幕間「旅の途中~ワイバーン討伐~」1/4
ここからは、クレアシス王国からエルドラガス帝国に向かう石動達のエピソードになります。
三話と書きましたが、四話になりそうです。
クレアシス王国からエルドラガス帝国に向かう道中には、大陸の背骨とも言うべきミルガルズ山脈が、高い壁となって立ちふさがっている。
街道は、そんな山脈の比較的低い谷あいを抜けるように走っているが、それでも標高は2000メートルを超えていた。
道幅も細く、馬車が擦れ違うのもギリギリという場所が多く、中には谷側はもちろんガードレールも無いので、見下ろせば切り立った断崖絶壁というところまであってスリル満点だ。
すこし麓の方に下がると緑の木々や平原が広がっていて、石造りの村が点在し、牧歌的な雰囲気を奏でている。
「(なんだか昔、テレビで見たキルギスとかタジキスタンとかの風景にも似ているな・・・・・・)」
石動は馬車に乗っていてもすることがなく、風景を眺めながらボーッとしていた。
ミルガルズ山脈を越える道程もようやく終盤を迎えていて、今晩国境の街に泊ったのち一山超えればエルドラガス帝国に入ることになると聞いた。
そこからは平坦な道が多いので、2日もあれば帝都に着くだろうという話だ。
まだ先は長そうだ・・・・・・。
そう思うと、石動はため息が出そうだった。
しばらくして、やっと国境の街に着き、宿屋前の広場で馬車を降りる。
そこは中心に尖塔がある円形の広場で、いくつか枝分かれした街道からのランナバウトの役目もするようなので賑やかだ。
あちこちから馬車が来ては走り去っていくのを横目に、石動とロサは広場に面した宿屋の前に立っていた。
広場の周りにはさまざまな商店が立ち並んでいるので、人の往来も多い。
そんな街の雑踏は、しばらくの間、あまり人気のない街道を走っていた石動達にとって、なんとなくホッとする光景だった。
護衛騎士のリーダーであるフィリップは宿の中に入り、宿泊の手続きをしている。
あとのヤコープスとサンデルは騎馬や馬車を厩の方に回しに行った。
宿はクレアシス王国に来る往路の途中で、あらかじめ予約しておいたらしい。
護衛騎士たち、流石、なかなか仕事ができる、と石動は内心感じいっていた。
ふとロサが空を見上げると、石動の袖を引っ張ると言った。
「ねぇ、ツトム。あの鳥、デカくない?」
「え? どれ?」
ロサが指さす方を見ると、街の背後に聳える山々の頂上付近を悠然と飛んでいる鳥のような生き物に気がついた。
かなり高いところを飛んでいるにもかかわらず、点ではなく翼を広げたシルエットが確認できている。
もっと低い位置で飛んでいる鳶のような鳥に比べても、相当大きいだろうと簡単に推測できるほどだ。
そのシルエットはみるみるうちに大きくなって、必死に逃げていた鳶を襲って嘴で捕らえた。
鳶の羽毛が空中で飛び散るのが見えた。
ククっと頭をあげて飲みこむような仕草をした生き物を見ていた石動は、空中で態勢を変えたそれと目が合ったような気がした。
するとその生き物は向きを変えて、街の広場を目指して急降下してくるではないか。
「ヤバイ! みんな逃げて!! 建物の中に入るんだ!」
「早く! 急いでこっちへ!」
石動とロサは、広場の流れに割って入り、避難するよう大声をあげて誘導する。
そうしながらマジックバックからM12トレンチガンを取り出し、フォアアームをスライドさせて薬室に九粒弾を送り込む。
ロサも隣で肩からマリーンM1895を下ろし、レバーを操作して45-70弾を薬室に装填した。
その頃には広場の人たちも空から襲ってこようとしている異形に気付き、悲鳴を上げて逃げ惑っていた。
広場の真ん中で迫りくる脅威に向かい、空に向かって吠え続けていた勇敢な大型犬が、飛来してきた巨大な生き物によって両足の鉤爪に捕まれてさらわれる。
犬を掴んだまま上空へと舞い上がった生き物は、器用に片足で掴んだ犬の頭を食いちぎり、飲みこんだ。ボタボタッと犬の血が雨のように広場の石畳に降り注ぐ。
犬を食べ終わった生き物は、再び獲物を狙う上空で旋回している。
石動は落ち着いてM12トレンチガンの狙いを、旋回する生き物につける。
横でロサがマリーンM1895を発砲したが、当たらなかった。
「ロサ、こういう時はリード射法といってね。標的のスピードに合わせて標的を少し追い越したところに銃口が向くようにして、身体をスイングさせながら撃つんだ」
石動が空を旋回する生き物にあわせて、左から右へ腰を起点に身体を捻りながら発砲した。
見事命中した九粒弾は右の翼を破壊し、生き物に悲鳴を上げさせる。
バランスを崩して錐もみ状態になった生き物は、広場の隅に落下し石畳に激突した。
石動は生き物に駆け寄りながらフォアアームをスライドして空薬莢を排出し、直接一発玉弾を薬室に放り込むとフォアアームを戻して閉鎖する。
生き物はまだ生きていて、近づいてきた石動達を首をもたげて、威嚇するように叫び声をあげた。
「ロサ、頭を狙えるか? 私は翼の付け根の心臓辺りを狙う」
「了解」
ふたりはほぼ同時に発砲した。ロサの放った銃弾は下あごから入り、脳を破壊する。
石動の放った一発玉弾の巨弾は、肺と心臓付近の臓器をズタズタにすると反対側へ抜けていった。
もたげていた頭が力なく石畳に崩れ、頭と胸からの出血が巨体の下から広がってきた。
石動がトレンチガンの銃剣の先で、眼球を突いても反応は無い。完全に絶命している。
死んだところで姿をじっくり見ると、鳥というより恐竜のプテラノドンとトカゲが混じったような生き物だった。
蝙蝠のような羽を広げると差し渡し10メートルはありそうだ。
身体には細かいトカゲのような鱗があり、空気抵抗を少なくするためか、ツルっとしている。
顔もトカゲのようだが、流線型ですらっとしていた。口はプテラノドンのような嘴ではなく、ワニを思わせるような鋭い歯が並んでいる。
ロサが石動に振り向いて笑う。
「やったね!」
「ヨシッ!」
石動とロサはハイタッチして、笑顔を交わした。
駆け寄ってきた護衛騎士のフィリップ達に後を任せると、ロサと石動は宿に戻ることにした。
ふたりで広場を横切っていると、避難していた建物から出てきた街の皆からお礼と握手攻めにあい、恐縮しながら宿へと戻ったのだった。
やっとのことで部屋で寛いでいたのも束の間、サンデル護衛騎士が来客を告げてきたので、已む無く応対することにした。
ちょうどフィリップ達も戻ってきたので、部屋では狭いから宿の食堂の一角を借りて座ることにする。
お読みいただきありがとうございました。
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