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宮廷料理人、王子と王女が入り浸る店を潰しに来る。「料理対決だぞ」「そうはならんやろ」 【前編】

「お前を殺して私も死ぬッ!」


「美人シェフに包丁を向けられて心中させられそうになったことある? ボクは現在進行形で遭遇してる」


 お昼時に備えていたらコック帽を被ったままヘドバンする女シェフさんがやってきた。

 しかも鋭利な包丁を構えて殺気をこちらに向けている。

 包丁はよく研磨されていて、包丁の腹を見るにかなり使い込まれている。


「それってお魚用の柳刃包丁ですよね。フレンチの魚料理も綺麗に捌けるんだろうなぁ」


「そうだ! ロリリア様やスカーレット様の胃袋を支えてきたのはこの包丁だ!」


「あのワガママボディはこの包丁が生み出したのか……」


「そうとも! 私の料理を美味しそうに頬張るあの方々の笑顔が生き甲斐だったのに……!」


 女シェフさんが泣き出した。

 泣きながら包丁をこっちに向けるその姿はすっごい怖い。


「なんかごめんなさい……」


「最近ではお代わりも控えめになって、聞けばこの店でお腹いっぱい食べてくるという!」


「あれだけ食べても後でお代わりしてたの!?」


 パスタ3杯は朝飯前、食後のデザートもお代わりして持ちかえりまでしていくスカーレット様の胃袋はどうなっているんだろう。

 栄養はだいたい胸にいっているから大丈夫かもしれない。


「それを貴様のせいで……昨日はメインディッシュを2回しかお代わりしなかった!」


「1回でも多すぎませんか!?」


 聞けばこのジュスティーさん、子供のころから料理一筋で宮廷料理人になるのが夢だったという。


「そしてついに総料理長の座を手にし、王族のディナーを任されるようになったのに!」


「すごい叩き上げのエリート」


「それをポッと出の喫茶店だかなんだか知らない店に寝取られるなど……!」


「寝てから言ってほしい。その以前にすごい不敬」


「こうなったらお前を殺して私も死ぬしかないッ!」


「料理の話なんだか痴情のもつれなんだか分からなくなっちゃった」


「スカーレットさまぁーっ!」


 わんわんと泣き出して手がつけられなくなってきた。

 それほど敬愛されていると和むべきか、今のうちに慰めてあげるか悩むところだ。


 可哀想なので背中をさすってあげる。

 シェフの制服はきちんと洗濯されていて、包丁も綺麗に研いであることを考えると細やかな気遣いができる人なんだろう。

 その気遣いでボクへの殺意を抑えて欲しかったが?


「ぐすっ……ふぐぅ……ぇぇ……」


「成人女性のガチ泣きとこんな間近で見ることない」


「おまえに……ひっく……しょうぶをいどむっ……ぅええ」


「大丈夫? そろそろ吐く?」


「りょうりしょうぶだぁ」


「この流れで料理対決を!?」


 できらぁよ……やってやらぁよ……!

 料理マンガで育ちキッチンに立った料理人が一度は夢見るもの、それがグルメバトル。

 まさかガチ泣き成人女性から挑まれると思ってなかったけど、それはそれとして一回やってみたかった。


 がた、と椅子を引く音。


「話は聞かせてもらった」


「ロリリア様!?」


 いつのまにか入店していたロリリア様が立ち上がり、扇子をバッと開いて威厳を出す。

 小さすぎて店にいらしたことにまったく気づかなかった。


「ジュスティー、お前の忠誠心は私にも響いたぞ」


「スカーレットさまにいってほしかったぁ」


「不敬がすぎるんですけど」


 ロリリア様が額に青筋を立てながら床を蹴る。


「しかしお前のように腕の立つシェフを、そしてそこのバイトも失いたくない」


「もったいないお言葉ぁ」


「先にツケを払ってから言って欲しかった」


 そろそろ諭吉さんが欲しくなってきたのでどうにかしたい。

 でもなんでか毎回お金がもらえないんだよな。


「そこで! 料理の腕を競うことで禍根を残すことなくお互いに納得してもらおう」


 何を納得すればいいのか。

 包丁を向けられたことか、命を狙われたことか。


 たぶん両方とも見逃せということだろう。

 必死でウインクして許してくれの合図を送ってきてるもん。

 お客様が笑顔で帰れるならそれで幸せなのに……。


「料理は、スカーレット姉様に相応しい魚料理とする!」


「わたしの得意料理ぃ」


「喫茶店で魚を……!?」


 なんだろう、純喫茶でサバカレーを出すお店は知ってるけど、少なくともフルコースのメインディッシュにふさわしい料理じゃない。


 ここは美味しいコーヒーと軽食の喫茶店だったはず、それがどうしてフレンチだかイタリアンだかのコース料理のメインディッシュを求められているんだろう。


「あの、ロリリア様、ここ喫茶店……」


「貴様の腕ならばいい勝負になると信じているぞっ」


「やだ……つぶらな瞳で見つめてくる……」


 本当にボクは本職の宮廷料理人に太刀打ちできると思われているようだ。

 お客様の期待には背けない。

 なんとかして美味しい魚料理を仕上げて、勝たなければならない。


「おまえを……ころす!」


「まだ諦めてなかったのかこの人」


 重すぎる期待と命の危機。

 ここは本当に喫茶店なんだろうか?

・ロリリア様

 突然の昼ドラを察してずっとスタンバッてた。


・宮廷料理人総料理長ジュスティー

 妄想癖が激しく、一度思い込んでしまったら止まらない。


・スカーレット様

「王族は食後のデザートを3回以上お代わりしてはいけない」と法律で決められそうになっている原因は、この人の大食いで食費がかさむから。

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