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黒い死神

誤字脱脂報告ありがとうございます。

 翌日、王城の正門前にカプリュスと石動の姿があった。

 ノークトゥアム商会のオルキスは別件の商談で王城に来ているからとのことで、後ほど謁見の場で合流することになっている。

 

 石動はキングサラマンダーの皮鎧やマントを着こみ、肩には王に見せても良いように黒色火薬仕様のシャープスライフルを肩にかけていた。

 マントの下にはたすき掛けにしたマジックバッグがあり、その中に着剣したM12トレンチガンやマリーンM1895も弾薬を込めた状態で仕舞ってある。


 カプリュスが門番の兵に用件を伝えると、しばらくして城の中から近衛騎士が現れた。

「ようこそおいで頂きました。どうぞこちらへ」


 白と金糸を基調とした煌びやかな近衛の制服を着た騎士が優雅に一礼し、案内のため先導する。

 カプリュスと石動はそのあとに続いて、歩き出す。


 城の中は石動が想像していたような華美な雰囲気ではなく、どちらかと言うと「質実剛健」といった雰囲気だ。

 しかし、よく見ると柱や壁に施された彫刻は精密で美しく、職人技のなせるものと感じさせられる。


 さすがはドワーフの国、と石動が感心しながら城内を見渡しながら歩いていると、隣を歩くカプリュスが不審げに近衛騎士に問いかけた。


「おい、この方角は我が王の謁見の間の方角と違うぞ。どこに案内するつもりだ?」

「いえ、こちらに案内するよう命じられておりますゆえ」

「誰の命令だ!」

「クプルム殿下でございます」

「ちっ、第二王子のか?!」


 忌々しげに顔を顰めてカプリュスが舌打ちをする。近衛騎士はすました顔で案内を続け、大きな円形の建物の前で立ちどまった。


「こちらをお通りください。殿下が中でお待ちです」


 建物のドアを開け、ドアの横に立った近衛騎士が中にはいるよう促す。

 カプリュスと石動は顔を見合わせたが、頷いてドアの中に入った。


 中は薄暗い通路になっていて、通路の両側には部屋に通じるようなドアが見当たらない。

 通路の先が明るくなっているので、そこへ行けということなんだろうなと判断し、石動はカプリュスの先に立って歩いた。


 薄暗い通路を抜けて明るくなった先は、土がむき出しの丸い広場になっていた。直径は30メートルもないだろう。


「(映画で観た古代ローマの闘技場みたいだな・・・・・・)」

 石動が心の中で呟く。


 闘技場の周りには観覧席がぐるっと取り囲むように設えられ、そのVIPルームと言うか、VIPコーナーというような席にでっぷり肥った若い男が座っていた。


 見た目にも尊大な性格が全身からにじみ出ていて、すぐわかった。

 アレが第二王子のクプルムなのだろう。

 石動たちを見下しているのを隠そうともしない態度があまりにも露骨で、一目見て石動はクプルムが嫌いになった。


 クプルムはニヤニヤしながら、小馬鹿にしたような口調でカプリュスに言う。


「よく来てくれた。カプリュス、案内をご苦労」

「殿下! いったいこれはどういうおつもりか! ザミエル殿は王の命で王城にお連れしたのですぞ! 言わば来賓であるのに、このような扱いをされるとは! これは王もご承知のことなのでしょうな!?」

「父はまだ謁見の間にいるのではないかな? いずれ気が向いたら参られるだろう」

「では、私どもは謁見の間に向かわせていただく! 御免!」

 

 カプリュスはそう言い切ると踵を返そうとするが、すでに闘技場から出る通路のドアが閉じられているのを見て、足を止めた。


「まあ、そう急く(せく)なカプリュス。私は父上がご執心のジュウとやらをこの目で見てみたいだけなのだ。最近は噓八百を並べ立てたペテン師が、父に取り入ろうとあらゆる手管を使ってくるのでな。父が騙されぬよう、私が先に検分してやろうというのだ。有難く思え」

「このカプリュスが王に申し上げたのは、噓八百だと申されるか!!」

「なに、万一本当なら、私が父に推薦してやろう。損はあるまい?」


 カプリュスはカッカと顔から炎が立ち昇らんばかりに真っ赤になって怒り狂っている。

 石動は横で冷静に会話を聞いていて、この第二王子の薄っぺらい考えがなんとなく見えたように思う。


「(要するにこの馬鹿王子は、銃を私から取り上げて父親に献上することで、自分の手柄にしたいのだろうな。それで王に謁見される前にこんなイベントを捻じ込んできたということだろう・・・・・・)」

『ツトム、正面の扉の奥に何かデカいのがいるよ。気を付けて』


 石動はフードの中のラタトスクがこっそりと念話で警告してきた、闘技場正面にある両開きのドアに注意しながら、そっと肩から黒色火薬仕様シャープスライフルを外しマントの中に入れる。

 マントの中で外から見えないようにして、マジックバッグの中の無煙火薬50-110WCF弾仕様のシャープスライフルと取り換えると、再びスリングで肩に掛けた。


 クプルムは相変わらずニヤニヤ笑いを浮かべたまま、言葉を続けた。

「検分して、実力を調べないと父に推薦できんよな。あちらを見よ」


 闘技場の中の石動たち正面にあった両開きのドアが開くと、檻に入れられた巨大な生物が姿を現した。


 それは体長4メートルになろうかという、真っ黒なケープバッファローだった。

 鼻息も荒く、檻の中で動き回っている。


 前世界のアフリカ大陸においてゲームハンティングをするハンターたちに「ビッグ(ファイブ)」と呼ばれる危険生物たちがいた。


 それは「ライオン」「(レオパード)」「アフリカ象」「サイ」「アフリカ水牛(バッファロー)」の5種類の猛獣たちだ。


 中でも平原(サバンナ)に住むケープバッファローは「サバンナの雄」と呼ばれ、その危険性から原住民に「黒い死神」とか「未亡人製造機(ウィドウメーカー)」と渾名されるほどだ。


 なにしろその巨体は3メートルを超え、体重も大きなものなら1トン超えるものも珍しくない。

 そんな巨体が片方だけで1メートルにもなる、鋭く湾曲した巨大な角を振りかざし、時速60キロ弱のスピードで襲ってくるのだ。

 その巨大な角に突きあげられ、ライオンが空高く宙に舞う映像を見たことがある人もいるだろう。

 一対一なら百獣の王ライオンですら、ケープバッファローには絶対に敵わない。


 しかもその性格は気性が荒く、狡賢い。

 狙ってきたハンターを、背の高い草地(ブッシュ)に誘い込み、返り討ちにすることもある。

 ベテランのハンティングガイドでも、手負いのケープバッファローがブッシュに逃げ入ったら、追跡するのをためらうほどだ。

 

 水牛と言う名前から連想して大人しい動物と思うと、大間違いなのだ。


 石動の前に現れたバッファローは、前世界のものよりも一回り大きく、体長4メートルはありそうだ。

 その真っ黒な筋肉の塊のような見た目からも、おそらく体重は1トンどころかもっと重いだろうと想像できた。

 角の長さもハンパない。片方の角だけで1.5メートルはあるだろう。

 湾曲した角の先は鋭く尖って、威嚇するように前方に張り出していた。

 太く立派な角の根元基部は左右が接して瘤のように盛り上がり、頭頂部を覆っている。


「(まるで兜をかぶっているみたいだな・・・・・・。あそこを貫通させるのは骨が折れそうだ)」


 石動はマントの中で、外から見えないように注意しながら、マジックバッグから数発の50-110WCF弾を取り出す。


 昨日完成したジニトロトルエンを配合して造った無煙火薬を使用し、極限までパワーアップさせた強装弾だ。


 新たにジニトロトルエンを配合した無煙火薬をいろいろ試した結果、B火薬ではさほどの効果を得られず、コルダイトの方が成績が良かったのでそちらを採用することにした。


お読みいただきありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
魔物を倒したら、もうさっさと引き上げたら良いね。引き上げることが出来なかったら、謁見の場で先ほどの対応はどう云う訳か聞かないとね
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