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異世界スナイパー  ~元自衛隊員が剣と弓の異世界に転移したけど剣では敵わないので鉄砲鍛冶と暗殺者として生きていきます~   作者: マーシー・ザ・トマホーク
世界樹

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渡り人

設定説明回はここまで。

途中、スキルのランク等の説明がありますが、物語の中では余り重きを置いておりませんので、読み飛ばして頂いても大丈夫です。

機嫌が良くなったラタトスクは、得意気に続けた。


『では次にこのミルガルズ大陸の説明をしよう。大陸のほぼ真ん中辺りに5,000メートル級の山々が連なる山脈があって、そこを境に大雑把に言うと上が帝国勢力圏、下が王国の勢力圏と分かれてる。

 もちろん、それそれに所属しない中小の国々があって、例えばこの回りの森一帯はエルフ族が治めてる。山脈から流れ込んで森を通る大河の下流に主に人族が支配する王国がある感じかな。

 あとは各地にいろんな種族の地方豪族や山の中のドワーフの国などの小国が点在して、興亡を繰り返してるんだ。割と弱肉強食の戦国時代がここ百年ほど続いているよ』

「百年って長いなぁ。今の話だと帝国と王国の争いに皆が巻き込まれてる感じ?」

『まぁ、豪族が群雄割拠してあちこちで争ってるけど、イサムが言う通り帝国と王国の闘いが(いくさ)としては一番大きいかなぁ』


 ラタトスクの説明を聞いていると、やはり中世ヨーロッパか日本で言えば戦国時代に似ていると石動は感じた。


「帝国と王国はどっちが強いんだ?」

『ほぼ互角だから戦乱が長引いてるとも言えるね。帝国は規模も大きく人口も多い。亜人や獣人も暮らし、獣人のみの部隊もあるから戦闘力は高いのだが、皇帝の統率力に問題がある。

 初代皇帝はカリスマ性と武力・胆力を備え持った人物で、帝国をまとめ上げ版図拡大した傑物だったが、ろくな後継者がいなかった。

 醜い跡目争いの末、先代皇帝になったのが猜疑心の強い小心者でな。現皇帝はその息子でプライドだけ高い俗物だ。家臣や貴族たちの不満は高まっている』

 

 遠い目をした石動は、他人事として相槌を打つ。


「どこの世界も後継者争いは大変だなー。」

『フフッ、セリフに感情が籠っていないなツトム。ちなみに帝国と違って王国は人族至上主義の国だから人族同士の結束は強いが亜人達には地獄だな。

 前王は骨肉の争いや粛清の嵐を潜り抜けたしたたか者で、権謀術数を好む残酷な男だったよ。人望はなかったけど戦には強いから、家臣もそれなりに一騎当千の者を取り立てたりして皆従っていたんだ。

 どんどん周りの小国も切り従えていくんで、このままだと帝国とのパワーバランスが崩れるかもと思ってたら、最近前王は息子のクーデターによって殺されてしまったんだ。

 今はその息子が王となり国をまとめている最中だけど、旧家臣たちも現王を支持している様だから、従えるだけの力はあるんだろうな』


 石動は、正直各国の詳細な兵士の数や武装内容、過去の戦績やそれぞれの国がとった戦略戦術などを聞いて分析してみたかったが我慢した。

 一番聞きたい質問をまだ聞いていなかったからだ。


「ざっくりしたこの辺りの状況は分かった。では肝心の『渡り人』とは何なんだ? 」

『何だと聞かれると返答に困るな。「渡り人」は何百年に一度の頻度で突然現れる不思議な存在だ。

 ツトムの様に明らかにこの世界の者とは違う装いをしていることが多く、聞いたこともない言葉を話す。 

 ちなみにこの世界は皆、共通語を話すからすぐに分かるんだ。他の大陸での出現例もないことはないが、不思議とこの森での出現率が高い。

 私の個人的な推測だが、この森のどこかとツトムの世界が交わるときに次元の狭間が生じ、その時その場にいた者が「渡り人」となるのではないかと考えている』

「ええっ、じゃ自分はその次元の狭間とやらに巻き込まれたということ?!」

『う~ん、巻き込まれたというのはそうとも言い切れないんだよな~』


 ラタトスクはう~んと考え込むように首を捻りながら石動を意味ありげに見つめる。


『今までの「渡り人」は全てその時代の節目に現れて、それぞれが極めて重要な働きを果たしている。

 例えば200年前の時は貨幣経済という概念が持ち込まれ今では全世界に普及しているし、その前は農業革命が起こった。

 そう考えると「渡り人」は、時代の変換期に役目を持って選ばれて送り込まれてくる重要人物なのではないかとも思えるんだ。だから「渡り人」を見つけたら大切に保護して連れてくるよう徹底されている』


 ラタトスクは笑みを消して、ジッと石動を真顔で見つめ、静かに尋ねた。


『だからツトム、君はどんな役割を担って、この世界に来たんだい?』




   

「なんだそりゃ」

 石動は思った。役割だって? 重要な役目を持つとはどういう意味だ?

 だいたい、自分は熊に吹っ飛ばされて気が付いたらこんな訳の分からない世界にいたと言うのに、役割も何も無いだろう。

 精霊だかなんだか知らないが、元の世界に戻れるかもと思って黙って聞いてれば自分がこの世界に重要な役割を果たすだと?

 それってもう帰れない前提だよね!

 いろいろ考えていると段々とムカついて来た。

 このペタパイのロリッ娘め!


『何やら失礼な思念が伝わってきたんだけど?』

「ラタちゃん、自分は元の世界では自衛隊員、こちらで言うなら唯の軍人に過ぎない。少しばかり銃の扱いは得意だが、そんな大層な役割など果たせるとは思えない。何かの間違いではないだろうか? 間違いならさっさと元の世界に戻して欲しいんだけどな」


 真剣な顔で石動はラタトスクの眼を見つめたが、ラタトスクは首を振った。


『残念ながら「渡り人」で元の世界に帰ったと言う記録は無い。だから戻す方法は分からないんだ。それにツトムの職業属性は剣士や騎士の様な軍人としての素養は人並み程度で、どちらかと言うと「錬金術師」や「鍛治士」の素養が高いようだぞ』


 ラタトスクの説明によれば、この世界の住人は10歳になると皆、世界教の神殿に行き、神官に自分のスキルにあった職業を鑑定してもらうのだそうだ。

 そして各人が教えられた職業に励み、自分のスキルを伸ばし職業レベルをアップしていくことで成長していくという。


 ハッとして石動は身を乗り出した。


「剣士? 騎士? この世界には銃は無いのか?」

『銃とは何だ? 戦士が使う武器なら剣、槍、弓などが普通だけど』

「ええええっなんだって! 銃自体が無い?! それなのに戻れない?! なんでそんなところに自分が・・・・・・。何の楽しみもないじゃないか・・・・・・」

 

 ショックを受け呆然とする石動と、石動から銃の概念を読み取り肩から下ろしたライフルの実物を見て興味深々なラタトスク。

 

 ハッと気が付いて石動はラタトスクに向き直る。


「ラタちゃん、ひょっとして自分の職業属性だの素養だの見えてるの?! 『ステータス』とか言ったら自分にも見えるのかな?」

『ステータスとやらの意味は分からんが、私の能力(スキル)アカシックレコードで見ているよ。ツトムの職業は「???」となっていて分からないんだ』

「ええっ! 魔法は無くてもスキルはあるんだ・・・・・・」


 

『神殿の神官達は私ほどの能力(スキル)が無いから詳しくは伝えられないからツトムはラッキーだな! 

 私が直々に見て特別サービスで詳しく教えてあげよう』


 ラタトスクはポンッと机の上に羊皮紙と羽ペンを発現させると、スラスラと何やら書き始めた。


 【 ツトム・イスルギ 】

 職業 「????」

 職業スキル

 ・錬金術師  1/99

 ・鍛冶師   5/99

 ・鑑定    1/99

 ・暗殺者   8/99

 ・銃使い   10/99

 ・狩人    6/10

 ・兵士    6/10


『これはスゴイ。異常なほどのスキルだ。流石は渡り人ということか。でもツトムのスキルは物騒なのが多いねー。マジで何しに渡ってきたのやら』

「えっ、スキルがいくつもあるけど、これは普通なのかな? 良く分からん??」


 ラタトスクはニヤッと笑い悪戯っぽく付け加える。


『説明は必要かな?』

「もちろん、お願いします! そもそもスキルって魔法とは違うものなの? 『錬金術』とか『鑑定』とかって自分には魔法の一種に思えるんだけど」

『まず言っとくけど、普通の人なら職業がはっきり表示されているし、スキルも職業に必要なものが一つついているのが普通だよ。例えば「剣士」なら「剣術」のようにね。こんなに何種類もスキルが付いているなんて異常だとしか言えないな。

 そしてスキル上限は普通は10くらいで、その人の努力次第でレベルアップするが上限値でストップする。とは言え0のうち6までレベルアップすれば人並み以上、8までいけば達人だし、カンストしてる人なんてめったにいないほどなんだからね。

 だからツトムの職業不明とかスキル上限99っていうのがまず異常だし、見たことないよ。

 そして職業に付随するはずのスキルがこんなについているのは珍しいだろう。

 それに「銃使い」ってスキルも初めて見た。「暗殺者」は「隠者」の上位スキルで、気配を感じさせないで対象を倒す文字通りのものだね。兵士は言わなくてもわかるか』

「ふんふん。(転生ものに付き物のチート仕様なのか。でもなんとなくスナイパーのスキルみたいな感じがするなぁ。)」


 ラタトスクは右手を顎に添え、は考え込むように呟く。

『問題は「錬金術師」や「鍛冶師」と「鑑定」の上限99だね。ドワーフの王で昔、スキルレベル60をカンストした伝説の鍛冶神がいたと言われていて、その作品は神器と呼ばれているほどなんだ。

 錬金術師の始祖と言われている人もスキルレベル50位じゃなかったかなぁ。文字通り、不思議な金属や薬を創り出していたらしいよ』

「自分は錬金術なんてやったことも見たことも無いんだけどな。もちろん鑑定なんてのも元の世界にはないものだし。(マンガの主人公みたいに"錬成!"とか"鑑定!"とかキメて見たいかも・・・・・・)」

 ニヤニヤしながら妄想するツトムを呆れたようにラタトスクは眺める。

 ハッとして石動はラタトスクに尋ねる。

「さっきも聞いたけど錬金術のスキルって魔法とどう違うんだろう。何かを創り出すのが錬金術だとしたら、それって魔力無しに出来るものなのだろうか? 自分には魔法でも使わないと不可能に思えるんだけど」

『まあ、魔法やスキルの無い世界から来たのなら、ツトムにとってスキルは魔法のように感じるかもしれないね。でも、魔法を使えない人間でもスキルならレベルに応じていろいろなことが出来るようになるのは間違いない事実だ。ツトムの場合は上限レベルは凄いけど、現在のレベルは1だから錬金術も鑑定もほとんど何も使えないと思うよ』

「ええっ?!」

『だからまだスキルレベル1で初心者なんだから仕方ないでしょ。これからレベルが上がるにつれて出来ることが増えたり精度が上がったりするはずだよ。

 そういえば「鍛冶師」のスキルレベルが既に5なのは何か身に覚えがある?』


 不思議そうに尋ねるラタトスクに、石動は心当たりがありうなずく。


「自分の親父が町工場をしていたから、小さいころからそれを見ていたり使ったりしていたからかな。高校生の頃には自分でガスガンのカスタムパーツとか自作してたし・・・・・・」

『?? ほとんど後半は何言ってるか分からなかったけど、鍛冶は少し経験があるということだね。

 だったら、しばらくはこの集落で暮らしてみたらどうかな。街の中には鍛冶屋もあるし、錬金術を学ぶ場もあるからね。

 スキルのレベルを上げていけば、ツトムのやらなければならないことも見えてくるかもしれない』

 

 ラタトスクは再び花が咲いた様な笑顔を石動に見せると、うんうん、とうなずいて見せた。


「ラタちゃん、自分は凡人だよ。スキルが凄いだの何だの言われても今一つピンとこないしね。自分は勇者でもなければ歴史を変えるような偉業をなせるような人間だとはとても思えない。だから、期待されてるようで悪いんだけど、自分は自分の出来る事しかできないし、やるつもりもないよ」


 石動がラタトスクの眼を見ながら静かに言うと、それを聞いてラタトスクは同様に石動の眼を見てじっと考え込んでいた。


『では、ツトムはどうしたいんだい?』

「さしあたっては特にないな。まずこの世界に慣れる必要があるし。あっ、銃が無いんだったら自分で造りたいかな。そのために鍛冶を勉強して鉄砲鍛冶になるのはいいかもね!」

『フフフッ、いいんじゃないかな。面白そうだ。応援してるよ』


 ラタトスクは悪戯っぽく微笑みながら、思惑ありげに、でも楽しそうに頷いてみせた。

『(・・・・・・フフフ、鉄砲鍛冶だって? 鉄砲を造るということがこの世界にどれだけ大きな影響を与えるか、ツトムは分かっているのかね。いずれにしても面白くなりそうだ)』

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