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招聘

 翌日、石動とロサはカプリュス工房の作業室にいた。


 ラビスがエチレンガスを運んできてくれたのだ。早速、作業室内のセーフルームに運び入れてもらう。

 今日は珍しくカプリュスがラビスについてきている。


 だが、カプリュスはエチレンガスの入った容器を運ぶラビスを手伝うそぶりもなく、石動に真面目な顔で話し掛けてきた。


「ザミエル殿、相談があってきたのだが、ちょっといいか」

「いいですよ。何でしょう」


 石動は一刻も早く、エチレンガスからジニトロトルエンへの錬金術作業に取りかかりたかったが、笑顔でカプリュスに返す。

 石動はカプリュスがいずれ、シャープスライフルを量産したいと言ってくるのではないか、と予想していたので、その相談かと思ったのだ。


 そしてその予想は半分当っていて、半分外れだった。


「うん、じつはその・・・・・・先日、王家から呼び出しがあってな。明日ワシと王城に行って、我が国の王に会ってくれんか」

「は?」


 予想外の申し出に、石動は素っ頓狂な声が出る。

 カプリュスは石動から目を逸らし、申し訳なさそうな顔で続けた。


「いや、出来上がったジュウが良かったのでな、あちこちで自慢してたんだ。木材も良いものをと凝ったうえに、金属部分には飾りで彫金したら、あまりに美しくなったんで見せびらかさずにはおれなんだ。皆の前で実際に撃って見せたりもしたな。ワシも50歩離れたところなら、南瓜は外さなくなったんだぞ! そうそう、そういえば弾が残り少なくなったからまた分けてほしいのだが・・・・・・」

「それは構いませんが、その話のどこに王家が絡んでくるんです?」


 脱線しがちなカプリュスの話を、石動はもとにもどす。


「どうやら、ワシが自慢した相手の誰かが王の耳に入れたらしくてな。ジュウを持参して王城へ来いと呼ばれたんだ。そして王にジュウを見せ、実際に撃つところも見せると、ジュウをよこせ、造り方を教えろと言ってきやがった。もちろんワシは、冗談じゃねー、守秘契約をしているし神前でも誓ったんだからダメだ、と断ったさ。そしたら誰と契約しているのか、という話になって、ザミエル殿の名前が出たということなんだ」

「はぁ~、それで今度は私が呼び出された、というわけですか・・・・・・」

「すまん・・・・・・。迷惑をかけるつもりはなかったのだが、こんなことになってしまって。まあ、我が王といっても所詮鍛冶屋上がりだからな。新しいものが珍しいだけで悪気はないと思う。それにな、ワシもザミエル殿にはこのジュウを生産する契約と、ダンガンの作り方を追加して契約してもらえないか、相談しようと思っていたところだった。多分、王もそんな話をするつもりなんじゃねーかな」


 カプリュスは石動の両手をがばっと掴み、石動の眼を見て真剣な面持ちで言った。


「ザミエル殿、このカプリュスが誓って貴殿の不利益にならんようにするから! もし王が無理言って、なにかゴリ押ししようとしたら、ワシがぶっ飛ばしてやるから安心してくれ!」


 石動はこの招聘に、なんとなくだが、きな臭さを感じた。

 念話でラタトスクにも意見を聞いてみるも、胡散臭いという点で同意見だった。


「・・・・・・分かりました。行ってもいいですけど、ひとり専門家を同行させてください」

「うん? ロサ殿か?」

「(ロサは万一人質にされたら困るから連れて行かない方がいいかも)いいえ、ノークトゥアム商会のオルキスさんです」

「わかった! 話は通しておくぞ。了承してくれてありがとうよ!」


 カプリュスは石動の言質を取ると、礼を言って作業室を出ていった。

 石動はロサに今聞いた事情を話し、ノークトゥアム商会のオルキスさんに会うように頼む。


「決して損はさせないから、と伝えてくれればいい。そしてロサは明日私達が王城に行っている間、ノークトゥアム商会の中に匿ってもらえるように手配してもらってくれないか」

「わかったわ。すぐに行ってくる。でもツトムは大丈夫なの?」

「私は大丈夫さ。金の卵を産む鶏をすぐに殺しはしないだろう」


 それにいざとなれば大暴れしてやる、と石動は心の中で言葉を続ける。

 ロサは心配そうな素振りだったが、石動に頼まれたことに笑顔で頷くと、作業室を駆け出して行った。


「ザミエルさん、エチレンガスは10本セーフルームに入れときましたから」

「ありがとう、ラビス」

「いえいえ、ではご健闘を」


 ラビスが作業室を出ていくと、石動は一人になった。

 いろいろと考えなければならないこともあるが、ここはまず錬金術作業を済ませてからだと、石動は気持ちを切り替える。


 セーフルームに入った石動は、まずエチレンガスを世界樹の樹液製容器に移す。

 次に師匠の魔法陣に自分で手を加えたものをテーブルの上に広げ、エチレンガスが入った容器をその上に置いた。


 「クラッキング処理」とは「接触分解」のことで、一般的に作用によって生じる分解化学反応のことだ。詳しい専門的な内容は省くが、代表的なもので言えば、重油からガソリンを精製する処理などに使われている。


 石油精製工場のプラントでするような働きを魔法陣でやってしまおう、と言うのだから石動も魔法陣の作製には苦労した。レベルが上がっている今だから出来たのだろう。以前の石動では作れなかったに違いない。


「(これで上手くいくと思うんだけどな・・・・・・多分)」


 錬金術スキルを使い、まず「錬成」し「組成」する。

 容器の中でエチレンガスが高温を発しながら変化していくのを、慎重に「鑑定」しながら見極め、ここぞというタイミングで「抽出」した。


 抽出した無色透明の水のようなものを、別の容器に移す。

 石動が目の前にかざして透かし見れば、頭の中に「トルエン」という言葉が浮かんできた。


「ヨシッ! 成功だ!」


 ニンマリと笑み崩れながら、石動はすぐに棚から既に用意していた、硫酸と硝酸をある割合で混合した混酸を取り出す。

 新たに取り出した魔法陣の上に、トルエンと混酸を置くと、スキルを発動させる。


 まず二つの物質を「抽出」して「調合」する。それから「錬成」し「組成」することで、硝化させていく。反応が終わることには、薄黄色の細かい結晶体が出来上がっていた。


 「鑑定」すれば「ジニトロトルエン」という言葉が浮かんできた。


「(はぁ~、出来た。緊張したけど割とスムーズに出来たな・・・・・・。何度やってもこの錬金術スキルだけはマジでチートだと思うわ・・・・・・ホント有難い)」


 次は無煙火薬として作ってあるB火薬とコルダイトにジニトロトルエンを混合して、どちらが圧力が効率よく上がるかの検証を行わなければならない。

 石動は気を引き締めて、セーフルーム内での作業に勤しむ。


お読みいただきありがとうございました。


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