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捕虜

「なにっ! ザミエル殿が戻らないだと? それはまことか!」

「そうなの。今朝、私に街に行ってくると言って、馬で出かけたんだけど、まだ帰って来てないのよ。なにかに巻き込まれたんじゃないかと心配で・・・・・・」


 皇城から戻ってきたばかりのマクシミリアンに、ロサが真剣な表情で駆け寄るとすぐに、小声で不安そうに訴えた。


「さすがにもう夜も遅い・・・・・・。衛士には確認したのか?」

「城下町の衛士のところで馬を預かってもらい、夕方には戻るからと言って、街の中へ歩いて行ったそうよ」

「うむ・・・・・・。ロサ殿、このようなことは今までにもあったのか?」

「いや、初めてじゃないかな・・・・・・。今日はアルベルティナ様のお茶会があったから私は行けなかったけど、いつもなら一緒について行くし・・・・・・」

「・・・・・・フム、ザミエル殿も男だ。ひょっとしたら色町で羽目を外してしまい、帰りが遅いだけなのかもしれん。もう少し様子を見て、待ってみたらどうであろう?」


 マクシミリアンはニヤリとしながら、ロサを落ち着かせようと軽口をたたいたつもりだった。

しかし言った途端、後悔する。


 ロサの顔からスンッと表情が消え、血の気が無くなり、顔色が白いのを通り越して青白くなった。

これはロサが手を付けられないくらい、怒っているという証だ。


()()()()()()()()()()()殿()()、大変お忙しいところ、お手間を取らせてしまい申し訳ございませんでした。どうか私の非礼をお許しくださいますよう、何卒お願い申し上げます。それでは、私、これにて御前を失礼いたします」


ロサはバカ丁寧にそれだけ言うと一礼し、クルッと身を翻したと思ったら、あとは無言で館の出口へ向かおうとする。


「待て待てロサ殿! どこへ行くのだ?!」

「決まってるでしょ! 私一人で城下町に行って探してくるわ! もうあなたには頼らない!」

「待ってくれ、すまなかった! 吾輩が悪かった! 探しに行くなら手を貸そう!

ではこうしようではないか。吾輩は馬車を用意して、騎士を何人か連れて後から追いかける。ロサ殿は先に行きたいなら、誰か近衛騎士をひとり連れて行くといい。そのほうが門を通過するにも、聞き込みをするにしても捗るだろう」

「・・・・・・わかった。じゃあ先に行くわ」


 ロサはマクシミリアンの返事も待たず、走り出す。




石動は、なぜか自衛隊時代に戻っていて、何処かの災害派遣現場にいた。

自分で「これは夢の中なのだ」と自覚しているのを不思議に思ったが、何故なのか、その答えは出ない。

そして、この現場がどの災害のどんな現場なのかは、はっきり分からない。

また自分が今、必死に掘り返している土砂に埋もれた家屋が、地震によって山津波が起きて倒壊したのか、豪雨によって土砂崩れが起こり埋まったのかもわからない。


 ふと見ると、同僚の自衛隊員たちが救助のために懸命に土砂を掘り返している傍で、家屋の中で両親が生き埋めになっているらしい10歳程の少年が、呆然と立ち尽くして石動たちを見ていた。

 少年が着ているキャラクター物のパジャマは泥だらけで濡れそぼり、土砂で汚れた頬には涙が流れた筋が残っていた。

 少年の石動たちを見つめる目は、何も映っていないのではないかと思えるほど、冥い。


「こんなところにいては危ないぞ! 誰か、その子を早く安全なところに避難させてやってくれ!」


 石動は隊員たちに叫ぶが、誰もが黙々と土を掘り返すだけで、少年を保護する様子が無かった。

 それならと自分が連れて行こうと石動は駆け出そうとするも、まるで水中で歩くように歩きにくい。それでも、もがくように進むうちに土砂に足を取られ、前のめりに泥の中に転んでしまった。


 石動が起きあがると土砂に埋もれた家屋も少年の姿もなく、すっかり場面が変わっていた。当然、着ている迷彩服は濡れてもいないし、泥汚れなどひとつもない。


 どうやら何処か学校の体育館のような施設の前で、設営されたテントの中に立ち、炊き出しを被災者に配っている所のようだった。

 家族で避難してきている人たちが多いのか、老若男女が静かに並んで炊き出しの温かいカレーを受け取っている。


 その中に、明らかに一人ぼっちで並んでいる少女がいた。


 小学生ぐらいだろうか。

 まだ幼く細い肩を落とし、ピンク色のパーカーを着てフードを被ったまま、前かがみでゆっくりと進む列に並んでいる。


 石動はその少女が何故か気になった。

 まるで白黒の画面の中で少女のピンクのパーカーだけが天然色で浮かび上がっているかのような、奇妙な感覚に囚われる。


 そして列が進み、ついに少女の番が来て、石動はカレーの入った容器を彼女に渡す。


 少女は石動からカレー容器を受け取ると、俯いていた顔を上げて笑顔を見せた。


「ありがとー、ザミエルさん!」


 少女の顔には大きなマスクがあり、手にはいつの間にか霧吹きが握られている。

 シュッという音と共に霧状の液体が顔にかかり・・・・・・


 石動はハッとして、意識を取り戻した。 



「ああ、ザミエルさん、目が覚めたかなー」


 石動が目を開けると、目の前にはニコニコと笑顔を見せる、路地の奥で助けたはずの美少女がいた。

 ・・・・・・いや、あの時は気がつかなかったが、服装や声、態度に少女というには違和感がある。

 ひょっとして少年なのではないか、と石動は考え直す。

 

 目が覚めた石動は、どうやら今は堅い椅子に座っている様だ、と自覚する。

 なにしろ頭痛が酷く、頭全体がガンガンした。なんだか、まだ眩暈も残っていてクラクラするようだ。考え事がまとまらない。

 なんだか気分が悪くなってきて、横になろうと身動ぎすると、身体が自由に動けないことに気がついた。


 頭痛どころではなくなった石動は、自身の状態を確認しようと足元を見ると、床に固定された太い金属の骨組みだけのような椅子に縛られた足首が見えた。

 首を廻して振り返ると、金属製の椅子の背もたれの後ろで両手が縛られているのが感じられる。

 

 石動は内心慌てながら、自分の格好を確認しようと見直す。

 するとホルスターに入った拳銃や予備カートリッジを入れたポーチなどを取り付けていたベルトは無くなっていた。もちろん短刀も無いので、文字通り丸腰だ。

 ズボンとブーツだけは履いている。


 上半身はキングサラマンダーのフード付マントや皮鎧も脱がされ、木綿製のアンダーシャツ一枚のみだ。当然、背負っていたマジックバッグも無い。

 しかし左手首に巻いた、亜竜の革で造ったリストバンドは取られてなかった。


 つまり、ほぼ完全に武装解除され、いわば捕虜になっているわけだ。

 ようやくそう認識した石動の背中に、冷たい汗が流れる。

 完全に嵌められた。

 おそらく、目の前でにこやかに笑う、この少年(?)によって・・・・・・。

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