表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/160

亡霊 ‐ファントム- ①

キリが悪いので、少し短めです

帝都の城砦の外に広がる門前町――――――。


城砦の中の町とは違い都市計画もないまま自然発生的に、そして無秩序に広がったため、城塞の門へ向かう街道などの大きな道から外れると、細く入り組んだ道が多い。

細い道沿いに立つ石造りの街並みは、ともすると巨大迷路の壁のようで、不用意に奥に入り込めば、住んでいるものでないと迷ってしまうだろう。

そんな門前町の中でも特に込み入った場所にあり、下層とされる人々が住む一角がある。


帝都の城砦から吐き出される大量のゴミに加え、門前町のゴミまで処理する巨大なゴミ集積場がある一帯のことだ。

毎日絶えることなくゴミが焼却場で焼かれ、山と積まれたゴミの山を燃えるものとそうでないものを分別し処理するため、多くの人間が働いている。


働いているものの中には子供も多い。

彼らは門前町の中を走り回ってゴミを集め、また集まって山となったゴミの山を掻き分ける。運良く売り物になるものを見つければ元締めのもとに持参して買い取ってもらい、日々の生活の糧を得る。


そんな場所でも、いやそんな場所だからこそ、係わる人間が多ければそれを取り纏める組織が生まれるのは人間社会の必然だ。


最初は人夫同士の諍いを仲裁するとか、トラブルを解決するだけのものだった。

人が増えるにつれ、それは次第に大きくなり、仕事の割り振りや人材の派遣も仕切るようになり、賃金など金銭がらみの決定権を持つようになる。


それが「組合」だ。


ゴミ集積場周辺で働く者達は「組合」に加盟していなければ、仕事どころか生きていけないようになるまで、それほどの時間はかからなかった。


「組合」のトップは組合長であるアードリアンである。

出生は誰も知らない。いつの間にかこの町に居着き、中心となって「組合」を創り上げた。その手腕は誰もが認めるものであり、その過程では平気で後ろ暗い事でもこなす力と度胸があった。人々はそんな彼のことを、恐れを込めて「首領(ドン)」と呼ぶ。


深夜ともなればゴミ集積場の火も絶え、住民たちは朝早くからの過酷な労働に疲れてすっかり寝静まり、ゴーストタウンのように人通りが絶えてしまう。


そんな深夜の人通りの絶えた一角にある目立たないアパルトマンの一室で、ふたりの男がテーブルに置かれた蝋燭の灯を挟んで向かい合っていた。


椅子に座り、テーブルの向こうで椅子に目もくれず、ウロウロと歩き回っている男を眺めているのは「首領(ドン)」アードリアンだ。


「フリンよ、少しは落ち着いたらどうだ? 一杯やるかね?」

「これが落ち着いていられるか! 我々の諜報員(インフォーマー)たちが次々と消えているんだぞ。どうやら帝国諜報部が動いているようだ。ようやく帝国内での協力者による情報ネットワークが完成間近だったというのに。計画の見直しが必要ではないか?」

「その件は本国には既に報告してある。おそらく、君には一時撤退せよとの命令が届くはずだ」

「それはいつ頃の話だ? このままでは下手すると我々の首も危ういぞ!」


 フリンと呼ばれた男が怯えた様子で、食いしばった歯の間から不満を訴える。

 その時、部屋の隅の暗がりから、気の抜けたような声が発せられた。


「そうだねー、危ういよねー、もう遅いけどねー」


 ハッとして声のした暗闇を凝視する二人。

 アードリアンは愕然とする。

何人もの手下を使ってこのアパルトマンの「浄化(クリーニング)」は完璧におこなっていたはずだ。

なぜこの部屋に自分とフリン以外の人間が侵入している?!

警備の者はどうしたのだ?


蠟燭の光が届かない真っ暗な部屋の隅で、誰かが立ち上がる気配がした。


「もういいかなー、話は終わった? それなら、ちょっとボクと一緒に来てくれないかなぁ?」


音もなく蠟燭の光の中に歩いてきたのは、小柄な少年のような人物だった。

「少年のような」としたのは、薄明りでも分かるほどの美しく整った顔立ちで、まるで美少女のようにも見えたからだ。声も中性的だったため、判断に迷ったせいもある。


「誰だ!」

 我に返ったフリンが、腰から刃渡り30センチほどのタガーナイフを抜きながら叫ぶ。

 アードリアンはじっと少年のような侵入者を見据え、テーブルにあったグラスを手に取り、口に運ぶ。

 侵入者はフリンを無視して、アードリアンに向かって道化たようなお辞儀をした。


「ウフフ、はじめまして、【首領(ドン)】アードリアン。ようやく会えたねー、長かったよ。我が帝国にウィンドベルク王国の諜報網を張り巡らせた手腕はたいしたものだったよねー、帝国諜報部もなかなか尻尾を掴めないほどだった。でもあなたはやり過ぎたなー」


 少年のような侵入者はにこやかな笑みを浮かべて、アードリアンに微笑みかける。


「上手にやりすぎて、僕らが引っ張り出されることになっちゃうほどにね」

「・・・・・・ほう。ということは帝国御自慢の暗部がご登場という訳かな。光栄だ。よければ二つ名などをお聞きしても?」

「ボクは【亡霊(ファントム)】って呼ばれてるんだー、短い間だけど、よろしくねー」

「ホホッ、それは恐ろしいな」


 アードリアンは平静を装って、再びグラスを傾ける。

 なんてこった! 暗部が出てくるとは。しかも二つ名持ちだ!

 非常にマズい事態だ。こいつらは何処まで知っているのか?

【作者からのお願い】


皆さんからいただくご感想やご意見、評価にブックマークなどが、私の燃料になります。


これからも書き続けていくためには、皆様からの応援が不可欠です。 


良かったら評価とブックマークをお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ