エドワルドの出立
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結局のところ石動が最初に造る無煙火薬使用の銃は、いろいろと考えた挙句、まずはシャープスライフルを造り直すという常識的な線に落ち着いた。
ディアトリマにハンマーが折られてしまったほうは、パーツを修理したうえで、ドワーフに教える時の教材に使用するつもりだ。
その時にシャープスライフル以外の銃を造ってしまっていると、ドワーフ達が目移りしても困る。
連発できる銃と単発銃なら、誰だって連発銃を欲しがるだろう。
それに石動はドワーフには無煙火薬ではなく、黒色火薬の弾丸しか渡すつもりはない。
そのためには、まずはシャープスライフルを造って見せるしかないのだ。
ただせっかくなので、ついでに石動も狙撃用に作ったシャープスライフルを、無煙火薬対応可能に造り直そうと思っている。今の黒色火薬仕様のままで無煙火薬を詰めた弾薬を使用したら、間違いなく弾薬の発砲時に発生する圧力に耐えきれず、機関部か銃身が破損するからだ。
石動は、今のシャープスライフルの口径が50口径なのでそのままにして、弾薬を50-110WCFを再現しようかと考えている。
無煙火薬を使用する50-110WCFというカートリッジは、銃さえ耐えられるなら火薬量と弾頭の重さ如何では、最大6,000フィートポンド(8,100J)という巨大なエネルギーを発揮できるポテンシャルを持っている。
これはアフリカで象撃ちに使用される弾薬として有名な、458ウインチェスター・マグナムの最大値5,336フィートポンド(7,235J)というパワーを超えるものだ。
プロのハンティングガイドが使う最大口径である600ニトロ・エキスプレスという弾薬の、6,840フィートポンド(9,270J)の威力に近い。
カプリュスの造った合金がこの50-110WCFの圧力にどこまで耐えられるか、火薬量や弾頭の重さを変えることで、段階的に試す材料としてはちょうど良いと思ったのだ。
「(もし、最大値の能力を引き出せるほどの銃が出来あがったら、あのキングサラマンダーだって倒せるかもしれないな・・・・・・。せっかくの大口径なんだし、象でも倒せるエレファント・ガンというのも面白いかも)」
本当は、せっかくの無煙火薬が出来たのだから、黒色火薬よりも速い弾速で撃てる利点を活かした銃や弾薬を造りたい。
今までは黒色火薬の弾速の遅さを、弾頭の大口径化と火薬の増量という力技によって、相手に与えるダメージを大きくしてきた。
黒色火薬だと長距離射撃をする場合は、高い山なりの弾道を描く必要がある。無煙火薬なら低い山なりのフラットに近い弾道を描けるはずだ。
これからは高性能な無煙火薬の弾速の速さやエネルギーによって、そこまで大口径にしなくても黒色火薬弾以上のダメージを与えることが可能となるだろう。
クロムモリブデン鋼の合金が完成し、シャープスライフルで試して高圧力に耐えられるなら、次の段階に進むことができると石動は考えている。
合金完成後に契約通り、シャープスライフルの作成方法をカプリュスに伝授し終えたら、その後は新しい銃を造るつもりだ。
まず造るとしたら、今のシャープスライフルの代わりに銃剣の取り付けが可能で、接近戦用の銃として使える散弾銃が欲しい。
銃剣を着けられる散弾銃といえば、トレンチガンとしてウインチェスターM1897が有名だ。
12ゲージで作動方式はポンプアクションの銘銃で、映画「アンタッチャブル」でショーン・コネリーらが使っていた。
モデルガンで石動も持っていたほど好きな銃だが、シャープスライフル同様にハンマーが露出しているのが安全面や防塵性からみても難点となる。
そこで石動はウインチェスターM1912トレンチガンを再現しようと考えている。
ウインチェスターM1912はハンマー内蔵式であり、露出する機関部も少ないので泥や埃に強く、頑丈で確実なポンプアクション散弾銃だ。累計200万丁以上生産されたと言われている。
トレンチガンとしては第一次大戦からベトナム戦争までアメリカ軍に使用された。銃身の上に遮熱板のヒートシールドと銃剣の着剣装置が付いているのが特徴だ。
銃身の下に設えたチューブ弾倉に6発装填できるので頼もしい。
銃剣を着剣したM12を肩に掛けておけば、近距離での戦闘なら大概のことには対応できるだろう。
バックショットという散弾は、一発の中に32口径の拳銃弾ほどの大きさの鉛球が9個も入っている。前世界では鹿狩りなどで、一般的に使用されていた弾だ。
これを6発も続けざまに撃てば、その弾幕に耐えられる生物は少ないだろう。
それに散弾だけでなく一発玉弾も撃てるので、100メートルくらいの距離なら熊でも倒せるだけの精度と威力があるのだ。
対人戦を想定するなら、相手が剣や槍の間合い程度であれば、それは散弾銃にとって必殺の間合いだと言える。石動は相手が4、5人くらいまでなら、散弾銃の圧倒的な火力で制圧できる自信がある。
「(それ以上の人数が相手なら、まぁ逃げるが勝ちだよね。一旦、距離をとって狙撃していくのが一番だろうな。そのために中距離から遠距離をカバーできるライフルが必要だ。セミオートマチックのライフルがあればいいんだけど、再現するにはまだスキルが足りないから、できるとしたら初期のボルトアクションライフルになるか・・・・・・)」
いずれにせよ、カプリュスの合金鋼を試してからでないと、いくら考えても絵に描いた餅だ。
石動は考えるのをやめ、時間まで真剣に火薬量や弾頭の重さを変えた50-110WCFを、何種類か試験用に造り続けた。
宿に帰ると、既にエドワルドが部屋に戻っていた。
ロサは石動がドワーフの研究室に入り浸るようになった頃に「私、暇だからサントアリオスのリーリウムの家に行っているからね」と言ってノークトゥアム商会の馬車に同乗して帰っていった。
石動の銃の製造が終われば、また合流する約束になっている。
エドワルドが、部屋に入ってきた石動を見ると、ソファーから立ち上がり歩み寄ってくる。
「ザミエル殿、長らくお世話になった。吾輩も次の予定ができたので明日、ここを引き払おうと思うのだ」
「そうですか。名残惜しいですね・・・・・・」
エドワルドを胡散臭く思っていた時期もあったが、ディアトリマに食われかけた時に命を懸けて助けてくれたのは事実だ。
エドワルドの狙いがなんであれ、石動の感謝の気持ちは変わらなかった。
「貴方は私の命の恩人だ。借りを返さぬままお別れするのは心苦しいが、またお会いすることがあればその時にお返ししましょう」
「いやいや、もう素材やこの宿代などで返してもらったようなもんだし。気にしないでくだされ。でもまあ、そう言っていただけるなら、次回お会いするときを楽しみにしておきましょうかな」
その夜は部屋に酒を運んでもらい、食事とともにふたりで飲んだ。
話し上手なエドワルドの話に石動も笑わされ、盛り上がる。大いに飲み食いした後、明日早くに出立するというエドワルドの言葉に、その場はお開きとなった。
石動はエドワルドと堅く握手を交わし旅の無事を祈る、と言い残し、酔ってフラフラしながら寝床に向かう。
エドワルドはテーブルに着いたまま、グラスをグイっと飲み干し、笑顔でその姿をみおくりながら呟く。
「まぁ、すぐにまた会うことになると思うのだがな。ツトム殿」
酔っていた石動に、その呟きは聞こえることはなかった。
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