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用件

 鍛冶場を出た4人は、再び工房長室の重厚な木製のドアの前まで戻ると、部屋の中に入る。

 部屋の中は、高級なマホガニー材を使った壁やインテリアで、高級感に溢れた品のある造りになっていた。

 壁にはあちこちの国王や貴族から贈られた感謝状や勲章が飾られ、同じくマホガニー材で出来たサイドボードにはズラッと酒の瓶が並んでいる。


 石動がとくに気が付いて驚いたのは、サイドボードの一部に透明な板ガラスが使われていたことと、陶器製の酒瓶と一緒に、ガラス製のシンプルなグラスが並んでいたことだ。

 少なくとも石動がこの世界に来て、他の街ではガラスは見たことがなかった。透明なガラスがあるということは、レンズが造れるのではないか?・・・・・・そうすればスコープも、と期待が膨らむ。


「まあ、適当に座ってくれ」


 カプリュスはマホガニー材の巨大なデスクの前に設えた、応接セットのソファーに自らドカッと腰を下ろす。ついで、テーブルの上にあった箱を開けると葉巻を取り出し、カッターで端を切り落とすと口に咥えて火を付けた。石動とロサはカプリュスの向かいにある二人掛けのソファーに座る。


 葉巻の煙が立ち上がると、ロサの顔が嫌そうに歪む。

 カプリュスが葉巻を吸い、天井に向けて煙を吐きながらニヤリとロサに嗤いかける。


「ああ、ねーちゃん、わりーな。すまんがここは俺の部屋だから好きにさせてもらうぞ。まあ、目くじら立てず、うまいお茶でも飲んで寛いでくれ」


 そのタイミングでラビスがティーポットとカップ、クッキーなどが乗った銀の盆を持ってきた。

 配り終えると、一礼してラビスは部屋を出ていく。


「さて、お互い忙しい身だ。単刀直入に聞くが、どんな用件なんだ?」

「その前にいくつか確認というか、教えて頂いてもよろしいですか」

「いいぜ。ワシが答えられることなら答えよう」


 フゥーッと葉巻の煙を吐くカプリュスに、石動は身を少し乗り出して尋ねる。

「下で高炉と転炉を拝見しました。炭素鋼が量産されていることは分かりましたが、そのほかにも合金は造られていますか。例えば炭素鋼より硬い金属や、より圧力に耐える素材とか」

「ふつうは焼き入れなんかの熱処理で硬くしていくことが多いな。浸炭させて炭素量を増やしてから焼き入れすればしなやかな鋼になるし、焼入れや焼きなましを繰り返してより硬い鋼にすることもある」

「ほかの金属を混ぜて合金を造ったりしますか」

「するな。製錬して抽出した金属の粉を混ぜて金型に入れたヤツを焼入れして造るやり方もある。ただ、錬金術レベルが相応にいるから、あまり一般的じゃねぇ」

「こちらの工房でも、やっているのですか」

「ああ、注文があればやってるよ。ただし、製錬した金属粉は持参してもらうけどな」


 石動は「(ああ、焼結炉のような設備もあるのか!?)」と驚くとともに、訪問した甲斐があったと内心喜んだ。

「私がお願いしたいのは、まさにその金属粉を混ぜるやり方で、新たな合金を造りたいのです。ただ金属粉は私が用意できますが、鋼とどれくらいの配合で混ぜたらいいかとか、必要な焼入れ法などは私にはわかりません。経験豊富な鍛冶師の力をお借りしたいのです」

「ふん・・・・・・わからねぇな。なんでそんなもん、造りたいんだ? 剣や防具を造るための金属なら、儂らドワーフが昔からありとあらゆるモノを試して、創り出した最高の鋼があるんだぜ。何ならミスリルやヒヒイロカネを使ったっていい。今ある合金でじゅうぶんじゃねぇか」

「ミスリルとかってホントにあるんだ! ぜひ一度試してみたいけど、高価なんですよね?」

「そりゃ、まぁ安かねぇが・・・・・・」

「できれば量産できるくらいのコストで造りたいんです。いろいろと造ってみたいものがあるので」


 カプリュスはソファーにもたれかかり、葉巻をふかしては、煙を天井に向けて吐き出してから、ジロッと石動を睨む。

「何を造る気だ?」

「はい?」

「剣とか槍とかじゃねぇよな。炭素鋼より硬いとか、圧力に耐えるとか、尋常な話とは思えねぇ。そんな合金でないと造れないものってなんだ? ワシには思いつかねぇから聞いてるんだよ」

「・・・・・・」


 石動は以前、ラタトスクとした会話を思い出していた。銃を造れるようになったドワーフの恐るべき生産能力の話だ。

 どうしたものか・・・・・・。


 ふと、石動は思いついてカプリュスに聞いてみる。

「その前に、もう一つ教えてください。鉱山の採掘や、この岩山を掘るのはどうやったんですか?」

「? 普通につるはしで掘っているぞ?」

「でも硬い岩盤にぶつかったら、つるはしでは掘れないんじゃ?」

「何言ってんだ。ドワーフにとって、そんなもん関係ねぇさ。並みのつるはしで掘れないなら、掘れるつるはしを造りゃ済む話だろ。この岩山だって、祖先から数えて300年掛けてここまで仕上げたんだぜ」


 ガハハハッと笑うカプリュスを見て、石動は思う。

「(やはり、発破(ダイナマイト)どころか、火薬がこの世界にはまだ実用化されていないんだな。エルフの師匠も知らなかったから、そうかも知れないとは思っていたけど・・・・・・。ということはニトログリセリンも未だということか。面白くなってきたな)」


 石動はドワーフの生産能力を恐れず、火薬でコントロールすることに決めた。黒色火薬なら簡単に分析できるかもしれないが、雷管やこれから造る無煙火薬の分析は無理だろう。そこでアドバンテージをとればいい。


「カプリュス工房長。これから造りたい物の実物をお見せしても良いですが、私の許可がない限り同じものを造らないと誓っていただけますか」

「おおっ?! えらくたいそうな話になってきたな。まあよかろう、ドワーフを守護する土の神、鍛冶を司る火の神に誓ってやろう。決してザミエル殿の許しなく同じものを造らないとな」


 カプリュスはそう言ってから、キャビネットから酒瓶を取り出すと、デスクの後ろにあった二つの偶像の前に進んだ。像の前にある小さなぐい呑みのような陶器に酒をそれぞれ注ぐと、火を着ける。

 よほどアルコール度数の高い酒なのか、青白い炎を上げて燃える酒を、ひとつづつグイっと一口で飲み干した。


「(ラタちゃん、あれは何をしているんだ?)」

『あれはドワーフの神に誓う時の儀式だね。右側の男性像が土の神で、左側のトカゲの顔をしたのが火の神だよ。ドワーフの間では、神との誓いを破ると天罰が下ると言われているから、どうやら本気のようだね』

「(そうか、ありがとう)」


 カプリュスは膝をついて両神に祈りを捧げた後、ソファーに戻ってきてドカッと座る。

「これで満足か?」

「ありがとうございます」


 石動は覚悟を決め、マジックバッグから壊れていない方の狙撃用シャープスライフルを取り出した。

 そして、ゴトッとテーブルの上に置く。

 カプリュスは身を乗り出して、シャープスライフルをジロジロと舐めるように眺めまわし、呟く。

「これはなんだ。どうやって使う? 見たことがねぇものだな」


 石動はカプリュスの眼を見て、簡潔に答えた。

「これは銃です」


お読みいただきありがとうございました。


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