ロリ姫様、うちゅうじんと出会う。
「暇だ……」
一日の予定をぎっしり詰め込んでおいたら、思っていたよりもすぐ片付いて暇な時間ができてしまった。
すばやく予定を消化できたおかげで時間があまったとはいえ、忙しくしていたせいで疲れてきた。
「二回行動する元気もない……」
もはやベランダで夕日をながめ、小腹を満たすていどに夕食をいただいて入浴して寝るくらいしかやることがない。
夕方の4時すぎに気力が尽きてぼんやりしていると、なんだかもったいないことをしている気にもなってくる。
元気を充電するかこのままぼんやりしていようか、選択肢を頭の中でぐるぐると回しているだけで時間が過ぎていくし、時間をムダにしているようでほんのり罪悪感がある。
行動しなければと思いはしても私がいく先はどこも肩肘を張ってかしこまるお堅いところばかりであるし、そうなると逆に疲れて眠ってしまうかも。
「しかしリフレッシュする気力がない……」
あっというまに悩みが一周してスタート地点に戻ってしまう。
こうやっている間にどんどん時間が消えていくのだろうな。
背筋を伸ばさなくてもよく、それでいて食事ができる場所……
「たまにはひとりで喫茶店に顔を出してやるか……」
近ごろは客を連れていったり面倒ごとを持ち込んだりで、自分ひとりでバイトのやつと会う機会もなかったからちょうどよさそうだ。
たまにはひとりでアイツの暇を慰めてやるとしよう。
§
「ばいと、こうちゃ」
「はいただいまー」
なんか小さいのがいた。
私とおなじくらいかすこし小さいくらいの少女がいる。
店内のライトに照らされて光る銀髪と赤い瞳がひどく綺麗で、昔話に聞く吸血鬼のような非人間的な美しさ。
思わずびくりと立ち止まってしまったのもしかたがないだろう。
「バイト、なんだその子は」
しかし見た目以上に、おそらく同年代の少女が喫茶店にいるというシチュエーションが心をざわめかせる。
まさか、これが嫉妬……!?
「ラーズグリーズちゃんです」
「女の子にしてはいかつい名前じゃないか?」
「おやにいってほしい」
それはそうだな。
いつも座るカウンターの定位置に移動すると、そこはラーズグリーズの隣の席だった。
よく見れば長いローブは私の国では見たこともないような材質でできている。
どこかよその大陸の人だろうか。
「聞いてくださいよロリリア様、この子は宇宙人なんですよ!」
「うちゅう……なに?」
「異世界人です!」
「おまえもそうだろうが」
「えーと、ボクとは違う世界の異世界人らしいです」
「ふたり目だとレア度がおちるような気がするぞ」
「そうかな……そうかも……」
ウチュウジン、という異世界人らしい。
苗字ではなさそうだから、このラーズグリーズの世界からきた異世界人はウチュウジンと呼ばれるのだろうか。
バイトはカウンターの向こうで「宇宙人……宇宙人ってファンタジーで言ったらなんだろうな……もっとタコみたいなやつを連れてくればわかりやすいかな……?」などとつぶやいている。
異世界人の事情も複雑怪奇なんだろうな。私にはよくわからないが。
ふと、ラーズグリーズの手元に目を落とす。
「おねえちゃん、なに?」
「お姉ちゃん……!?」
生まれてこのかたずっとちんちくりんな体で生きてきて初めて言われたぞ……?!
「わたしよりえらそう。せもたかい……きがする? だから、おねえちゃん」
「う、うむ。たしかに偉くてぶん背も高いから、うむ、私がお姉ちゃんだな」
不思議と顔が赤くなってほおがゆるんでしまいそうだ。
顔がほころんで威厳が崩れるのを必死で隠す。
しかしバイトは微笑ましそうにしているから、私の心のうちはのぞかれてしまっているようだ。
「並んでいると姉妹か親戚に見えますよ?」
「うるさいぞ」
「まあまあ、可愛らしくてよろしいと思いま……いて、痛い!」
カウンター裏から出てきてお冷とおしぼりを持ってきたバイトの脛をける。
うるさいぞ、貴様。
「それで、なんだ、ラーズグリーズとやら」
「なーに?」
「それはなにを飲んでいるのだ?」
「こうちゃ」
「カラフルな茶葉が浮いていて普通の紅茶ではなさそうだが……」
赤・青・白のトリコロールな色をした花びらが浮いている。
香りもすこし紅茶と違うようだ。
「はい、紅茶と3色の菊の花びらをまぜたフレーバーティーの一種です」
「菊の花びら?」
「ヤグルマギクです。ボクの世界のとある王妃も愛した菊の花を浮かべました」
たしかにカラフルなだけではなく、白いカップの中でゆれているのをみると優雅な雰囲気がある。
しかし、ハーブティー……というかフレーバーティーか。
菊の香りはともかくとして私のような子供舌でも飲めるだろうか……。
「おねえちゃん、これ、おいしいよ」
「ふむ……まぁ、おまえがそう言うならいただこうか」
私よりすこし小さくみえる少女に飲めるのだから大丈夫だろう。
たぶん。
「それではお隣に失礼しまして」
バイトが茶葉の入った箱とティーセットを持ち隣にやってきた。
「おい、近いぞ。不敬だぞ」
「ふけいー」
「こちらのフレーバーティーには仕掛けがありまして、ぜひ間近でご覧になってください」
「本当か?」
「ほんと、だった」
それなら拝見するとしようか。
ティーポットは透き通ったガラス製でポットの中がよくみえる。
そしてカップもガラス製で、おそらくだがガラスのティーセットで仕掛けをみせるのが一番よいのだろうか。
「まず茶葉を入れます」
紅茶の茶葉にまざってトリコロールカラーの菊の花びらがポットの中に入っていく。
こうして見ているだけでも目に嬉しいものだが……?
「そして60度のお湯をポットに注いでゆきます」
するとお湯を注がれていくポットの中で、茶葉とトリコロールの花びらが踊るように混ざり合っていく。
水流にそってポットの上へと舞い上がっていく花びらはなんとも綺麗で、花の踊りを見ているようだ。
「む、むう……」
「きれい」
自分よりも小さい子の前だから大はしゃぎするわけにいかないが、これはたしかに見ていて楽しい。
お湯に浸かって紅茶の色にかわっていくが、それでも鮮やかな花びらのトリコロールは透き通ったガラスの中でもよく見える。
「ふ、ふふ……やっぱり姉妹に見えますよ、お姫様」
ラーズグリーズとふたり並んで机に突っ伏すようにしてポットの中をまじまじと見つめていると、背後でバイトが笑いをこらえているような気配がしたから脛を蹴っておく。
ラーズグリーズは不思議そうに花びらとバイトを交互に見ているが、フレーバーティーへの興味が勝ったのかお湯が紅茶の色になっていくのを観察するのに顔を戻した。
「たしかに綺麗だが、味はどうだ?」
「おいしかった」
「それでは期待させてもらおうか」
ヤグルマギクの花びらはオイルに浸されてあったのか、沈むことなくお湯を弾いて水面に浮かんでいる。
香りは、紅茶とハチミツの香り。
牛乳を入れたくなるがラーズグリーズは入れていないようなので、お姉ちゃんの私も普通に飲むとしよう。
わずかにカップをかたむけて、一口。
唇を濡らすように口の中へと温かい紅茶と花びらが注がれていく。
菊の香りは、わずかな風味づけ。
マイルドでほの甘いアールグレイの味と、ハチミツの柔らかく優しい味がまざっていく。
「落ち着く……」
疲れて気力が尽きたところに飲むと、じんわりと胸の奥があたたかくなって元気が湧いてくる。
リフレッシュには最適な飲み物だな。
「おねーちゃん、ぎょうぎ、が、いい」
「そうか? ……そうかもな」
たしかに王族だから礼儀作法はきびしく叩き込まれているが、面と向かって褒められるのは初めてかもしれない。
……ふむ。
「おまえにも教えてやろうか?」
「いいの?」
「私の妹だ。一人前のレディならそれらしくしてもらわないとな」
「れでぃ」
「ほら、机にべちゃっと寝てないで背を伸ばしなさい」
背中に定規が入っていると例えられるまでビシバシ鍛えてやるからな。
「ひ、姫様。ほんとに姉妹みたいでっ」
後ろでバイトが笑いをこらえている気配がした。
新しくできた妹の前でからかわれて威厳を失うわけにはいかないので、先手を打って膝を蹴って黙らせておく。
・ラーズグリーズちゃん
ナイフとフォークは握りしめるタイプ。
このあとめちゃくちゃお姉ちゃんに教わった。
・ロリリア様
マナー講師を礼儀作法で撃退できるタイプ。
このあとめちゃくちゃ妹分を可愛がった。
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