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22/25

砂漠の王族は傷心中。

「また女性にフラれてしまった……」


 通算98連敗。

 この顔の良さと地位の高さにひとりくらい釣れてもいいんじゃないかとはじめた通りすがりの女性を口説くことも、引くに引けなくなってついにこんなところまで来てしまった。


「世間体を理由にやめたくても『ナンパ王子』のイメージは出来上がってしまったな……」


 ついには道端の子供にも「またフラれたの?」と聞かれる始末。

 にっこり微笑んでハンサムらしくあしらうまでがセオリーになっている。


「今日もただ散歩するだけなのに花束までもらってしまった……」


 花屋のおばさまに「うちの花があれば口説けますよ」なんて言われて持たされたが、逆におばさま店員を口説いたらバラの花でたたかれた。

 もうなにかの仕込みなんじゃないかと思うくらいフラれる。


「やめようと決意しても体が勝手に動くのはもう癖になってるんだろうな」


 今日こそやめようと決めても数時間後には口説きはじめて頬をたたかれるまでが一連の流れ。

 気がつくと女性の前にひざまづき、ふとした瞬間に花を差し出し、いつのまにか愛の言葉をささやいてしまう。

 そろそろお祓いに行った方がいいかもしれないが、うちのメスガキ占い師は「でもキャラとして覚えてもらえるだけマシですよ」なんて言い出して寝転がって仕事をしない。


「国に帰ろうかな……ハメを外しすぎたんだ」


 はじめての外国、規律が厳しく自由のない宮廷からでてきた若い男、なにもおこらないはずがなく。

 珍しい花が売っていれば花束にしてもらって異国の女性を口説くなどという悪い癖がついてしまった。

 これでは故郷に帰って寺院で修行するくらいしか解決手段が思い浮かばない。


 が、しかし。


「でも98連敗もしてるんだからそろそろ1勝くらいしておかないと恥ずかしくて帰れなくない?」


 ここで諦めるのも情けない気がする。

 ラストチャンスに賭けて99回目のナンパに出かけるとしようか。





          §





「99回目の敗北を刻んできたよ」


「今の成功する流れじゃなかったの!?」


 負けたから傷心中の自分をなぐさめるために喫茶店へきた。

 さすがにちょっと涙が出てしまったな。

 カウンターに座ってバイト君に愚痴っている今も涙がこぼれる。


「めずらしく話を聞いてくれる女性だったから、これはもう成功したと思ったんだよ。そしたら去り際に『このあと彼氏とデートなので』ってね」


「わ、悪い女……!」


「その前には『もっとマクトゥーム君の話を聞いていたいなぁ』なんて言ってくれてさ」


「思わせぶりな態度……!」


「それが15分前の話かな」


「うちの店に直行してきたのかよ……!」


 ふふふ、さすがに人前で泣く姿は見せられないからね。

 ちょっとだけ泣きながら路地裏の扉に魔法のカギを使ってお邪魔している。

 ちょっとしか泣いてないからね。ほんとだよ。


「なんか、ないかな。傷ついた心にもしみわたるような優しいものは……」


 フラれるのにも慣れてきたと思ったけど、こうも手ひどくフラれてしまうのは初めてのことで胸が痛いな。

 人の優しさはもらえなくても食べ物くらいは優しくしてほしい。


「それではカフェオレと……パンケーキもつけておきましょうか」


「ありがとう、なによりの薬だ」


 あっ優しくされてちょっと涙が出てきた。

 ちょっとだけだからな。


 コーヒー豆が挽かれるゴリゴリという音は耳に心地よく、どんなコーヒーが出てくるのだろうと期待させてくれるし、傷心中の身には気晴らしになって嬉しいものだ。


 ほろりとこぼれてくる涙をハンカチでそっとふきとると、バイト君がコーヒーにミルクとハチミツを混ぜはじめた。


「それがカフェオレかい?」


「コーヒーとミルクまでがカフェオレ、ハチミツを混ぜるのは簡単なアレンジです」


 コーヒーの苦味は悩みを消しとばして元気をくれるが、ミルクとハチミツの優しい甘さがあれば心の痛みも上書きしてくれそうだ。

 パンケーキというのがなにか知らないけれども、カフェオレを見たかぎりではこれも食べて落ち着くものなんだろう。

 カウンターに頬杖をついてぼーっとしているうちに、どちらも完成したようだ。


「こちら、カフェオレとパンケーキのセットになります」


「これがパンケーキ……小麦粉の生地を焼いただけに見えるね」


「ここになんとヨーグルトソースをかけます」


 香ばしい狐色のパンケーキを白いヨーグルトソースが上書きしていく。

 これはこれで見ていて美味しそうだ。


 まずはカフェオレをかたむけてみる。


「……うん、ミルクで割ってハチミツもかけていたから甘すぎないかと気になったけど、優しい味に落ち着いているね」


 雨の日に窓ガラスのそばでゆっくりと飲んだら、時間も忘れて幸せに過ごせることだろう。

 忙しい日の終わりに飲んで体と心を落ち着かせるのに最適かもしれない。


「パンケーキはどうかな?」

 

 ふんわりとした生地はナイフを押し返そうというほど弾力があり、切り分けると断面にヨーグルトソースが流れていく。

 これもなんだか甘そうだな?

 ナイフとフォークで生地にソースをのせていただく。


「あんまり甘くないね?」


「酸味を重視してあります」


 口の中がサッパリとした酸味が広がって、カフェオレの落ち着く味と違って気分が晴れるような感じがする。

 そして酸味が残っているうちにカフェオレを飲んでみれば、口の中で優しい味と晴れやかな酸味がブレンドされて悩みが消えていくようだ。


 大きな生地を2枚も出されたときはただの軽食にしては多いのではないかと思ったけれど、こうして食べてみるとあっというまになくなってしまった。

 もっと食べたいような気もするが、これ以上な夕食にさしつかえるから今日の間食の食べ納めとしておこう。


「悩みが風に流されて暗い気持ちも晴れていったよ。期待以上だった」


「ありがとうございます」


「それじゃあ次は、口説き落とした女性を連れてくるとしよう」


 気を取り直してナンパを続けるとしようか。

 ただではおきないのが俺の強みなんでね。

・砂漠の国からやってきたマクトゥーム王子

 このあと気合を入れてナンパしたら脅威の101連敗を達成した。


・99連敗目の思わせぶりな悪い女

 数日後、悪役令嬢ちゃん(自称)の手によってこれまでも悪事がバレてロリリア様の前で断罪されたらしい。


 マクトゥーム殿のナンパを応援される方は評価・ブックマークいただけましたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 王子様、目の前のバイト君にアドバイス貰おう なにせ彼は強火のガチ勢がたくさんいるし
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