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大量生産への道

キリが悪いので、今回は少し短めです。

 プラティウムの言葉に、石動は頭を下げて敬意を表した。


「ではお言葉に甘えて申し上げます。条件とは、次の五つです。

 一つ、銃の生産はカプリュス殿が責任者となって監督し、改めて国として守秘義務契約を結ぶことにより他の国に製造法を洩らさないこと。

 二つ、銃を販売する際には必ずノークトゥアム商会を窓口とし、それ以外の窓口を造らないこと。

 三つ、銃弾はノークトゥアム商会を通じてエルフの郷から仕入れること。

 四つ、銃の販売先はエルフの郷を優先し、その敵対先には販売しないこと 

    (例えばウィンドベルク王国)

 五つ、硝石など必要となる資材はエルフの郷に安価に提供すること

 以上、いずれかの条項が故意に破られたときは契約を破棄し、違約金などの賠償金を支払うなどの罰則条項を設定することとします。

 販売価格やロイヤリティなどの細かい部分は、同席しているノークトゥアム商会のオルキス支配人と決めて頂きたく存じます」


 石動の言葉にプラティウムは、顎髭を撫でながら考え込む。

 そんな王に代わり、カプリュスが石動に尋ねた。


「ザミエル殿、造る際にワシが監督するのは構わんが、よそに売っても良いのか? 外部に漏らさないという守秘義務契約を結ぶくらいだから、他の国には販売しないのかと思っていたぞ」

「フフフ、カプリュスさんも造ったら売りたいと思っていたでしょ? ただし、無制限に一般販売されても困るので、ノークトゥアム商会を通すことにより、販売先を選別してもらいます。

 カプリュスさん、他国の職人がクレアシス製の銃を購入したら、全く同じものを造ることができると思いますか?」

「う~ん、似たようなものは造れるだろうよ。だが全く同じものは難しいんじゃないか? 鋼材一つとっても高い鍛冶レベルが必要だし、ライフリングや焼入れなども同じだからな。ワシらはザミエル殿に教えてもらったからすぐに出来たが、全部自力でやるとしたら、数年はかかるかもしれん」

「数年あれば、こちらはもっと進化できますよね」

「進化できるのか!」


 ニコニコしながら答える石動に、カプリュスが唸る。


「あと弾薬は教えてもらえんのか?」

「カプリュスさんに渡したシャープスライフルは、弾薬を発火させるのに火の魔石を削り出したものを使っていますよね。ごく少数を撃つ分にはあれで良いのですが、大量生産した銃に火の魔石を使うのは、大変手間がかかるだけでなく非常に高価なのでコスト的に割が合いません。

 最近、私はこの問題を解決する錬金術を完成させましたが、それを使いこなすには非常に高度な錬金術スキルが必要になります。仮にこの錬金術作業を私以外で出来るとしたら、エルフの郷にいるノークトゥア師匠しか、私は知らないのですよ」

「そうなのか・・・・・・」


 しゃべりながら、石動は今更ながらに気がつく。

 師匠の名前って、ノークトゥアム商会会頭の名前にそっくりではないか?

 師匠、としか呼んでなかったから、いままで気がつかなかったな・・・・・・。

 ひょっとして親戚だろうか・・・・・・? でも種族が違うし・・・・・・。

 今度会ったら聞いてみよう。


「でも、たとえば師匠の下で修行したいという者がいて、将来的に錬金術スキルが上がって使いこなせるようになれば、カプリュスさんのところで弾薬を製造することも検討しましょう。そこは契約書にいずれ協議すると明記しても頂いても構いません。そうなればなったで、私もカプリュスさんにお願いしたいことが、いろいろありますしね」

「なるほど! それは良いな。早速、候補者を選別するとしよう」


 カプリュスが石動の言葉に目を光らせる。

 そしてプラティウムの方を見て頷いた。


「ザミエル殿、よくわかった。私が合意すると決めた。細かいことは宰相も含め、事務方と詰めてもらうことにする。交渉相手はオルキス支配人で良いのだな」

「はい、お願いします」


 石動もオルキスをチラッと見て、オルキスが頷くのを確認してプラティウムに答える。


「では、交渉成立だ。バカ息子がしでかした事のお詫びも含めて、儂ができる範囲のことで報いるとしよう」

「陛下のありがたいお言葉に感謝します」


 プラティウムは立ち上がると石動に右手を差しだした。

 石動も立ち上がるとその手を握り、固い握手を交わす。


 この世界に、銃が大量生産されることが決定した瞬間だった。


 それからというもの、石動には大忙しの日々が続いている。


 王城での契約交渉や細かい折衝は、ノークトゥアム商会のオルキスがスタッフを引き連れて毎日通ってくれているので、丸投げでお任せだ。

 それでも石動へ確認したい事項などがいろいろと発生するため、諸々の話し合いをオルキスらから要求されることが多いので、毎日の進捗確認を兼ねたミーティングは欠かせない。

 

 本当は師匠にも石動がエルフの郷に戻って、雷管の製法を直接伝えたいところだが、忙しくて行けそうにない。そこで急いで雷管製法マニュアルを作成すると、それに手紙と改良魔法陣の写しを添えて、ノークトゥアム商会経由で師匠まで送ってもらうことにした。

 エルフの郷にも黒色火薬仕様のシャープスライフルはあるので、後日テスト結果の連絡があるだろうと思っている。


 カプリュスからも、シャープスライフル生産設備について相談をうけている。

 足踏み式旋盤やライフリングマシンを増産したり、工房ごとの分業制の提案をしたりした。

 まずカプリュスの工房でいろいろ試してから、その上で他のドワーフの工房とも王城からの勅命をもって契約し、生産ラインを増やす計画らしい。

 そのための信用できる工房の選別や有能な職人の確保など、問題は山積みだとカプリュスが零していた。

 

 そんな日々の中、石動がふと思い出すのは、前に「なぜ、銃を普及させてはいけないんだ?」と考えた時のことだ。

 あの時も「銃を旧式のままでコントロールすればいい」と考えたんだっけ・・・・・・。


 結局はあの悪魔の囁きの通りになってしまったな。


 石動は自分が本当に「魔弾の射手の悪魔ザミエル」になった気がした。

 ただ、不思議と石動に後悔の念は無かった。


お読みいただきありがとうございました。


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