迷い
残された石動とロサは、お茶を飲みながら話し合うことにした。
「ロサはエドワルド、というかマクシミリアン第三皇子の話をどう思った?」
「どうっていうか、まず身分を隠して一緒にいた理由がよく分からないわ。最初のうちは怪しいと思っていたけど、途中からは仲間になったと信じかけていたのに・・・・・・。
結局、ウソだったって言うのが私は納得いかない。そりゃ、隠さなきゃいけない理由も分かるけど、信用するなら打ち明けてくれても良かったんじゃない? そんな秘密主義の人が、今度は自分の身が危なくなったからと言って、助けてほしいって言うのは都合が良すぎるんじゃないかと思うの」
「そうだよね。なんとなく私達に近づいてきたのには目的があると思っていたけど、それがこれだったのか、っていう感じだよな。一緒に旅をしていた時は楽しかっただけに、そう思う気持ちは私も同じかな。でも、私の命の恩人っていう、借りがあるんだよ・・・・・・」
「・・・・・・」
「エドワルドが、直接借りを返せと言わなかったのは、私に対する配慮というか仁義の問題だと思う。
もし私が断ったら言い出すかもしれないな」
「私はもし友人が困っているなら、何を置いても駆けつけて助けてあげたいと思うし、実際にそうすると思う。ツトムはどうしたいの? エドワルドに協力して銃も提供するつもり?」
「今のところは銃の提供までは考えていないかな。帝国も王国も大して変わらないだろうし、信用できないからね。
ただ、帝国に行くのはちょっと迷ってる。・・・・・・ロサはもし、私がエドワルドについて帝国に行くと言ったらどうする?」
石動の問いに、ロサはいきなり椅子から立ち上がると、石動のところまでズンズンとテーブルを回ってきた。そしてズンッと、石動の膝の上に座ると正面から顔を覗き込んだ。
「なんでそんなことを聞くの! 一緒に行くに決まってるじゃない! 前にも言ったでしょう、私はあなたの心の支えになるんだって! 支えるのに傍にいなくてどうやってやるって言うのよ!」
「ゴメン・・・・・・、ありがとう」
石動は両手を、プリプリと腹を立てているロサの両頬に伸ばす。目の前のロサの顔が更に近づいた。
ふたりはしばらく見つめ合った後、自然と唇が重なっていく。
ブルッとしてベッドで目が覚めると、石動の毛布まで隣に寝たロサが奪ってしまっていた。
肌寒くて目が覚めたのだと気付く。
ロサも毛布にくるまっていたが、裸でむき出しの肩が寒そうだ。
石動は毛布を引き上げてロサの肩までかけてやる。
石動は再びベッドに横になり、天井を見上げながら考える。
「(ついにこういう関係になっちゃったかぁ・・・・・・結構我慢してたんだけどなぁ。後悔はないけど、アクィラさんに殺されるかな。いや、アレをもがれるんだっけ)」
苦笑いしながら、今度はラタトスクに念話で話し掛けてみた。
「(ねぇ、ラタちゃん。本当は前から、エドワルドがマクシミリアン皇子だって気付いていたんじゃない?)」
『うん、そうじゃないかと思っていたよ。前にも言ったけど「レーウェンフック家」というのは帝国に存在しないからね。年恰好や言動から可能性は高いとは思っていたかな』
「(ええ~っ、なんで教えてくれなかったのさ)」
『そりゃ確証の無いことは言わないでしょ。聞かれたら答えたかもしれないけど、聞かれなかったしね』
「(そっかー。ではエドワルドが言っていたことは本当なの?)」
『おそらく間違いないだろうね。第一皇子の暗殺と皇帝の体調悪化、第二皇子の暗躍は情報として特殊能力で掴んでいるところだよ。マクシミリアン皇子が殺される可能性は充分あるだろうね』
「(じゃあ、第二皇子が帝国を継いだら、侵略戦争がはじまると言うのも本当なのかな)」
『可能性は高いと思うよ。第二皇子は帝国の情報機関や暗部を掌握している。その情報機関の長が入れ知恵して大陸制覇をそそのかしているとも聞くからね。今は軍部を皇帝が掌握しているから動きが取れないだろうけど、もし崩御するようなことになれば・・・・・・』
「(皇帝って、そんなに危ない状態なんだ)」
『第二皇子の息がかかった者に毒を盛られているという噂もあるよ。全くの出鱈目とも思えないけど』
「(そうか・・・・・・。そんなに切羽詰まっていたんだ・・・・・・)」
ラタトスクの話を聞いた石動の頭の中では、二つの思いが入り混じっていた。
一つは何とかして第二皇子の陰謀を阻止して、エドワルドを助けてやろうか、という思い。
もう一つは反対に、第二皇子が戦争をおこすなら銃の普及には大チャンスではないか、という囁き。
その囁きがだんだん大きく、頭の中で響き始める。
なにを迷うことがあるのか、と頭の中で何かが囁く。
いつの間にか、石動は夢を見ていた。
頭の中の冷静な部分が、私はいつ寝たんだ?と疑問に思うが、答えは出ない。
夢の中で燎原の火の如く囁きが頭の中の全てを占めていき、それと同時に目の前に炎が燃え広がって、辺り一面に紅蓮の炎が渦巻き始めた。
その炎の中で、数限りない人々が銃を撃ち合い、殺し合っている。
子供は泣き叫び、婦女子は逃げ惑う。
今や、囁きは頭の中でこれ以上ない大音量で響き渡っていた。
戦争こそ何よりの兵器の実験場。銃器が一番活躍し、発展する場所ではないか。
お前が銃器をコントロールすることで、戦場を支配できるだろう。
まだ試していないアレもコレも試すことができて、万々歳ではないか!
お前は「魔弾の射手」の悪魔、ザミエルなのだから!!
・・・・・・いや、私はそんなことを望んではいない! そんなことまでしなくていいんだ。ただ、銃を造って楽しく暮らしたいだけなのに・・・・・・
石動は夢にうなされ、呻き、ひどく汗をかいている。
ラタトスクは、そんな石動の様子をじっと、暗闇の中で見つめていた。
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