代償
感想なども頂いていて、ありがとうございます。
返事はできていませんが、嬉しく思いながら全部読んでいます。
褒められて伸びるタイプです。
これからも「楽しい」「面白い」といった感想が、筆者を木に登らせるでしょう。
石動は何となくだが、もしかしたらカプリュスがそう言いだすかも、と予想し対策も考えてきていた。
なので内心では「(ヨシッ! 思った通りだ)」とガッツポーズしながらも、表面的には顔を顰めて腕組みをし、難しいという表情をして見せる。
「う~ん、そう言われましても、『銃』はわが方の秘伝中の秘伝ですからねぇ。簡単にお教えするわけには・・・・・・」
「そりゃそうだろうな! わかるぜ。その、あれだ、なんなら教えてもらえれば代価を払うぞ!」
なんだか立場が逆転してきたぞ、と石動は可笑しかったが、表情は渋面を崩さない。
石動が考え込むような素振りをして、わざと黙り込んでいると、カプリュスが慌てたようにワタワタしながら言葉を継ぐ。
「その特別な鋼とやらは、どのくらい必要なんだ? まあ金属粉は用意してもらわないといけねぇが、最優先でやってやるぞ! 他に必要なものがあるなら遠慮なく言ってくれ、なんでも用意しよう!」
石動は内心ニヤリとして「(よしっ! 言質はとった)」と再び心の中でガッツポーズをとる。
「わかりました。そこまでおっしゃって頂けるなら、私も覚悟を決めましょう。そのかわり、我が家の秘伝をお伝えするのですから、他に漏らすことが無きよう、きちんと守秘契約書をつくること。そして守秘契約を守るということを神前で再び誓っていただくのが条件です」
「わかった!」
「それから私が錬金術を使って素材を抽出したりする場所を提供していただけますか? 私は新たな鋼が出来たら、いろいろと試作品を作るつもりです。したがって錬金術を使ったり、鋼材を使って試作品を造っても問題ないスペースが欲しいのです。できれば、工房長に銃の作り方をお教えしながら、作業できる距離にあるような場所だと好ましいのですが・・・・・・」
「大丈夫だ! 用意できる!」
「確認ですが、あくまでお教えする銃はシャープスライフルということでよろしいですね? 弾丸はどうしますか?」
「ダンガン?」
石動はマジックバッグからまた50-90紙薬莢弾を取り出して、カプリュスに示す。
「先程も説明した通り、銃は弾丸が無いと、その役目を果たせません。いわば、銃は弓で、弾丸は矢です。弓だけあっても仕方ありませんよね。そして、弾丸は鍛冶というより錬金術が必要です。どうしますか?」
「うう~む・・・・・・」
「なんなら、私が提供しましょうか? もちろん、私の試作品作りなどの作業が優先で、その合間に造ることができる範囲で、ということになりますが」
「もし、ダンガンの作り方も教えて欲しいと言ったら?」
「もちろん、別契約になりますし、相応の対価を頂くことになります。しかし弾丸こそが我が家の秘中の秘なので、決してお安くは無いですよ」
カプリュスはしばらく悩んでいたが、思い切ったように顔を上げて、石動を見て言った。
「よしっ! 決めた! 当面の間、ダンガンはザミエル殿に任せる。将来的に教えてもらう必要が出来たら、その時はその時だ。まずジュウを造れるようになることが肝心だしな!」
「わかりました。ではよろしくお願いします」
石動とカプリュスはお互いに右手を差しだし、ガシッと握りあう。
そして2日後に石動が契約書を用意して再びカプリュスを訪問することで合意し、石動とロサはカプリュスのもとを辞した。
それまでにカプリュスは石動に提供する場所を用意しておく約束だ。
帰りもラビスの案内で下まで降り、衛兵の居る検問所まで送ってくれた。
2日後に再訪する約束をしてラビスとも別れ、石動とロサは麓の街へとつながる道を帰っていく。
宿に着き、部屋に戻った二人は、ぐったりしてソファーにもたれかかる。
「はぁ~、なんか疲れたわね」
「まあね。でも交渉がなんとかまとまりそうで良かったよ」
ちょうどそこへ、エドワルドが帰ってきた。
「おおっ、もう帰っていたか。何やら疲れているようだが、上手くいかなかったのかな?」
「おかえり~。いや、なんか濃い一日で疲れただけさ。おかげさまで交渉はうまくいったよ」
「ほう、良かったら聞かせて貰おう」
エドワルドにドワーフの工房での体験を石動とロサで話して聞かせる。
エドワルドはホウホウ、と相槌を打ちながらにこやかに聞いていたが、カプリュスが代償に銃の製造法を知りたがり、教えることを条件に契約することになったと石動が言うと、急に顔色をわずかに変え黙り込んでしまった。
何やら腕を組んで考え込んでいるエドワルドを、不審に思いながら石動も尋ねてみる。
「エドワルドの方はどうだったんだ? 素材は高く売れたのか?」
「・・・・・・うん? おおっ、なかなかのものであったぞ」
聞けば、ディアトリマ巨鳥の素材や透明になる豹の素材は珍しく、非常に高値で売れたらしい。明るく話しているはずのエドワルドから、妙にいつもと違う印象を受けて、石動は内心で首を傾げる。
「それで結局のところ、お主はこれからドワーフの工房で修行というか、モノづくりを始めるわけだな。どれくらいかかるつもりなのだ?」
「う~ん、分からないけど、一か月くらいはみてるかな。いろいろと試してみたい事や教わりたいことがあるし・・・・・・」
「私は一か月もドワーフの工房で過ごすつもりはないから、近いうちにサントアリオスに戻ってリーリウムの所でゆっくりしてるわ。ドワーフの工房では私の護衛は必要ないみたいだしね」
「吾輩もそろそろ潮時であるかな。もうしばらくはこの宿にも世話になるが、近いうちにまた旅に出ることになるだろう。ザミエル殿のおかげで懐も温かくなったことだしな」
この夜の食事はめずらしくしんみりとして静かな夜となり、酒が進んだ。
今日明日にすぐに分かれるわけではないから、と早めにお開きにして、休むことにする。
翌日、ノークトゥアム商会を訪れた石動は、オルキスに法務部門の責任者を紹介してもらう。
法務責任者と相談しながら、石動はカプリュスと交わす契約書の作成に取り掛かった。
小一時間ほどかかって、満足のいく契約書を作りあげた石動は、法務責任者に報酬を払ってから大事にマジックバッグにしまい込む。
その後、以前にも訪れた錬金術の素材の店で、クロム鉱石と褐鉛鉱などを買い漁る。濃硫酸や珪藻土、水銀なども忘れない。カプリュスによってクロムバナジウム鋼が出来たとしても、無煙火薬や雷管が完成していなかったら意味がない。
石動はまず無煙火薬の生成から始めるつもりだが、硝酸水銀を使った雷汞なども並列して造れそうだし、雷管も同時に造れれば造りたい。
他にも素材の店を回って、必要なものを大量に購入した石動は、準備万端で宿に戻る。
いよいよ明日は、カプリュスとの契約の日だ。
お読みいただきありがとうございました。
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