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銃剣

エルフの郷での生活が始まりました


*一部「ロサ」とあるべきなのに「ジェーン」となっている箇所があり、修正しました。

 ご指摘いただき、感謝します。

石動がエルフの街で生活し始めて、そろそろ半年が過ぎようとしていた。


 ラタトスクの指示に従ったエルフ達によって世界樹の神殿にある来客用の一室が、石動の部屋として与えられた。

 石動としては城下町のような街中に住みたかったが、文無しで言葉もしゃべれない者が到底暮らせるはずもなく、神殿の中の貴賓室のような豪華な部屋に案内されたのだ。

 食事や身の回りの世話を巫女のような恰好をしたエルフの娘が専属でついて世話をしてくれるため、どうにも石動としては落ち着かない事夥しかったのだが、人間半年もするとなれるもので、巫女さんとも仲良くなり、神官からみっちりと言語を教えられたため簡単な文字の読み書きや日常会話くらいは不自由しなくなってきた。

 

 そうなると元々自衛官として規則正しい生活をしていた石動は、ここでの生活に慣れてくるのに比例してだんだんと自由に日々のローテーションを創りはじめていた。


 朝、携帯のアラーム音で6時に目を覚ます。6時と言っても異世界には時間の概念が無いので、元いた世界の設定のままにしてあるが、特に違和感なく使用出来ている。

 ちなみに携帯は通信機としては使えないが、カメラや時計、ダウンロードしてある書籍のリーダー等に使っていて、太陽光発電パネルの携帯充電器で充電し活用している。


 顔を洗い、巫女さんが用意してくれたエルフ謹製のシャツとズボンに着替え、これは前世界から穿いているブーツを履き、神殿を出て神殿前の広場に向かう。


 そこでまず、携帯に録音していた「自衛隊体操」の音楽を再生しながらカラダを動かす。

 初め奇異の眼で遠巻きに見ていたエルフ達だったが、最近ではすっかりその光景にも慣れて、エルフの子供たち数人と何故かロサを始め何人かの不定数の女性も一緒に体操するようになっていた。


「おはよう、ツトム。今日も良い天気ね」

 ロサが広場のベンチから立ち上がり、石動に歩み寄りながら話しかけてくる。

 出会った時にサーベルベアから助けて貰った事を恩義に感じているのか、ロサは何かと石動の世話を焼く様になった。


 ロサに初めて会った日、ラタトスクの説明を受けた後に神殿から出ると、サーベルベアは神殿前の広場までエルフ達によって、その巨体を運び込まれていた。


 ロサが切り取っていた耳を示して倒した証拠を見せ、石動を指さしてエルフ達に何やら演説すると、オオッという歓声と共に石動に対して拍手が起こった。

 親しげに笑顔と共に背中を叩いて話しかけてくる者もいて、石動としては言葉が分からないが皆親愛の情を示してくれているのは分かるので、必死に笑顔を振りまくのが精一杯だった。

 ふとロサの方を見ると、銃を撃つようなポーズをしながら身振り手振りで、石動がどうやってサーベルベアを倒したかを自慢するかのように大勢のエルフ達に話しているのが見える。


 その後サーベルベアは解体され、石動の申し出によりその肉は皆で分け合うこととなったので、さらにお祭り騒ぎになってしまった。ついでにリュックの中から鹿の背ロースも出して提供する。

 焼き肉会場と化した神殿前広場で、ロサや背中を叩きながらやってきたエルフ達に代わる代わるお酌された石動が酔いつぶれてしまったのは仕方のないことといえるだろう。

 そして後に石動のもとにはキレイに洗浄されたサーベルベアの素材として骨と毛皮、頭骨や牙、爪が山の様に届けられた。


 その後もロサは石動の服や日用品の買い出しに付き合ってくれたり、街の中を案内してくれたりといろいろ甲斐甲斐しい。

 ただ相手が美人で若い(若く見える)エルフなので、石動も嬉しい反面、何処まで好意に応えて良いのか距離を計りかねているところがあった。


 そんな石動の思いも知らず、ロサは軽く伸びをして身体をほぐし、集まってきた友人らしきエルフ娘達と話しながら、自衛隊体操に参加してきた。

 当初、石動も子供たちがキャッキャと笑いながら体操しているさまは微笑ましく眺めていたが、ロサら成人女性が体操している姿は割と薄着なせいもあって、あまり直視してはいけない光景だ。


 特に「胸の運動」から「体の前後屈」のあたりでは、直視してしまうと目の前でブルンブルンと揺れるモノが目に入るので、さりげなくスッと目を逸らしておかないとイロイロとマズい。


 5分間キッチリ体操して身体を暖めたら、子供たちとは別れ、世界樹の周りをランニングだ。 

 直径100メートルほどの世界樹だが、神殿の付属施設や宿舎、神殿騎士などの兵舎や訓練場などが周りに建っていて、ランニングコースとしては適度な5キロメートルほどになっている。

 そこも何故かついてくるロサと会話しながら走り、広場に戻って手を振って別れたら神殿の部屋に戻って水を浴びた後、朝食をとる。

 午前中は引き続き神官による語学や歴史などの授業を受け、午後は日替わりで騎士の訓練場に行くか、町の中の鍛冶場に行く事にしていた。


 今日は鍛冶場に行く日だったので、石動は早めに神殿を出て町の中の鍛冶屋を目指す。

 途中の市場で旨そうな匂いに惹かれてイノシシ肉をタレにつけて焼いたボリュームのある串焼きと、これも焼きたての丸パンを買ってしまい、交互に食べながらゆっくり歩いていく。

 初めて来たほどの驚きはないが、半年たった今でも街の通りを歩くと、エルフの男女やケモ耳の獣人らに交じって人族の商人が店頭で交渉している姿や、荷物を満載した荷車を引く四つ足のトカゲの穏やかな目を見ると、そこで生活している自分が本当に存在しているのか信じられなくなる時がある。


「(まるでスターウォーズの酒場のシーンに入り込んだような感じ?)」

 そんなことを考えながら歩いていると、"カンカンキーン"と金属を槌で叩くリズミカルな音が聞こえてくる。まもなく目的地の鍛冶屋が見えてきた。


 最初、鍛冶屋というからてっきり職人たちはドワーフとかそんな感じと思っていたら、全員がエルフだったのには驚いた。

 そんな感想を洩らすとラタトスクからは不思議そうに首を傾げて、

『エルフは弓矢を使うイメージとツトムは言っていたが、では矢尻は誰が作ると思っていたのだ? いちいち買っていたのでは割が合わんだろう。それに獲物を捌くナイフや包丁は? エルフでも鍛冶をするのは当たり前ではないか?』

と呆れたような眼で見られた。


 納得した石動はまだ20代にしか見えないが実年齢は300歳になるという、エルフの割にマッチョな体形の親方に弟子入りし、修行させてもらうことになったのだ。


 

 

「おおっ、ツトム。ちょうどいいところに来たな。頼まれてたものが出来上がっているぞ」


 如何にも工房といった感じの店内に入ったところで、親方のウルスに声を掛けられた。

 親方は石動を手招きすると、奥の鍛冶場へと背を返す。

 勝手知ったるなんとやらで、石動は店番の娘に会釈すると勝手にカウンターの中に入り、親方に続いて鍛冶場に入った。


 奥の鍛冶スペースに入ると途端に、オレンジの光を放つ炉や竈が放つ高温で息苦しいほどの蒸し暑さと、職人たちが振るう槌による頭に響く絶え間ない轟音と汗臭さが混じり合った臭いが混じった密度の濃い空気が押し寄せてきて、部屋に入る者に暴力的なまでの攻撃を仕掛けてくる。

 今では石動もすっかり慣れてしまい、何も感じなくなったが、初めて入った時は思わず数歩後ずさりしたものだ。

 

 親方は鍛冶スペースの隅にある完成品が積み上げられた棚に歩み寄ると、2本の小剣を取り上げた。


「こんな感じで良かったか? 特にジュウケン? のほうは初めての形状だからな」


 石動は親方からまず一本の小剣を受け取ると、鞘を払った。思わず息を吞み、ほうっと感嘆の息を洩らす。


「・・・・・・素晴らしいです。ありがとうございます親方」


 それは旧日本陸軍の30年式銃剣をイメージして作ってもらった銃剣だった。素材はロサを助けた時に撃ったサーベルベアの爪などの素材を倒した者の報酬ということで贈られたものを使っている。

 片刃の刀身は40センチメートルほどで、左右に血抜きの(ミゾ)が彫られ、艶消しのグレーに染められたその姿は、ほぼ「ゴボウ剣」と呼ばれた30年式銃剣を模していた。


 違うのは元の30年式銃剣が、刺突目的のため細身のうえ刃は先端から19センチメートルほどしかついていなかったのに対し、石動が注文したのは身幅も倍になり刃はほぼ根元までついていて、折れ難くするとともに薙ぎ払いなどの斬る目的にも対応できるようにしてあった。

 もちろん握りも少し太く握りやすくして、でも着剣装置は忘れずに再現されている。


 もう一本の小剣を受け取ってみる。

 一番長かった爪の素材を使って作ってもらったもので、銃剣は直刀で加工してもらったが、こちらは爪のカーブを生かした反りのあるものになっており、サーベルというより西洋風脇差といった感じに仕上がっていた。


 鞘を払うと、とても動物の爪素材とは思えないほど金属質だけど金属ではない、硬質な艶のある象牙質のセラミック刀といった感じの鈍く輝く刀身が現れた。


 刀身は50センチメートルほどで、なんとか両手で握れる位の長さの柄が付いている。鍔はシンプルに刀身に対して十字架のような上下に飛び出たものだ。鍔の先端が少し十手の様に刀身に沿って伸びている。

 華美ではないが、味のある装飾がさりげなく施され、作り手のセンスの良さが伝わってくるような逸品だ。


「切れ味は保証してやる。ミスリル製の剣ほどでは無いが、そこらの鉄製の剣よりは切れるぞ。鉄製のプレートメイル位なら簡単に刺し貫けるし、斬り倒せるはずだ」

「親方、感謝しかありません。ホントに御代はサーベルベアの残りの素材で良いんですか?」

「充分だ。気にするな。」

 

 サーベルベアの素材は捨てる所が無い程貴重らしく、石動はサーベル形状の爪と毛皮の一部を革鎧として、大量に余った加工した分の残りは親方に提供していた。

 親方はタダでは貰えないと数枚の金貨の支払いと鍛治を教えることに加え、爪を石動が使用する剣への加工で合意したのだ。


 ちなみに貰った爪のうち短いものは、石動の練習も兼ねてカランビット型のナイフを何本か作ってみた。

 親方程の性能は引き出せなかったが、充分鋭い切れ味に仕上がったので、消耗品と割り切って装備している。

 

「いや、ツトムに貰ったこのナイフには負けるがな。う~ん、未だにこのブレードも鞘も素材が何なのかサッパリ分からん。何とかしてこれを再現してみたいものだ」


 親方は腰に着けたシースからKIKU KNIFEの「ベツカムイ」を抜くと、ほうっとため息を吐きながら眺め、この素材は何か、どう焼き入れを入れればこの硬度が出せるのか、とブツブツ呟いて考えこむ。

 さすがに石動もOUー31鋼材の組成は知らないし、手に入れようがない鋼材なので苦笑いするしかない。


 最初に親方にあった時、親方は石動の腰にあった「ベツカムイ」を目敏く見つけ、見せてくれる様せがまれたので石動が鞘ごと外して渡して見せたら、親方は手に取るなり虜になり石動に返す時も未練有り有りの風情だった為、弟子入りした際にプレゼントしたのだ。


 石動は必要ならスペアのガーバーを使えばいいし、こんなに素晴らしい物を作ってくれるなら、ナイフ一本くらい惜しくない。

 

「ところで、このジュウケンだったか、これはどう使うのだ?」

「自分の前の世界では銃という武器の先に装着するものなんですが、それは此方には無いので、木銃の先に付けて短槍の様に使おうと思います」

「? だったら最初から短槍としてあつらえた程が良いのでは無いか?」

「自分は槍の経験はありませんが、銃剣道なら経験がありますので、そちらの方が使いやすいんです」


 石動は現在も銃を作るべく鍛治の修行や研究を重ねているが、未だ銃の製造への道のりは端緒についたばかりだ。

 近い将来にはちゃんと弾が出る銃を作り、それに銃剣を装着したいと考えている。

 それまでのつなぎとして木銃に銃剣を付けて闘うつもりだ。

 明日の騎士団での訓練が楽しみになってきた石動だった。


お読みいただきありがとうございました。

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