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監視

 馬車と近衛騎士一行は皇城の門を過ぎ貴族街を抜けて、帝都入り口の城門も衛兵に止められることなく最敬礼されて走り抜けた。

 帝都城外にある町を過ぎ、麦畑などを走り抜けると、丘陵地帯と草原が広がっている。

 草原の先には森や林も点在しているが、見渡す限り平野が広がっていて、高い山などは視線を地平線のほうに彷徨わせないと見つからない。


「このあたりは随分と広い平野がひろがっているんだね。ミルガルズ山脈を越えるとこんな風景だなんて、思いもよらなかったよ」

「エルドラガス帝国の中でも帝都周辺は、ミルガルズ山脈からの大河が3つも流れてましてね。大河が氾濫するたびに山から土を運んできて、広い平野になったと小さい頃に学校で習いました。今は河川の灌漑工事が進みましたから、氾濫することは少なくなったようですが」

「ふ~ん、そうなんだ・・・・・・」


 サンデル騎士の話を聞いて、石動はなんとなく、前世界の関東平野の成り立ちに似ているな、と思い感心する。


「川沿いの街道をまっすぐ進めば、海に出られますよ」

「へぇー! 機会があれば行ってみたいな!」


 石動はしばらく海産物を食べていないことを思い出し、本気で行ってみたいと歓声を上げる。

 そのとき、姿を消しているラタトスクから、冷静な念話が届いた。


『ツトム、注意して。どうやら監視されてるみたいだよ。気付いてる?』

「(いや、全然気づいてなかったわ。ラタちゃん、ありがとう。それで、どんな感じ?)」

『見通しのいい場所だからね。露骨に跡をつけられているというより、どちらかと言うと街道沿いに見張りが何人かいて、連絡を取り合っている感じかな。隊列が通り過ぎるたびに、後ろで慌ただしい動きを感じるよ』

「(ふぅん・・・・・・。街道でなにか仕掛けてくるつもりだろうか?)」

『どこかに罠を仕掛けている可能性はあると思うけど・・・・・・ちょっとまだ情報が足りなくて何とも言えないな』

「(そうか、わかった。気を付けるよ。また何かわかったら教えてね)」

『ああ、任せてくれ』


 念話を終えて周りを見渡すと、街道には行商人や旅人風の夫婦など様々な人たちが大勢行きかう姿が見え、石動にはのどかで平和な風景にしか思えない。


「(どいつが間諜や見張りなんだろう? さっぱり区別がつかないな)」


 石動は見張り役を見つけるのを諦め、ウィンチェスターM12のフォアアームを前後にスライドさせると、薬室にマグナムバックショットを送り込み、フォアアームを閉じる。

 そしてチューブマガジンに、一発補弾してフルロードにしておくのを忘れない。

 

 サンデル騎士は、石動がさっきまでにこやかに話していたのに急に雰囲気が変わり、いきなり辺りを見渡したかと思うと、ジャキンッと音をたてながら銃に弾薬を装填させるのを見て驚き、おもわず声をかける。


「ザミエル殿、何かありましたか!」

「いや、ちょっと嫌な感じがしたんでね。すこし警戒しようかと思って・・・・・・」


 サンデル騎士からの問いかけに、そう答えながら石動は油断なく前方と周囲に気を配る。



 そんな石動の様子を見て、行商人の身なりをしてロバに荷物を載せ、ゆっくりと馬車の傍を歩いていた諜報部の男が驚く。

「(しまった! 気取られたか?)」


 しかし、自分に銃口が向けられることなく馬車が通過していくのを見て、内心冷や汗を掻きながらホッとする。

 御者台に座りながら現在も警戒を強めたままの石動の様子を、そっと横目で観察しながら、心の中で呟く。


「(ひょっとして、我々の監視に気づいたのか・・・・・・予想以上に勘の良い奴だな。あれだけ露骨に警戒されると、不意打ちでの奇襲は上手くないな・・・・・・。そうなると待ち伏せのプランは中止して、プランBに移行するように進言したほうがよさそうだ・・・・・・)」


 行商人に扮した男はマクシミリアンたちの隊列が完全に通り過ぎたのを見て取ると、さりげなく街道を外れ、休憩するような感じでロバを引き木立の中に入った。


 そして荷物の中から小さな箱を出すと、中に入った魔鳩をとり出す。


 魔鳩とは、魔物の鳥と伝書鳩を何代にも亘って交配させた帝国諜報部の秘密連絡手段で、小柄な体なのに普通の鳩の倍以上のスピードで飛ぶことができ、魔法防壁を纏うことで鷹などの猛禽類にもつかまらずに飛べるという特殊能力がある。

 男は素早く暗号文を組み立てて小さな紙に書き込むと、魔鳩の足に取り付けた小さな管に入れて蓋をした。

 それから魔鳩を空に放つと、飛び去る魔鳩を尻目に男はロバを引いて街道に戻り、再びゆっくりと歩き始めた。


 

 マクシミリアンの乗った馬車の隊列は、無事にその日に宿泊予定の町に到着した。


 道中、街道沿いの森に待ち伏せの気配があることをラタトスクが念話で警告してきたが、実際に襲撃されることは無かった。

 石動もラタトスクほどではないが、森の中に大勢の人の気配は感じていたので、周りの近衛騎士達にも警告したりして隊列に緊張が走ったが、何事もなかったので拍子抜けしたくらいだ。

 しかし、かえって手を出してこなかったのが、石動には不気味に感じられる。


一行はその町一番の宿屋の前で、宿の従業員がズラッと並び敬礼して出迎える中、馬車を停めた。

停まった馬車に近づき、ドアを開けるのは護衛隊長を務めるヘンドリック近衛騎士だ。


他の近衛騎士が周囲を警戒し、石動は馬車の御者台でウィンチェスターを構えて見張りをする中、まず馬車から安全を確認するためロサが降りてきた。

ロサが周りを見渡し、御者台の石動と眼があった時、石動が頷くとロサも頷き返し、馬車の中に合図する。


侍女に手を取られたアルベルティナ嬢が降りたのちに、マクシミリアンが堂々とした態度で降りてきた。

そして先に降りて待っていたアルベルティナ嬢の手をとると、ゆっくりと宿の中へと歩き出す。


【作者からのお願い】


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