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お詫びと交渉


 一時間後、王宮内の貴賓室でフカフカのソファーに並んで座り、紅茶を飲む石動とカプリュスがいた。

 カプリュスの紅茶にはたっぷり酒が注がれていて、それを飲むことでやっと人心地ついた様子だ。

 対面のソファーに座ったオルキスが、同じく紅茶を口に運びながら慰める。


「いや、大変だったねー。まだ王城内は今も後始末でバタバタしているようだけど」

「まったくだ。今回ばかりは、ワシも死ぬかもしれんと覚悟を決めたぞ。死神が向かってきたときなぞは、思わず漏らしそうになったわ」

「私は思いがけず、大物ハンティングの気分を味わうことが出来て、楽しかったですけどね。新しい銃のテストも出来たし。ただ、あの第二王子は許せませんけど」


 呆れたように石動を見るふたり。

 そんな視線を受けながら、石動はすまして紅茶のカップを傾ける。


「そうだ、頼んだらあの死神の角とか、もらえないでしょうかねぇ?」

「「いや、無理でしょ(だろ)!!」」

 

 ふと思いついたように石動が呟くと、ふたりから揃って突っ込まれてしまう。


 その時貴賓室のドアがノックされ、ドアを開けて従者が入ると、石動らに向かって慇懃に礼をする。

「皆様、只今より、王のおなりです」


 従者が壁際に控えると、空いたドアから護衛の騎士が2名入り、ドアの両側に立つ。

 そのあとからドアーフの王が部屋に入ってきた。


 石動はカプリュスやオルキスに倣い、ソファーから立ち上がると腰を折って頭を下げる。


「ああ、よいよい。かしこまらんでくれ。皆、頭をあげて座ってほしい」


 つかつかと大股で入ってきた王は、ソファーセットの上座に設えられた一際豪華な一人掛けの椅子にドサッと座りながら言った。


 石動が頭をあげ、ソファーに座りながら、改めてドワーフの王を見る。

 先程、闘技場で会った時は、兜のようなものをかぶっていたので、少し印象が違った。


 あらためて見るドワーフの王は、見事な銀髪を肩まで伸ばし、髭も髪と同じく直毛で胸まで垂らしていた。

 俗に言うドワーフのイメージそのままなカプリュスのモジャ髪にモジャ髭とは違い、毛量は並より多いがなんとなく品が感じられる。

 同様に銀色な眉毛の下から覗く眼も、鋭い。


 石動としては"気難しそう"に見えるな、という第一印象だった。

 ただ、部屋に入ってきて、椅子に座る王は少し疲れて見える。

 

 ドワーフの王は石動に視線を向けると語りかけた。


「儂がプラティウム・レクス・クレアシス三世だ。貴殿がザミエル殿か?」

「はい、ザミエル・ツトム・ウェーバーと申します」

 石動が再び頭を下げつつ、神妙に自己紹介した。


「最初に申しておくが、ここでの会話は公式ではない。だから必要以上にかしこまる必要はない。直答も許す。あくまで私的な話をするためにこの場を設けたのだ」


 そう言うとプラティウムは石動の方に身を乗りだすような態勢で言葉を続ける。


「この度は貴殿に儂の愚息が迷惑をかけてしまい、まことに申し訳ない。許して欲しい」

 

 そう言うと、プラティウムは石動に頭を下げて見せた。


 石動は一国の王がいきなり謝って、頭を下げてきたことに驚いた。

 しかし、カプリュスは当然だと言わんばかりにソファーにふんぞり返っているし、オルキスを見てもさほど驚いた様子がないのを見て、「(この国では普通のことなのだろうか?)」と気持ちを静める。

 石動は、ここは慎重に対応したほうがよさそうだ、と心の中で呟く。


「もったいないお言葉を賜り、恐縮です。ただ陛下に迷惑をかけられた覚えはございませんので、謝罪は必要ございません。あくまでクプルム殿下とのお話です」

「そうだ! プラティよ、あの第二王子は何考えてるんだ?! 親の躾がなっとらんな」


 カプリュスがプリプリ怒りながら文句を言う。


「プ、プラティ?」

「おう、こやつとワシは幼馴染なんだ。親同士が親戚でもある。子供のころからよく遊んだもんだ」

「へぇ~、そうなんですか・・・・・・」


 思わずカプリュスに尋ねると、意外な人間関係が発覚してまた驚く石動。


「カプリュスよ、いくら何でも砕け過ぎだ。ふたりで酒を飲んでいる時とは違うのだぞ。公の場ではないとはいえ、儂の立場も考えてくれ」

「お前の立場など知らんわ! なにしろ、ワシは先程、お前の息子に殺されかけたのだからな! ザミエル殿がいなければ、今頃ワシは死神の角で腹を裂かれて、くたばっていただろうよ」


 苦虫を嚙み潰したような表情でカプリュスに零すプラティウムは、言い返されるとグゥの音も出ない様子で黙り込む。


クプルム(あれ)も可哀想な奴でな。幼い頃から出来のいい第一王子にいつも比較され、裏では馬鹿にされておった。兄より劣るということは、本人が一番分かるし傷ついていただろう。剣や槍で敵わないならと勉学に励んでも、学園での成績は第一王子がいつも首席で、クプルムは平凡な成績だったわ。儂や王妃も愛情は注いだつもりじゃが、儂らもなにぶん忙しい身だからな。思うようには相手ができんかった。だからつい甘やかしてしまい、その結果本人を歪ませてしまったかもしれん。全ては儂の責任だ」


 俯き加減で、ポツリポツリと呟くように言葉を絞り出したプラティウムは、顔を上げて居住まいを正すと、石動達を見据えた。


「だが、今回ばかりは簡単に許すわけにはいかん!  既に処分は決めた。第二王子としての王位継承権を剝奪し、どこぞの鍛冶場で下働きからやり直させ、根性を叩き直すことにする! というわけでカプリュス、お前のところで叩き直してやってくれ! 頼んだぞ」

「ふざけんな! それって丸投げってことじゃねーか! 第一、あんな尊大で使い難そうな奴は要らんぞ!」

「まぁ、そう言わずに頼むよ。儂とお前の仲だろう? 他に信頼できるところが無いのだ。頼む!」

「・・・・・・ちょっと考えさせてくれ。あと、ザミエル殿に対してのけじめはどうするのだ?」

「うむ、それなのだが・・・・・・」


 きまり悪そうにプラティウムは、頭を掻きながら言葉を続ける。


「クプルムの邪魔が入る前は、ザミエル殿に皆の前でジュウとやらのデモンストレーションをしてもらう予定だったのだ。そこに軍部の責任者らを立ち合わせて、その有効性を見極めるつもりであった。

 ところが、もう既にザミエル殿はジュウで、あの死神をあっさりと倒してしまわれている。今、騎士団も軍部もあの武器はなんだ? と大騒ぎよ。これ以上のデモンストレーションなど蛇足にしかならん」

「一言申し上げますが、あの死神を倒した時の銃は我が家の最高秘伝によるものです。デモンストレーションする予定だったものは、あれよりも威力は低いものだとお考え下さい。

 カプリュス殿にお教えしているものと同じです。それでも、余裕で鹿や熊などは普通に倒せる威力は十分にありますけどね。もちろん人間にも」

「なんと。死神を倒したジュウをお教えいただくことは適わないのだろうか?」

「鍛冶でも剣の道でも同じだと存じますが、いきなり素人に秘伝を伝えても使えるどころか理解すらできないでしょう。聡明なる陛下ならご理解いただけると思いますが、まずは基礎が肝心なのです」

「あいわかった! では、ザミエル殿。改めてお願いしたい」


 プラティウムは、石動の眼を見て訴えてきた。


「何としても、我が国でジュウを造らせてほしい。幸い、カプリュスが造り方を聞いてはいるが、守秘契約に縛られているので広めることができない。これを解除したうえで、新たに契約を結びたいのだ」

「ふむ・・・・・・。陛下の存念は理解しました。ただし、実現するにはいくつか条件がございます」

「おおっ、なんでも言ってくれ。今回迷惑をかけたお詫びに、儂にできることならなんでもしよう」

お読みいただきありがとうございました。


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