかー?」


 また部下が口をはさんできたので、今度は文鎮でツインテールの真ん中をたたいておく。





          §





「そういうわけで牛乳をたくさん使ったものが食べたい。はやくしろ」


「うちはレストランじゃないんですけど」


「ぐだぐだいう男は女々しいぞ。はやくしろ」


 しぶしぶという顔をしたバイトが腕を組んで悩み始めた。

 さすがはひとりで店を任されているだけあってすぐに色々と案を出してくる。


「基本はお菓子が中心ですけど、デザートを食べにきたんですか?」


「腹いっぱい食べにきた。空腹で気が立っている。はやくしろ」


「この人さっきから語尾が『はやくしろ』で固定されてるじゃん」


 人前、それも異性の前であることも気にせず腹が鳴る。

 とにかく腹が減った。

 腹にたまるものをたらふく食べたい。


「グラタンなら作れますけど時間がかかりますよ。それまで待てますか?」


「待てない」


「んん~……なにがあったかなぁ……」


 頭を抱えて悩みはじめたバイト。

 ずっと腹を鳴らしているわたし。


 時計の音よりもおおきな腹の音がひときわ長く響いた。


「あ、たらこパスタとかどうですか。パスタだからすぐ作れますけど」


「はやくしろ」


「ッス」


 聞いたことのない料理だが、たらこパスタなるものに決まった。

 パスタならたしかに腹にもたまるし、牛乳と小麦の組み合わせは食べ合わせもよく栄養になる。

 強いていえば卵もほしいところだが、カルボナーラならともかく聞いたこともない料理に食材をたすよう注文するのは、素人がやってはいけないことだろう。


「それで、『たらこ』とはなんだ? チーズの一種か?」


「魚の卵です。こういうの」


 そういってバイトが見せてくれたものは、赤くてぷちぷちとした粒が固まったものだった。


「パスタにあうとは、もっといえば牛乳にあうとは思えないが……」


「ボクの世界ではパスタ屋なら必ずおいてある定番メニューですよ」


「そうか……まぁ、頼んだからにはいただくとしよう」


 どうにも珍味のたぐいに思えてすこし不安になるが、バイトの腕前はたしかなものだからプロに任せるとしよう。

 

 私の腹がぐうぐうとなる音をBGMにして、バイトが手際よく調理していく。

 時間にして15分ほどたったころ、ついにパスタが皿に盛りつけられた。


「どうぞ、たらこパスタ……えーと、クリーミーたらこパスタです」


「今ちょっと考えただろ」


「だって自炊以外でたらこパスタのアレンジなんて作ったことなかったから……」


 メニューにのっていない料理、ということになるらしい。

 急に飛びこんで妙な注文をつけたのは私なのでこの際は流しておく。


 チーズに似ている白いソースに包まれたパスタは、牛乳たっぷりでクリーミーな雰囲気がある。


「あのたらことかいうものが見えないが?」


「牛乳仕立てのクリームソースとまぜてあります。フォークでからめてごらんください」


 たしかにフォークでパスタとソースを巻いて持ち上げれば、ソースの中に粒々としたものが見える。

 牛乳のクリームソースとよくまざっていて、たらこの赤色はどこにもない。


「香りと見た目はいいが……それでは、いただこうか」


 背筋をしゃんと伸ばしたままフォークを口元までもっていき、たっぷりとフォークに巻いたパスタを口に放り込む。

 牛乳と塩コショウと、初めて味わう卵のような味わいと、たらこらしき魚介の気配。

 

 どれも濃厚な味ではあるが口の中でケンカすることなく混ざりあっている。

 そこに食べごたえのあるすこし固めに茹でたパスタの麺の歯ざわりを感じて心地よい。


「見た目は女性向けなパスタ料理に思えたが、意外と食べごたえのあるメニューだな」


「たらこもマヨネーズもごはんにあいますからね。そこに小麦と相性がいい牛乳を塩コショウで整えればこうなります」


「マヨネーズ?」


「卵を加工した調味料です。油っぽい感じがマヨネーズの味です」


「なるほど、この卵のような味わいと油っぽさがそうだったのか」


 どれも主張が強い食材と調味料に感じるが、そこはさすがプロらしくきちんとマッチしている。

 このパスタならいくらでも食べられそうであるし、なかなか空きがこない味付けだ。


「たらこのプチプチとした食感が楽しいな。味も魚を塩漬けにしたような雰囲気で、塩気があるからパスタがすすむ」


「そういっていただけましたら幸いです」


 空腹のところに牛乳メインのクリームソースとパスタの香ばしいかおりを知ってしまっては食べる手が止まらなくなる。

 これはなかなかやみつきになる味で、すぐに皿が空になった。

 クリームソースも残すことなくパスタにからめてきれいにいただいた。


「貴様は菓子と茶にしか興味がない軟弱ものだと思っていたが、なかなかできるじゃないか」


「喫茶店は菓子と茶がメインなんですけど」


「これならレストランでもやれるんじゃないか?」


「うちの流派は菓子と茶を好むので」


「ならしかたないか」


 槍が得意な騎士に剣と盾をもたせるのも違うからなぁ。

 パスタは軽食に入るかもしれないが、もっとバイトの料理を食べてみたくなった。


 次はまた主食になるメニューを頼んでみようか。

 クリームソースに入っていたマヨネーズという調味料も気になることだし。

・堅物女騎士アグリアス

 生卵をジョッキで一気飲みできるタイプ。

 毎食かならず牛乳を飲んで毎日トレーニングしてる。

 

・部下@ツインテールの真ん中を文鎮でたたかれた女騎士

 好きなものは恋バナとスイーツ。

 翌日、行き遅れの上司が男とふたりきりで食事してきたと勘違いしてガチでびびったらしい。


 堅物女騎士の将来を心配される方は評価・ブックマークいただけましたら幸いです。

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