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コミュ障マスター、久しぶりに姿を見せる。

「資料が見つからないよぉ……」


 山のように積み重なった巻物の中でうめいても状況は変わらない。

 書庫の中は適当に放り込んだ巻物や書物が乱れに乱れてどこになにがあるのかさっぱり思い出せない。


「これなんだっけ? 異世界転移? じゃあこっちが異世界転生……違った、『撫でた相手が惚れる魔法』だ!」


 ジャンルで分けてないから総当たりで探していくしかない。

 こういうことがあるたびに「整理しておけばよかった」と思うけど、ここまで集めてしまうと面倒くさくて整理したくない。


「どこかにないかなぁ……『勝手に整理整頓してくれる魔法』……」


 昔そんな魔法を使った記憶があるけど、欠陥品で書庫の中を台風が通り過ぎていった。

 逆に混沌としてしまった。


「もうやだぁ……研究したくないよぉ……」


 ヤダヤダとだだをこねていたら全自動掃き掃除君3号(ホウキ型)がペチペチとたたいてきた。

 自分で作った魔法道具にもゴミだと認識されてるボロ雑巾が僕です……


「床で寝てもいい? ベッドまでいくの面倒くさいんだけど?」


 ホウキはまだ僕をたたいてくる。

 ダメっぽい。


 あとバイト君の故郷で買ってきたルンバも参戦して僕をたたきはじめた。

 道具にまで邪魔モノ扱いされてすごくツライ。


「いいよ、君たちがそんなに言うんだったら出てってやる!」


 横目で魔法道具たちの反応をうかがってみる。

 ある程度は言葉に反応するようにしてあるからなにか動きがあるはず。

 僕がいなくなって空いたスペースを丁寧に掃除するだけで無反応。


「ぐ、ぐぎぎ……いいもん! バイト君にコーヒー淹れてもらうから!」


 ルンバが鼻で笑うようにピロピロと音を立てた。

 おまえ後で捨ててやるからな!

 ゴミ箱がどこにあったか忘れたけど!





          §





「たまにはお店に姿を見せようと思って……」


「姿は見せても顔は見せてくれないんですよね」


「へへへ……」


 フードをあげて顔を見せるのは難易度が高いっていうか……

 目を合わせる前にキョドって逃げ帰るはめになっちゃうもん……

 人差し指を合わせながらもじもじとやっていると、バイト君のため息が聞こえてくる。


「へへ……こんなマスターでごめんね……」


「挙動不審な以外は最高のマスターですよ。もっと自信を持ってください」


「生まれてから一度も持ったことないかも……」


 マントの下には肩を出した縦セーターを着てきたけれど、バイト君の前で肌を出すのが恥ずかしくてマントが脱げない。

 このバイト君は不敬にも豊かな果実を横目で見ては「うお……でっか……」と呟く癖があるから、胸を強調した服装でせめようと思ったんだけど。


「魔法が使えて、異世界にもいけて、便利な道具をたくさん作れるじゃないですか」


「フへへ……」

 

 そう言われてもお店を任せてる従業員の前で顔も見せられないくらい自信がないからなぁ。

 ますます赤くなって挙動不審になっちゃう。


「マスター」


「な、なに……ひゃっ」


 急に手を取らないでくれるびっくりするでしょ!

 そう口で言えたらいいんだけど驚いちゃって声も出ない!


「ボクはマスターのこと好きですし、あなたが嫌だと思うことはしませんから、安心してください」


「ひゃいぃぃ……」


 好き!? 好きって言った!? 

 もうゴールしてもいい!?

 LOVEってこと!?


「好きってもしかして……」


「likeです」


「そんなぁ」


 べちゃっ、と机の上に突っ伏す。

 手をとって「好き」なんて言うんだからもういくところまでいってもいいじゃん。

 こんな行き遅れで引きこもりで色々と持て余してる魔女をもらってくれそうなの、バイト君しかいないじゃんね。


「素直で可愛かった少年が、思わせぶりな青年になっちゃって、お姉ちゃんは悲しいです」


「マスターみたいな人が常連だったせいじゃないですか」


「昔は僕の方がもっと口が強かったのにぃ……」


「あなたに鍛えられたんですよ」


 昔はよかったなぁ。

 バイト君は実家の喫茶店でお手伝いしてる可愛い子で、ほっぺを突いたりからかってみたら真っ赤になって恥ずかしがってくれたのに。


「今じゃあ可愛くなくなっちゃったぁ……」


 代わりにウェイター服が似合う好青年に育ってしまって、バイト君の顔を見るのも恥ずかしくなるようになっちゃった。

 可愛がってあげた子が立派な青年になったのだと思うと、男子じゃなくて男の人だと意識しちゃって僕の頬が赤くなるもの。


「マスターは可愛くなりましたよ」


「ふえっ」


「立場が逆転すると、こんなに可愛く見えるんですね」


「昔の僕は可愛くなかったっていった?」


「だって意地悪してきたじゃないですか」


 ぐぎぎぎぎぎ。

 もっと好感度を稼いでおけばとこんなに後悔したことはないよ。


 僕がにらんでもバイト君はどこ吹く風。

 慣れた手つきでコーヒーを淹れている。

 くっ……小さいころはおっかなびっくり淹れていたのに、今では息をするように自然にやっている。


「はい、キャラメルクリームを溶かしたミルクコーヒーです」


「甘いものたすかる……この甘い香りだけでストレスが溶けてく……」


 コーヒーカップを揺らして香りをたてるだけで幸せな気持ちになれる。

 三徹目でぐずぐずになった頭の中もすこしずつ冴えてくる。

 疲れて冷えた指先を温めてくれるコーヒーの熱が嬉しい。


 舌が火傷しないように息を吹いてからゆっくりとカップをかたむける。

 キャラメルクリームの優しい甘さをコーヒーの苦味とミルクのコクが引き立てて、忙しくてささくれた心からトゲをとってくれる。


「おちつくぅ……」


「ありがとうございます」


「この一杯のために生きてるよぉ……」


 身体中に優しい甘さが広がって、カフェインが眠気を打ち消してくれる。

 何日も徹夜してると涙が出るほど美味しい。


「けっこうなことですけど、徹夜しなければいいじゃないですか」


「ゲームって発売日当日にやりこみたくなるよね」


「分かりますけどマスターは一年中それをやってるじゃないですか」


「ぐう」


 だって苦しいけど体が勝手に研究しちゃうんだもん。

 魔法オタクに生まれたからにはもう治せないじゃん。


「マスター」


「なんだよぉ……追い討ちならもういらないよぉ……」


「いつでもお待ちしていますから、疲れたらまたきてくださいね」


 おまえ、おまえな。

 そういうところだぞ。そういうことを言うから女の子が勘違いしちゃうんだぞ。

 悔しいけどまた来ちゃうんだよなぁ。

・コミュ障マスター

 いろんな異世界を旅している途中、ふらっと立ち寄った現代日本の喫茶店で働く少年に即オチ2コマをかまして逆光源氏した。

 バイトとふたりっきりの時は普通に喋れる。


 コミュ障マスターに甘いコーヒーを飲ませてあげたい方は評価・ブックマーク等いただけましたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] マスターもしや不老不死な人? しかし警察よぶべきか、もしくはアグなんとかさんか
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