色ボケ聖女、レアチーズケーキを祝福する。
「ええ!? 甘いもの禁止なんですか?!」
あまりのことに神聖な聖堂であることを忘れて叫んでしまいました。
糖分とは今日を生きる活力、早朝に起きたくないなーと思いながらもがんばってお布団から起き出すためのエネルギーです。
それを奪おうとは許せません。
「食べ過ぎ、太り気味、オーケー?」
「認めたくない!」
「認めなくても現実は追いかけてくるんですよ」
修道院長の厳しい言葉が突き刺さります。
聖女に向かってなにを偉そうに。
「私が歌って踊れば信仰心も寄付金もガッポガッポじゃないですか。甘いものくらいご褒美に……ね?」
「太ったらヘソ出し衣装で歌って踊れなくなりますよね」
ぐうの音も出ない。
なんだったら胸のあたりがキツくなってきたからそろそろ新調しないと着れなくなりますし、そうなると衣装代がかさんでしまいます。
「……夕食を削るとか」
「ダメです」
「朝食なしとか」
「逆に太ります」
「お、お昼ご飯すくなめ……」
「お菓子を食べるなと言っています」
そんな……貴族や政治家のおじさま方に笑顔を振りまいて握手するストレスを発散するには甘いものを食べるしかないのに……
それを奪われてしまったらどうすればいいのでしょう。
人知れずぬいぐるみを殴って発散すればよいのでしょうか。
「人の好きなものを奪うのはダメだと思うんです」
「聖女が食生活の乱れで太ったらダメですよ」
口では勝てません。
こうなったら実力行使に出ましょう。
「食べさせてくれなかったらお祈りにも出ませんから!」
「別に私がやるからいいですよ」
「う、歌って踊れる聖女をやめて普通の人に戻っちゃいますから……」
「それは本人の自由ですからね」
なにをいっても勝てません。
前に給料交渉をした時よりもなお強くなっています。
「私、聖女ですよ? もっとチヤホヤしましょう? 甘やかして?」
「今までが甘やかしすぎたと反省しています」
「ぐ、ぐぐぐ……」
「女の子がそんな声を出すんじゃありません」
ぐぎぎー!
こうなったら最後の手段です。
いくら食べても太らないケーキを隠れて食べてやります!
いざ悪魔の巣食う異端の喫茶店へ!
§
「あるっちゃあります」
「さすがは異端者、悪いことを考えさせたらピカイチですね」
「ボクの立ち位置が分かんなくなってきちゃったな」
こういうことは専門家に丸投げするのが早いのです。
私が自分で作ろうものなら聖女の加護でバフがかかってしまい、気がつけば王宮に献上されるハメになってしまいますからね。
それならプロに作らせて聖女の私に献上させればよいのです。
「それでどんなケーキですか? ホイップクリームたっぷりのホールケーキ? お皿いっぱいのリンゴのケーキパイ?」
「木苺のレアチーズケーキです」
「チーズ……!? 聞くだけで体重が増えそうです!」
「レアチーズよりもスポンジの方がダイエットの大敵ですが……最新技術でなんとかなります」
「なるほど、禁忌ということですね。聖女として受けて立ちましょう」
「そのうち『くっ、殺せ』とか言い出すんじゃないかなこの人」
そんな野蛮なことをするはずがありません。
聖女パワーで神々しい光を放って消し炭にするまでです。
「それでその、太らないと偽って私を肥えさせようというのではないのですね?」
「それをやったらこの喫茶店が信用を失いますから、大丈夫ですよ」
「とかいっていますが、実際のところは?」
「ちゃんと糖質制限レアチーズケーキなので安心してください」
「トーシツセイゲン……?」
「気をつければ太らない食べ物です」
ふーむ、《真偽判定》にも引っかかりませんし、嘘ではないようですね。
嘘だったら聖女パワーで罪を償わせるところでした。
人目もありませんしお行儀悪く頬杖を突きながら、このバイトなる人がレアチーズケーキを作っていくのを眺めてみます。
慣れた手つきでサクサクと調理をすすめて、時たま透明な袋から取り出したお砂糖や小麦粉を使っていますが、それ以外はおかしなところはありません。
「その小麦粉、なんだか変じゃありませんか?」
「これは小麦粉ではなく、食物繊維を粉末状にしたものです」
「ショクモツセンイ」
「太らなくする工夫です」
初めて聞く言葉ですが、まあいいでしょう。
毒でもあっても、神様の加護でなんか無効化できますし。
太らないケーキというから味気ないものかと思っていましたが、贅沢にもホイップクリームとレアチーズもたっぷりと使っているではありませんか!
もし仮に普通のケーキだとしても美味しければ聖女ポイントを進呈いたしましょう。
「白いものをそんなにたっぷりと……ああ、私を肥えさせてどうしようというのでしょうか、なんといやらしい……ホイップクリームたすかります」
「この国って脳みそピンク色しかいないんかな」
失敬な、これでも清楚でおしとやかな聖女として尊敬を集めているのですよ。
修道院のみんなにはそう言ったら鼻で笑われましたけど。
そうこうしているうちに、「太らないレアチーズケーキ」が完成しました。
「見た目は普通ですね」
「太らないからといっても、美味しそうな見た目の方が嬉しいですから」
それはそうです。
さて、真っ白なレアチーズケーキの上にのった真っ赤な木苺が可愛らしくて見た目は100点満点ですが、味と栄養の方はどうでしょうか。
「いただきます」
ふわふわのホイップクリームと濃厚なレアチーズの層をフォークで切り分け、ちょっぴり硬めなスポンジを割ります。
そして、一口。
舌の上でなめらなかレアチーズとホイップクリームが溶けていき、サクサクとしたスポンジの食感が濃厚です。
「美味しいレアチーズケーキです。しかし、これでは太ってしまうのでは……?」
「味も栄養も工夫いたしましたので、大丈夫です」
「もしかして太った方が好みとか?」
「いっぱい食べてくださる方が好みです」
嘘は言っていないようですね。
しかし、食べれば食べるほど普通に美味しいレアチーズケーキとしか思えなくて、次から次へとフォークがすすみます。
「こちら、砂糖を使わず人工甘味料を使いまして、糖分をおさえてあります」
「ジンコウカンミリョウ」
「錬金術で作った太らないお砂糖だと思ってください」
「それはショクモツセンイと同じようなものですか?」
「はい、糖質が高い小麦粉の代わりに食物繊維の粉末を使うことで、糖分と炭水化物をおさえました」
聞けば聞くほど専門用語が出てきてよく分かりませんが、サクッと鑑定的な聖女の加護を使っても、とくにデバフとかおかしなステータスはありません。
それに言っていることも本当のようですし、ひょっとしたらひょっとして太らないケーキなのでは……!?
「食べすぎたら太ります」
「そんなー!」
「カロリーゼロってのは嘘なんですよ」
えんえん。泣きながらケーキを食べます。
しかし三時のおやつタイムにまたケーキを食べられるなら文句はありません。
ありがたくいただきましょう。
「それで、お代の方ですが……」
「聖女であるこの私に献上する名誉を差し上げましょう。いくらでも食べさせてくださっていいんですよ?」
「またツケか……」
自分の作ったケーキを食べさせる。
これ以上の名誉はありませんからね?
・脳みそピンクな聖女様
頭の中も髪の毛もピンク色。
目線を送って微笑むだけでファンの歓声が轟くらしい。
色ボケ聖女様にたくさんケーキを食べさせて“理解らせ”たい方は評価・ブックマーク等いただけましたら幸いです。




