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 二日後、新しく造りあげたウインチェスターM12散弾銃(ショットガン)と無煙火薬用シャープスライフルを持って、石動はクレアシス王国郊外の岩山に来ていた。

 とりあえず、試射して試したいことがあったからだ。


 まずは100メートル先の標的でシャープスライフルのサイトイン調整を済ませ、それから遠距離射撃の精度を確認してみる。

 200メートルと300メートル先に置いた標的には、50-110WCF弾は良好な成績を叩き出した。あきらかに黒色火薬弾よりピープサイトの修正目盛が少なくて済んだということはつまり、弾頭があまりエネルギーを失わずに比較的緩やかな山なりの弾道を描いているということだ。


 ところが、それ以上の距離になると途端に勢いを失ってしまうことが判明する。


 400メートルでは弾道の落ち方が大きくなり、500メートルではそれが更に顕著となった。

 弾頭を飛ばす圧力に対し、弾頭自体の重さの方が勝ってしまっているせいだろう。

 これでは黒色火薬と変わらず、ヴァージニア・タンサイトで空を撃つような山なりの弾道で狙うしかない。


「う~ん、やはり弾速が足りないな。圧力を上げないと中距離までしか使えないということか。かりに小口径化して弾頭を軽くしても、これでは火薬を改良しないと同じことだな・・・・・・」


 やはりなんとかして緩燃剤を配合して、長距離射撃に対応できる無煙火薬を完成させねば、と石動は思いを新たにする。

 それと同時に、ぶつかった壁の高さに憂鬱となった。思わず愚痴が石動の口からこぼれ出る。


「あ~あ、どっかにトルエンが落ちてないかなっ! ねぇねぇ、ラタちゃん知らない?」


 ラタトスクは日陰の涼しい岩棚で、栗鼠姿のまま丸くなって寝ていたが、薄目を開けて答える。

『知ってるけど知らない。まぁ、気にしなくても()()()()()()()()()

「なんだそれ・・・・・・意味わからん。はぁ~」


 石動はその日、何度目かの深いため息をつくのだった。


 気分を変えるために、岩で出来た柱の幾つかに標的を張り付け、近接戦闘(CQB)的な射撃訓練をすることにした。


 マジックバッグからウインチェスターM12トレンチガン仕様を取り出す。

 ヒートシールドと一体となった着剣装置に、以前壊れたシャープスライフルに付けていた銃剣を装着する。

 

 次いで無煙火薬で自作した12ゲージの弾薬を取り出した。


 今回作ったのは、9発の散弾が詰まったダブルオーバック(九粒弾)と、弾頭自体にライフリングのような溝を刻んで、回転しながら安定した弾道で飛ばすことができるライフルドスラグ(一発弾)の2種類だ。

 前世界のようにプラスチックが無いので、散弾といえども薬莢は全真鍮製のゴツイものだ。ダブルオーバックの先端はワッズと蝋で蓋をしてある。

 

 石動はまずダブルオーバックを手に取ると、M12の先台(フォアアーム)を手前に引いてスライドさせて遊底を解放すると、薬室に一発放り込んで先台を銃口方向にスライドして遊底を閉じる。

 それから銃を裏返すと銃身の下に設えたチューブマガジンに次々と弾を込めた。


 準備ができると、石動はスタートラインと決めた場所に移動して銃口を斜め前に向け、半身になってて構える。


 フーッと息を吐くと、心の中で「GO!」と叫んで、突入と見立てた岩柱が何本もある中に駆けこんだ。

 色々な高さの岩や砂で出来た柱が林立しているが、標的を張った柱が仮想敵だ。


 飛び込んですぐに標的を貼った岩が眼に入った。


 バウンッ! ジャキン チリンッ

 

 石動は紙の標的に向けてM12を発砲し、9発の散弾を浴びせるとフォアアームをスライドさせて空になった薬莢を排出させ、次弾を送り込む。

 排莢された大きな真鍮製の空薬きょうが地面に落ちて、いい音をたてた。


 ダブルオーバックを近距離で撃ち込まれた標的は穴だらけになり、岩柱から派手に砂埃が舞い上がる。


 バウンッ! ジャキン バウンッ! ジャキン


 岩柱の間を駆け抜けながら、次々と標的に散弾を撃ち込む。


 6発撃ってチューブマガジンが空になった段階で、薬室に1発残しながら手に2発のダブルオーバックを持って素早く装填するコンバットリロードの練習もした。

 

 何度かリロードを繰り返し、最後には標的に向けて引き金を引いたまま、フォアアームをスライドさせるだけで連続発砲できるスラムファイアを試す。


 そんな攻撃に直径30センチほどだった砂岩で出来た岩柱は、ダブルオーバックの強烈な連射を受けきれず、標的を貼った場所から削られて折れてしまった。


 ズズーンッと音をたてながら倒れ込んできた岩柱を避けると、石動は顔がほころんで笑顔になり、手に持ったM12の性能に満足する。

 思う存分撃ちまくり、身体を動かしたおかげで、気分も晴れた。撃ち終わった真鍮製の薬莢は再利用するので拾っておく。


 ついでに100メートルの標的にライフルドスラグを撃ってみると、猛烈な反動が肩を襲ってきたが、なかなかどうして狙ったところにまとまるのが分かった。

 200メートルになるとかなり弾着が乱れ、銃弾が届かないことは無いという程度だと分かる。


「この火力なら、近距離なら無敵だな。いざとなれば銃剣もあるし。・・・・・・そうか、考えてみれば、燃焼速度が速い無煙火薬の特性を生かした中距離用の連発銃を造るのも面白いな。近距離はショットガンで何とかなりそうだし。それに拳銃とかもアリじゃない? すぐに緩燃剤も見つかりそうにないし、それまでの間、検討してみる価値はあるかもな・・・・・・」


 


 その夜、宿に帰って部屋に入ると、ロサが戻っていた。

 

 驚いた石動が、思わず声をあげる。

「ロサっ! おかえり! 驚いたよ。リーリウムは元気だったかい?」

「ウフフ、ただいま。リーリウムがあなたによろしく、と言っていたわ」


 部屋のソファに座っていたロサが立ち上がると、笑顔を見せながら石動を迎える。


「でも、ロサ。もう少しゆっくりしてくるような話じゃなかったっけ? もちろん私は嬉しいけど、良かったの?」

「うん、もういいの。それよりツトムの方こそ上手くいってる? そういえば肩にかけてる銃が違うわね。新しいのが出来たんだ!」

「そうなんだ。でもどこから話したものか・・・・・・」

「時間はたっぷりあるわ。全部話してよ」


 それから石動はカプリュス工房であった話を、ロサに順序だてて話すことになる。

 途中で部屋に夕食が運び込まれ、食事をしながら話は続いた。


「・・・・・・というわけで、ちょっと今、壁に当たっていてね。何とかできないか、方法を模索している状態なんだ」

「ウフフ、『壁』ね・・・・・・」

「うん? なにか言った?」

「ううん、何でもない。こっちのこと」


 石動は不思議に心が落ち着くのを感じていた。

 ロサに壱から話を聞いてもらうことで、自分の考えがまとまり、状況を冷静に分析できたことにも気がつく。


「リーリウムの言うとおりだったわ」

「えっ?」

「リーリウムがね、ツトムがこの世界に無いものを造り出そうとしているなら、商売でもそうだけど何事も最初が一番大変なんだって。肉体的にも精神的にもボロボロになることがあるって言ってた」


 ロサは立ち上がり、テーブルを回ると石動の隣に椅子に座り、石動の両手をとる。

「そんな話を聞いたらツトムは大丈夫かな、って心配になって帰ってきちゃったの。リーリウムにもツトムの心の支えになってあげなさいって言われちゃったしね」

「・・・・・・」

「だから、ツトム。これからもいろんな『壁』にぶつかると思うの。そんな時はひとりで悩まないで、私にも話してちょうだい。私は聞いてあげることしか出来ないかもしれない。でもひとりで抱え込むより、二人で抱えたほうが軽くなることもあるんじゃないかな」

「・・・・・・ロサ、ありがとう。本当に話を聞いてもらっただけで心が軽くなったような気がする」


 石動は自分の頬が濡れていることに気付き、手で触ると自分の流した涙だと分かって、更に驚く。

 自分は自分で思っていた以上に思い詰めていたのか? 

 思えば、孤独な作業に心が折れかけていたのかも・・・・・・?

 必要だったのは自分を理解してくれる人の暖かい言葉だったのかもしれない。

 それがロサの言葉だったということだろうか・・・・・・。


 石動は何年かぶりに人前で涙を流したという事態に、少し動揺しうろたえながらも、心が暖かくなるのを感じていた。


 そんな石動を見て、ロサは立ち上がると、椅子に座って呆然とする石動をそっと抱きしめる。


 抱きしめられた石動がハッとして、上向きに顔を上げると、ロサのエルフらしい美しい顔が目の前にあった。

 そっと抱き寄せると、ロサの唇が近づき、石動は優しく口づけする。

 そしてしばらく二人は、お互いのぬくもりを確かめ合うように抱き合ったままだった。


 

 その時、抱き合っていたロサが心の中で「(リーリウム、ありがとう!)」と感謝の言葉を叫んでいたとかいないとか・・・・・・。

 後日、ロサがリーリウムにアドバイス通りにしたら上手くいった、と報告した時、リーリウムが「ロサ、グッジョブ!」と親指を立てていいね!としながら、「(ザミエル、チョロッ!)」と心の中で呟いたというのはまた別の話。


お読みいただきありがとうございました。


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