表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/159

雷管

 さあ、今日は遂に弾薬造りの最大の難関「雷管」を造りあげるぞ! と石動は気合を入れる。


 厳密には、エルフの郷で黒色火薬の金属薬莢弾に雷管を装着して狙撃に使用したし、今も腰の大型デリンジャーにはその金属薬莢弾が入っている。

 

 が、しかし。


 あくまでそれは火の魔石を使用した雷管で、前世界の物とは全く違う。

 この世界のもので代用できるなら出来るだけ利用したいが、火の魔石は非常に高価なので、コストパフォーマンスが悪いのだ。だから金属薬莢弾をコストダウンするためには、安く造れる雷管の開発が必要なのである。


 また、黒色火薬の性質は爆薬に近く、火が着けば爆発に近い燃焼を起こすので、火の魔石でも問題はなかった。

 しかし、無煙火薬は推進薬としての燃焼材なので、火の魔石では瞬間的に燃焼させるには力が足りず、心許ないのも理由の一つだ。前世界の雷管のように化学反応で爆轟し、薬莢内の火薬を一気に燃焼させるだけのパワーが欲しい。


 そこで石動は雷管用の起爆薬として、硝酸のほかはコストがかからず、この世界でも入手可能な材料を使って造ることができる雷酸水銀を選んだ。

 雷酸水銀の原材料は、硝酸と水銀にエチルアルコールだ。

 水銀は山岳民族の国「モンターニュ」やこのクレアシス王国でも産出するらしく、麓の街で豊富に購入することができた。エチルアルコールは酒精なので、ドワーフの国に無いはずがない。

 

 前世界では水銀の公害汚染が問題となって廃れてしまった、ごく初期の起爆薬だが背に腹は代えられない。

 現代で主流のジアゾジニトロフェノールなんてどうやって合成すれば良いというのか?

 石動にはサッパリ見当も付かない。


 石動としてはそこは割り切って、現実的に造れるものを造る、というのが現在の方針だ。



 今日も万一の事故を考慮して、セーフルームの中にある机の上で作業することにした。

 

 広げた魔法陣の上に濃度60%に調整した硝酸と水銀を置く。

 そのまま硝酸の中に水銀を入れて融解しても良いのだか、時間がかかるし不純物の除去も兼ねて、錬金術スキルを使うのが一番だ。


 スキルを発動し、硝酸と水銀を「抽出」し「調合」する。本当なら硝酸水銀溶液の温度の調整や管理などいろいろと面倒なのだが、スキルだと一瞬で完了するから助かるな、と石動はいつもながら感心してしまう。

 出来上がった硝酸水銀溶液とエチルアルコールを魔法陣の上に置き、世界樹の樹液で造った大きめのフラスコの中で反応させることにした。

 スキルでエチルアルコールを「抽出」しフラスコの中の硝酸水銀溶液と「調合」した。あっという間に化学反応を起こし、ボコボコと沸騰して泡立ってくる。

 スキルのおかげですぐに泡立ちも収まったので、「錬成」し「組成」する。本来なら必要な厳密な温度管理や、生成した結晶を水で洗ったりする手間もないので、非常に楽だ。


 フラスコから出来上がった雷酸水銀の結晶を取り出す。

 結晶をみた石動の頭の中に「雷酸水銀」という言葉が浮かんでくる。

 成功した。

 それなら次はいよいよ、雷管の作成だ。

 

 雷酸水銀の結晶を「精製」し、僅かの量を薄い銅の小さなキャップに詰めて、ボクサー型雷管を「錬成」「組成」する。

 エルフの郷で火の魔石を使って造った時より、ランクが上がったせいなのか、以前よりも速いスピードで苦も無く造ることができた。


 出来た。

 出来てしまった。

 

 この世界に来てからまだ1年も経っていないが、1から銃を作るのに最も大きな壁だったのが、この雷管だった。

 銃が作れても弾が無ければ始まらない。

 ラノベや漫画の主人公のように、異世界に転生して簡単に銃を撃ちまくる奴らを何度、羨ましく思い呪ったことか。

 幸い、エルフの郷で錬金術の師匠に恵まれ、代用品でなんとかやってきたがそれもこれまでだ。

 

 ついに本来の雷管が完成したのだから。

 しかもコストは火の魔石の何千分の1に過ぎない。


「(考えてみれば、錬金術スキルも相当チートだよなぁ。錬金術と鑑定スキルが無かったら、ここまで出来なかっただろう)」

 石動は無煙火薬ができた時より感動している。銅製の小さなキャップを指で摘みながら、こいつのためにどれだけ苦労したか、転生してからのことを思い出していた。

 

 でも、感慨にふけっているわけにもいかない。

 雷管が出来たのなら、是非、発射実験をしなくては。


 石動は狙撃用のシャープスライフルをマジックバッグから取り出した。

 以前、黒色火薬を使用した50-90金属薬莢弾を作った際に、多めに造ってストックしていた真鍮製薬莢を使い、雷酸水銀を使用したボクサー型雷管を填める。


 無煙火薬の使用量は、黒色火薬の3分の1くらいの量で、同様の威力になると言われている。

 高性能な無煙火薬を黒色火薬と同じ量を詰めると、発砲した時の圧力が高すぎて銃が破裂してしまうのだ。

 あくまでテストなので、薬莢に入れる無煙火薬の量は、黒色火薬の場合の4分の1くらいの量にしておいた。

 逆にあまり少なくして、銃身内で弾頭が止まってしまっても面倒だ。


 出来上がった50-90無煙火薬金属薬莢弾を見て、また石動はウルッときそうだった。

 苦労した挙句に授かった、我が子に近い感情がこみあげてくる。

「(と言っても、独身だし、子供持った事無いけどな・・・・・・)」

 まじまじと弾丸を見ながら複雑な感情となり、石動は泣き笑いのような、苦笑いのような変な顔をしてしまう。


 気を取り直してセーフルーム内のテーブルの上に台を設え、シャープスライフルを固定した。銃口の先は土壁だから、特に配慮は要らないだろう。

 レバーを下げてチャンバーを開き、薬室に無煙火薬の金属薬莢弾を込める。レバーを戻して閉鎖したら、引き金に紐をつけ、石動は遮蔽板の後ろに隠れた。


 遮蔽板の裏で紐を引くと、引き金が引かれ、ハンマーが撃針を打つ。


 バンッ


 火薬量が少ないせいか、室内なのに銃声はさほど響かず、無事発射できた。

 石動はシャープスライフル手に取り、レバーを下げてチャンバーを開く。

 チンッという音とともに発射済の空薬きょうが排出される。


 薬室内や機関部、銃身内も点検してみたが、異常はないようだ。


 続いて10発ほどテストしてみたが、無煙火薬と雷管の発火能力に問題は無い、と結論付ける。

 もちろん、さらに実地テストもおこなう必要があるが、成功したことで石動は既に次の銃を考えるとワクワクしてきた。


 これで念願の連発銃の開発が可能となったからだ。


 「(よしっ、どの銃を造ろうかな・・・・・・。長距離射撃用のボルトアクションライフルは必須だけど、いきなりレミントンM700のような精度は無理だろう。やはりモーゼルライフルあたりからやってみるのがいいか・・・・・・。それとは別に接近戦で使える銃も欲しいな。う~ん・・・・・・)」


 目眩がし始めるまで、雷管を錬金術スキルで作り続けていた石動だが、頭の中では悩みが尽きなかった。

お読みいただきありがとうございました。


よろしかったら、評価やブックマークをお願いします。

折れやすい作者の心を励まし、書き続けるための原動力となります。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ