帝国への旅立ち
プラティウム王は宰相に目をやり、頷いて見せる。
頷き返した宰相は、巻紙のようなものを広げると、よく通る声で読み上げた。
「ザミエル・ツトム・ウェーバー殿。
貴殿は旋盤や銃の製造技術などの提供により、我が国の技術発展に多大なる貢献をもたらした。
よって、ここに名誉マイスターの称号を与えるものとする。
署名、プラティウム・レクス・クレアシス三世」
宰相は読み終えると、隣に控えていた従者を引き連れて石動の前まで進むと、立ち上がるように促す。そして証書と共に従者が手渡したケースに入った勲章を手渡してくる。
「おめでとう、これであなたも工房主の仲間入りだ」
「ありがとうございます」
宰相は微笑みながら石動に話しかけると、元の立っていた場所に戻っていく。
横にいたカプリュスが、石動の両手をとると、固く握ってきた。
石動は慌てて証書と勲章を脇で挟む。
危うく落とすところだった、と石動は冷や汗をかく思いだった。
カプリュスを見ると、涙ぐんでいる。
「ザミエル殿。あんたがワシに会いに来た時は、コイツ何考えてるんだ?って思ったのを覚えてるぞ。でもそれからの貴殿と過ごした日々は驚きに満ちていて、自分が更なる鍛冶の高みに登ることができる喜びでいっぱいだった。
貴殿との出会いに感謝だ! あんたの教えは万金の価値があった。
ワシはもうあんたを友達だと思っているぞ。ドワーフは決して友達を見捨てることはせん」
「ありがとうございます。本当に・・・・・・」
「帝国での用事が終わったら、必ず戻って来いよ! まだまだ相談したい事や、やりたいことが山積みなんだからな!」
「ハイッ! 必ず! それまでに錬金術師の育成もお願いしますね」
「うむ、まだまだ発展させねばな。任された!」
その様子を見ていた第一王子のアウルムが石動に声をかける。
「我が王家も貴殿の味方だと思ってくれて構わない。カプリュスの工房にある貴殿の部屋はそのままにさせておくから、何かあれば遠慮なく戻ってきて欲しい」
「儂も同感だ。これからもよろしく頼む」
プラティウム王からもそんなことを言われてしまうと、石動はそれ以上喋ると涙が零れそうだった。
だから、カプリュスの手を握り返しながら、無言で頭を下げるしか出来なかった。
マクシミリアン皇子が帝国に戻ってから三週間後、約束通り石動のもとに迎えの馬車が来た。
なんと護衛の騎士が三人もついている。馬車自体も王家の紋章が入り、豪華だ。
護衛の騎士が石動にマクシミリアン皇子からの書簡を手渡してくる。
中には手紙(早く来てくれという催促の内容)と、王家の紋章の入った通行証が入っていた。
これがあれば、国境だろうが王城の中でもフリーパスで入れるという破格のものだ。
石動も何とか準備は完了していた。3週間は短く、あっという間だったが、なんとか頑張った。
石動のいで立ちの姿にその成果が伺える。
マントの下には新しく両腰にホルスターを付けたベルトを巻いていた。
右腰の抜きやすいよう改良を重ねたホルスターにはSAAカスタムを入れ、左腰には出来たばかりのモーゼルミリタリーC96を、グリップを前にしてフラップ付きのクロスドロウ・ホルスターに収めている。
ベルト背中側に愛用の脇差風短剣を横にして収めることができるようにしたし、あとは予備弾薬を入れたポケットをいくつも取り付けた。
SAAカスタムのバックアップ用に造ったモーゼルC96は「ブルームハンドル」という渾名がついたオートマチック拳銃だ。
1896年に製造開始された大型拳銃で、1937年までに100万丁が生産された銘銃である。
第一次世界大戦で従軍した際に、後のイギリス首相である若き日のウィンストン・チャーチルが愛用していたことでも有名だ。
この銃の大きな特徴は、引き金の前方に銃と一体化した弾倉部分を備えていることだ。
箱型弾倉の開発に時間が足りなかった石動は、既に銃に弾倉を備えていて、コッキングピースを引いてクリップを差し込むことで装弾できるC96が最適だと考えた。
クリップで弾薬をまとめて上から押し入れる形の装弾方法は、すでにモーゼルライフルでも経験しているので、問題なく再現できるからだ。
使用する弾丸は7.63x25mmマウザー弾(通称30モーゼル弾)で、のちに7.62x25mmトカレフ弾の原型となったボトルネック型の高速弾だ。
弾速が速いので小口径の割には高威力なうえ、貫通力に優れている特徴がある。
装弾数も10発と多いのでSAAを撃ち尽くした後のバックアップには最適だったし、なによりカッコいいので石動は気に入っていた。
パズルのように複雑な内部機構を再現するのには、石動もいささか手古摺ったが・・・・・・。
マジックバッグはバックパックのように、背中に背負って固定できるよう、ベルトを取りかえてみた。マントに隠れるので外から見ても分からないだろう。
取り出す際は念じながら、背中の剣を抜くようにすれば、容易に取り出すことが可能である。
SAAやC96も試射を重ねてきたので、作動に問題ないことは確認済みだ。
ロサにもSAAやC96を試射してもらったが、どうもしっくりこないから使い慣れたマリーンM1895が良いと言う。
石動はそれならと、マリーンM1895の前後を切り詰めることで、ランダルカスタムとして新たにもう一丁作りあげてやる。
ランダルカスタムとは、1960年代の人気西部劇ドラマ「拳銃無宿」で、主人公ジョッシュ・ランダルが愛用した銃の名前だ。
まだデビューしたてのスティーブ・マックィーン主演の西部劇で、主人公はSAAではなく、銃身や銃床を短く切り詰めたウィンチェスターM92を使用してバッタバッタと悪人を撃ち倒した。
もちろん石動は世代ではないので見たことは無いが、モデルガンやエアガンでも販売されているから知っているし、ガスガンを所持していたこともあった。
それを真似て銃身を短くしたため、その下にあるチューブマガジンも当然短くなってしまう。
そのため、拳銃弾より長い45-70弾はチューブマガジンに3発しか入らず、チャンバーに1発入れても4連発にしかならない。
それでもロサは短くなって扱いやすくなったマリーンM1895ランダルカスタムを気に入り、特製の長いホルスターに入れて、右腰に吊るしている。
そして肩には負い皮を付けた18.5インチバレルのスケルトンストック付マリーンM1895を掛けていた。
ロサの弓一式は石動が預かって、マジックバッグに仕舞ってある。
もちろん、石動のM12トレンチガンにマリーンM1895、モーゼルKar98kにレミントンM700カスタムもマジックバッグに入っていて、それぞれで使用する弾薬も大量に用意した。
石動は、我ながら何という重武装だろうと、半ば呆れながらも開き直っていた。
下手をすれば、大国の諜報機関や暗部と渡り合うことになるかもしれない。
これは戦争なのだ、と石動は覚悟を決めていた。
本音を言えば重機関銃くらい欲しいところだが、手持ちの武器で何とかしていくしかない。
これくらいの武装は仕方ないだろう、と考えていた。
それにロサが背中を守ってくれるので、心強いことこの上ない。
見送りに来てくれたカプリュスやラビス、オルキス支配人らと抱き合って別れの挨拶を交わした後、石動とロサが豪華な馬車に乗り込むと、護衛の騎士が馬車の戸を閉める。
いよいよエルドラガス帝国に出発だ。
*これにて第二章が終了しました。
やっとドワーフの国での石動のクラフトが一段落します。
火薬や素材造りに苦労した甲斐もあり、石動の武装もある程度は完了しました。
幕間を三話ほどはさんで、第三章では、いよいよエルドラガス帝国編が始まります。
帝位をめぐる暗闘に巻き込まれた石動とロサが、マクシミリアン皇子を守りながら、どう戦っていくのか?
そして、数々の陰謀に打ち勝つことができるのか?
これからも、レベルアップしたスキルで新たな銃器も造りますし、戦うことになるでしょう。
なんだか、大風呂敷を広げて無駄にハードルを上げてしまったような気もしますが、今後も石動の冒険をお楽しみいただければ、筆者としてこれ以上の喜びはありません。
これからも応援、よろしくお願いいたします。
なお、幕間が終了後、多少の書き溜めとプロット精査のため、年内は更新をお休みさせて頂く予定です。
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