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宮廷料理人、王子と王女が入り浸る店を潰しに来る。「料理対決だぞ」「そうはならんやろ」 【後編】

 ドアを抜けるとそこは王宮の厨房であった。

 ぴかぴかに磨き上げられ、指で触れてみると全面大理石の豪華すぎるキッチンだった。

 つるしてある鍋など調理器具を見ると、このキッチンがこの国で一番の設備と納得もできる。


「なんでただの喫茶店のバイトがこんなことに……」


「料理対決だぞ」


「そうはならんやろ」


「そういうことになっている」


 キッチンの出口から貴族っぽい人やメイドさんたちが覗いている。

 初めて見る貴族やメイドさんは、コスプレじゃなくてその服を着てその人たちらしく生活している現実感があった。

 ただごとではなくなってきたことにようやく頭が追いついてきた。


「来たな! バイトとやら!」


「そろそろ自分の本名も忘れそう」


「ここが貴様の墓場、私のクトー・デ・シェフ(洋出刃包丁)が地獄に送ってやる!」


「ジャンプのグルメ漫画なんだよなぁ」


 一時のテンションに身を任せて対決を受けたらこうなった。

 冷静になると勝負を受けたのは間違いだったんじゃないかと思いつつも、それはそれとしてケンカを売られたからにはしっかりとやり返しておきたい。


「それではこちら、審査員のスカーレット姉様だ」


「おいしいご飯が食べられると聞いて飛んできました!」


「この人がより美味しいと思った方が勝ちだ。腕を振るうんだぞ」


「スカーレット様ー!」


「ひとりそれどころじゃないのがいるんですけど」


 騒がしい参加者はさておき、料理対決は始まる。

 さっと見た限りでは設備に差はない。

 食材と道具の持ち込みは許してもらえたので、使い慣れた道具をはじめに必要なものは持ってきた。


「おい、バイト」


「はい?」


「期待しているぞ」


「任せてください」


 魚だって何度も何度も調理してきた。

 あとはいつものように、スカーレット様が食べたこともないようなものを出すだけだ。


「向こうの料理は……」


「正々堂々と打ち負かしたいから貴様にも教えてやる、私が作るのはスカーレット姫様の大好物、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』だ!」


「すごくフランス料理って感じ」


 胸を張ってビシッと指をさしてくるジュスティーさん。

 自信満々で自分が負けるなんて想像もしていないようだ。

 美人さんだからポーズが格好良く決まっている。

 

 しかし、鯛とキノコとバターか。

 旨み成分が豊富で食べ応えがある。


「ごはんとかパンとかは付けないんですか?」


「宮廷料理のフルコースだぞ、一皿に決まっている!」


「なるほど……」


 ちらりと審査員のスカーレット様に視線を送ると、「バイトさーん♪」と手を振ってくれた。

 ついでにジュスティーさんの射殺すような嫉妬の視線を感じる。


 しかし、そんなに旨みのある料理が出てくるのにごはんもパンも、つまり主食としてお腹いっぱい食べられるものはナシか。

 しかもスカーレット様はごはんをお腹いっぱい食べるのが大好き。


「勝機はそこかな……」


 精密な手つきで鯛をさばいていくジュスティーさんを横目に、こちらも調理を始める。

 まずは最初に、電源いらずで持ち運びできる携帯炊飯器を取り出す。


「バイト、喫茶店でも見たことないぞ」


「これはお米を炊く道具……ボクの切り札です」





          §





「よし、完成だ」


 調理が終わった。

 ジュスティーさんの方に目を向ければ、自信満々に胸を張って汗を拭っている。

 ボクの方も、喫茶店のバイトにしては完璧なものを作れたと思う。


「それではまず、ジュスティーちゃんの料理からいただきましょうか」


 スカーレット様はナイフとフォークを持って食べる気満々。

 はやくお皿がこないものかと待ち遠しそうにしている。


「どうぞ、『鯛のポワレ、キノコ煮込みと焦がしバターソース』になります」


「ん~、いつものやつですね!」


「ええ、スカーレット様の好物です」


「いっただきまーす!」


 ボクに対抗してかドヤ顔で匂わせアピールしてくるジュスティーさんをよそに、スカーレット様は嬉しそうに料理に取り掛かる。


 フライパンでカリッと焼きあげられた鯛と柔らかく煮込まれたキノコに、香ばしい焦がしバターソースをかけてある。


「い、いい香り……」


「そうだろう、秘伝の味だ!」


 思わず生唾を吞み込んでしまうほど美味しそうで、対戦相手のボクも食べたくなってきた。

 もしレストランで他のお客さんが食べているのを見たら、ボクも同じメニューを注文したくなるくらい美味しそう。


 ふんわり柔らかい身とカリカリの皮をナイフで切り取り、その上にキノコを乗せて、たっぷりのバターソースを絡めていく。


「ふへへ、あーん♪」


 大きく口を開けてぱくりと放り込む。

 上品なコース料理の一品だけあって、いつものスカーレット様にしては一口の量が少ない。

 お腹を満たすというよりも味わうための料理だからそれでいいのだろうけれど、やっぱり喫茶店で山盛りのパスタを食べるスカーレット様と比べたら、いつもと違う感じが拭いきれない。


 もくもくとお行儀よく咀嚼して、こくりと飲み込んだ。


「うん、うん」


「いかがでしょうか……!」


「バターソースの奥に感じるレモンの風味が旨みをよく引き出していますね」


 それをオリーブオイルが白身魚の淡泊な味とあわせてしっとりまとめあげているのだろう。

 焼き魚とキノコ煮込みを合わせた男性好みな味の濃い料理に見えて、繊細な感覚で味を整えているようだ。


「うん、キノコのくにくにとした芯のある柔らかさと白身魚のふんわりとした柔らかさ。食感の違いも楽しいです」


 料理は味だけじゃ決まらない。

 他の食材との相性といっても、同じ料理に使って食感や香りがどうなるかまで考えないといけない。

 宮廷料理人の総料理長だけあって、さすがの一言。


「はふぅ……♪」


 スカーレット様が満足そうにナイフとフォークを置いた。

 口直しに水をかたむける姫様は満面の笑みで、極上の魚料理を食べられてすごく嬉しそう。


「豪快な料理に見えて繊細な味付け。あなたの料理を食べられて私はとても幸せです」


「あ゛り゛か゛た゛き゛幸゛せ゛て゛す゛」


 推しから感謝の言葉を投げられて、ジュスティーさんは泣きながら微笑んで幸せに包まれている。

 対戦相手とはいえちょっぴり羨ましい。

 

「それではバイトさんの料理をいただきたいのですが……」

 

「はい、こちらの()()()()になります」

 

「どんぶり!?」


 ジュスティーさんたち外野からどよめきが広がる。

 まさか宮廷の本格的なコース料理を作れと言われて丼飯を出すバカはいないだろう。

 ボクがそのバカだ。


「魚は入っているようですね?」


「はい、『()()()()()()()()()()()()』です」


 蒲焼きにしたサンマを卵でとじた、シンプルな丼料理。

 コース料理にふさわしくないと一蹴されたらそれまでだけれど、本職に勝つならこれしかない。


「そんなどこのものとも分からん料理をスカーレット様に食べさせるのか!?」


 外野のジュスティーさんが抗議しているようだ。

 しかし肝心のスカーレット様は顎に手を当てて考えている。


「なにかお考えがあってのことですね?」


「はい。今の自分に出せる最高の一品だと言えます」


「それならご馳走になるのがグルメというもの」


 スカーレット様がお祈りをするとスプーンを手に取った。

 柔らかいサンマの蒲焼は簡単にほぐれ、玉子と三つ葉とタマネギを巻き込んでスプーンにすくわれていく。

 

「異国の料理でしょうか、知らない香りがたくさん……」


「めんつゆ、という地元の……日本の調味料を使っています」


「ふむふむ」


 醤油、出汁、みりんなどを混ぜた一般的な調味料。

 でもサンマの蒲焼きは料亭で出しても恥ずかしくない格式ある料理で、卵とじ丼にしたのはスカーレット様の好みにあわせるため。

 自信は、ある。


「いただきます」


 スプーンいっぱいにすくったサンマの蒲焼きとごはんを、大きく口をあけてほおばった。

 もっきゅもっきゅと頬をふくらませて咀嚼して、その豪快な食べ方にジュスティーさんも「スカーレット様……!?」と驚きを隠せない様子。

 ボクとしてはこっちのスカーレット様の方が馴染み深いんだけれど。


 大きく顎を動かしてほっぺたいっぱいに詰め込んだサンマと卵とごはんを嚙みしめて、ごっくんと飲み下す。

 

「はぁ……」


 大きくため息をひとつ。


「いかがでしょうか?」


 山盛りパスタをたくさん食べていたスカーレット様に、この丼ごはんはどこまでやれるかどうか。

 じーっと丼に目を落とすお姫様の姿に一抹の不安がある。

 ちょっと目線を外してジュスティーさんを見れば、ドヤ顔で腕を組んでポーズを決めている。


「ごはんを入れたらコース料理から外れますよね?」


「はい。それでもスカーレット様にはお腹いっぱい食べてほしかったからです」


「お魚の照り焼き……蒲焼きでしたか? それにしたのも同じ理由で?」


「そうです。これなら飽きることなくごはんを丼で何杯でも食べられます」


「お米の甘味とサンマの旨み……よくマッチしていますね」


 スカーレット様はボクの言葉を聞きながらも次から次へと口の中にスプーンを運んでいく。

 質問はしたけれど上の空なようで、ごはんを食べることに集中している。


 あっという間に丼一杯を空にした。

 米粒ひとつ、三つ葉の欠片ひとつ残さずきれいに食べてくれた。


「いかがでしたか」


 自然と声も緊張してしまう。


「……たしかに、宮廷のコース料理としては落第点かもしれません」


「うぐっ」


 コース料理は味を楽しむ格式ある料理、そこにお腹いっぱい食べるための丼ごはんが出てきたら場違いだろう。


「でも、バイトさんは私にお腹いっぱい食べてほしかったんですよね」


 スカーレット様の声は優しくて、お姉さんが弟に話しかけるような声だった。

 ふとお姫様の顔を見れば、ボクの方を向いてにっこりと微笑みかけてくれている。


「なんだかいつも、食べたりなさそうにしていらっしゃいましたから」


「ふふふ。そうかもしれませんね」


 くるくるとスプーンを回すスカーレット様。

 料理対決の審査員というよりも、恋人のことを考える女性に見える。


「勝敗を決めました。ジュスティーちゃんもバイトくんも、どちらも最高の料理でしたよ」


「スカーレット様ァー!」


 ジュスティーさんは勝利を確信しているのか、褒められて嬉しいのか飛び跳ねている。

 ボクはといえば、自信ある一品とはいえまぁまぁ不安……!

 

「ジュスティーちゃん、いつも美味しいお魚をありがとうございます。これからも励んでくださいね」


「ス゛カ゛ー゛レ゛ッ゛ト゛さ゛ま゛ぁ゛ー゛」


「このガチ恋勢けっこううるさいぞ」


 推しに認知されてしかも毎日ごはんを作れるんだからしかたないかもしれない。

 赤スパチャで数えたら何回分の認知度になるんだろう。


「それでは、バイトくんですが」


「ひゃい」


 初めての料理対決で緊張して舌を噛んじゃった。


「たしかにこれは、コース料理ではなかったかもしれません」


 それはそうだ。

 いくら挑戦的な創作レストランだって、フルコースの魚料理(ポワソン)に丼いっぱいのごはんを出してくるバカはいない。


「でもこれは、私のことを考えて作ってくださったのですよね」


 そしてスカーレット様がボクの方を向いた。

 緊張して赤くなっているボクに、お姫様が微笑みかける。


「料理にこめられた私への気遣いの差で、バイトくんの勝ちです。……お代わりくださいな♪」


 丼を差し出すスカーレット様の笑顔がまぶしくて、その丼を受け取るまで時間がかかってしまった。

 ヒマワリが咲くように輝く笑顔に魅了されてしまったのも、耳まで赤くなりながらお代わりを作ったのも、スカーレット様には気づかれていないと信じたい。

・スカーレット様

 強火のガチ恋勢その2


・ロリリア様

 急に姉が女の顔をみせて料理対決どころではなくなった。


・宮廷料理人総料理長ジュスティー

 推しが急に女の顔になって灰になった。

 次は肉料理で勝負を挑む予定らしい。


 スカーレット様にお腹いっぱい食べさせてあげたい方は評価・ブックマーク等お願いいたします。

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[良い点] 強火のガチ恋勢あと何人増えるのか [気になる点] バイト君の懐事情とか [一言] 初めて感想を書きます。 これからも応援しています。
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