宮廷料理人、OL向けワンプレートランチを食べにくる。
「バイトォ! 喫茶店にはカフェ風プレートなる食事があるそうだな! 食べさせてもらおうか!」
敵情視察!
宿敵に頭を下げるのは癪だがスカーレット姫様のためとあらば頭を下げるくらいはわけないぞ。
姫様の笑顔のためならなんだってやってやる!
「ひさしぶりに喫茶店みたいな注文をされたな……」
バイトはといえば、のほほんと呑気にコーヒーを飲んでいる。
昼休憩の時間にコーヒーのかぐわしい香りがする湯気をくゆらせながらカップをかたむけるとはキザなやつ。
しっかりと休憩をとっている宿敵を17連勤中に見ると額に青筋が立ちそうになる。
「聞けばガレットもあるそうじゃないか、それをもらおうか」
「うちにガレットがあることはどこにもいってないと思うんですけど」
「ルーシェはあるといってたぞ!」
「ルーシェってだれ……?」
「聖剣に選ばれた勇者」
「前世の日本知識で決めつけたな、あの子……!」
まさかルーシェのニホンがここにきて役に立つとは思わなかった。
聞けば一等地にあるカフェレストランなら女性客の行列ができるほど人気でお腹もふくれるというおしゃれなガレット、きっとスカーレット姫様のフルコースに出せばお褒めいただけること間違いなし。
メニューを盗まさせてもらおうか!
「ガレット、ガレットかぁ……」
「なにか問題でもあるのか?」
「主食と主菜をいっしょにしたガッツリご飯系と、ふんわりスポンジなスイーツ系で分かれるんですけど」
「ガッツリご飯系で」
「オーダー入りまーす」
スカーレット姫様にお出しするならしっかりとしたご飯の方がポイントを稼げるだろう。
ソバ粉なら消化もよく、朝食に出してもお昼に出しても夕食はたっぷりと食べていただけるだろうな。
「今ならドリンクとセットにできますが」
「コーヒー、砂糖たっぷりで」
残り4連勤を乗り切るためにも砂糖とカフェインの力で疲れを吹き飛ばしておきたい。
この連勤が終わったら家でぐうたらするんだ……
「で、ガレットを作るところは見れるんだろうな?」
「いいですけど、なにも特別なことはしませんよ」
「知ってる。料理対決の時も観察してたからな」
「あの対決で相手を見てたとか余裕あるなこの人……いやプロだったわ」
コーヒーをかたむけながら調理するバイト(変な名前だな)をじーっと観察する。
見た目から察するに20になったばかりくらいだろうが、その割にはテキパキと作業していく。
「えらく手際がいいじゃないか。どこで修行した?」
「実家の手伝いと、アルバイトくらいです」
「ほぉ、一子相伝の特訓というわけか」
「なんか勘違いされてんな……」
なにやら言い訳するバイトの口はともかくとして、喋りながらでも丁寧にガレットの生地を広げていく。
しかしガレットの生地の色がすこし変わっている。
ソバ粉と小麦粉だけではないようだ。
「ガレットの生地にはなにを混ぜた?」
「ソバ粉、小麦粉、あと米粉も入れておきました」
「コメ粉?」
「はい、これで生地が柔らかくなります」
ガレットはパリパリとしている方が好きだが、料理対決でバイトが出してきた料理に使われていた「コメ」の加工品らしいから、物は試しに食べてやるとしようか。
生地の上に白身をなるべく均等にヘラで広げ、その上に具材を置いていく。
チーズ、ほうれん草、サーモン。
卵の黄身は見た目が整うよう綺麗に中央に位置していて、客の目を楽しませる工夫もしていることがわかる。
「からめ手だけの卑怯者だと思ったら、まともに作れるじゃないか」
「あれはそれしか勝ち目がなかっただけですよ」
「勝手に百合に挟まったくせに」
「勝手に自分が百合だと勘違いしてるくせに」
なんだこいつやっぱり刺しておくべきだったか?
しかし料理人は刃物を握って人を幸せにする職業なので、この恨みはニンニクを包丁の腹で潰す時までとっておく。
あれ固くて面倒なんだよな。
「どうぞ、サーモンのガレットとサラダのプレートです」
「ふむ、見た目は問題なさそうだな」
端っこをたたんだガレットの生地は、きちんと中央に卵の黄身があって周囲をサーモンとほうれん草、そしてチーズが包まれている。
これなら見た目も華やかで食欲もわいてくる。
「いただきます」
そっと生地にフォークを刺してナイフを押し込めば、パリパリとしていながらもどこか柔らかい感触がかえってくる。
「不思議な感触だな。これがコメ粉か?」
「はい、そのための米粉です」
切り分けたガレットの生地にサーモンとほうれん草をのせ、チーズをからめて口に運ぶ。
たしかに、コメ粉のおかげか外はカリッと中はモチッとしたガレットの食感が強調されていて、生地の食材を増やす工夫は大成功していると認めざるをえない。
味も小麦のかぐわしい香りの中にサーモンとチーズとほうれん草が、山の幸と海の幸がいっしょになって見事に混ざりあっている。
コーヒーもなかなかオイリーだから口の中が油っぽくなるのではと思ったが、さっぱりとした野菜でリフレッシュできる。
悔しいが、認めたくないが、これは旨い。
「ううむ、ガレットは時間がない時にさっと腹を膨らませるまかない料理として作ったことはあるが、立派な一品にできるものだな」
ガレットの生地と具材だけではなくサラダもいっしょにのせてほおばってみるのも、行儀は悪いがこれはこれでなかなか旨い。
いろんな食材が口の中でちょうどよく混ざりあって、食材の味がよく活かされる。
サラダは蛇足ではないかと思ったが、カリカリふわふわのガレットにサーモンの切り身とサラダのしゃきしゃきとした食感。
噛めば噛むほどシンプルな料理とは思えないくらい、いろいろな楽しみと美味しさがあってよくできている。
「なんだ、まともに料理が作れるんじゃないか」
「それでも宮廷料理人なんてプロ中のプロと戦えるわけないじゃないですか」
ちょっとは見直してやってもいいかもしれない。
ガレットのプレートは女性の胃袋でも食べ切れる上に、栄養バランスもしっかりと考えられていて元気が出てくる。
たまには食べにきてやってもよさそうだ。
・宮廷料理人ジュスティー
自分を身分差百合の片割れだと勘違いしている。
このあと21連勤のはずが25連勤に増えた。
・聖剣
別に使い手を選ぶ機能はついてない。
・全自動食材調達機(仮)
指紋認証機能で使い手を選ぶ。
宮廷料理人にお休みをあげたい方は評価・ブックマークいただけましたら幸いです。




