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カプリュス工房

 高炉を過ぎるとまたトンネルのような通路があり、そこを抜けると天井の高い巨大な地下都市が目の前に広がっていた。道路が張り巡らされ、家や工場のような建物が立ち並んでいる。

 印象的なのは太くキラキラ光る金属の柱が、何本も天井を支えるように地面から伸びていることだった。

「ここは有名工房で働く者達や、工房を構える者達が住んでいる居住区ですね。鉱山で働く者達もここに住んでいます」

「高炉のあった場所とは全く別にしてあるのですね」

「さすがに高炉で事故があった場合、近くに居住区があると危険ですからね。隔壁があると安心できます。なにより、あの熱気の中では生活できませんから。でも高炉の熱は配管を通じて、各家に暖房として利用できるようにしてあるんですよ」

「へぇ! 進んでるなぁ」


 石動はラビスの説明に驚いた。ドワーフは排熱利用もしているらしい。

「有名工房は別の場所になるんですか?」

「ええ、これからご案内しますが、工房はこの山の上の方にあればあるほど、技術力がありランクが高いと認められた工房になります。因みに今から行くカリュプス(師匠)の工房は上から二番目です」

「一番上はどなたの工房なんですか?」

「この国の王族ですね」

「おおっ、それはスゴイな」

 説明しているラビスの口調もやや誇らしげに感じられた。石動は感心したように頷く。


 地下都市の上の階層へは、石畳で舗装された緩やかな通路で上がっていくようになっていた。商品の搬出などを考えたら階段では不便だという処置かな、と石動は思った。

 2階に上がったらそこは工房街だった。通路が真っ直ぐ反対側まで伸びていて、その両側にいくつもの工房が商店のように並んでいる。なかには商品である剣や防具を店の入り口に陳列している工房もあった。

 天井まである金属の柱は1階と同じだった。ひょっとして各階を貫通しているのだろうか? と石動は思う。

 それぞれの工房は中に入るとまず商談スペースがあり、そこの壁に見本が並んでいて商談できる椅子やテーブルが置いてあった。商談スペースの奥にドアがあって、そこから鍛冶場に入る造りになっているようだ。

 通路を歩いていると、商談をするドワーフの大声に混じって金属を叩く槌音が響き、なかなかに賑やかだ。 通路も荷馬車が擦れ違える程広いし、歩いている人も多い。


 3階、4階と上がっていくにつれ、工房の数が減るかわりに規模が大きくなっているのがわかる。工房の構えも立派で高級感が上がっているのが見てわかるほどだ。

 5階、6階とラビスについて上がっていくが、石動はふと疑問に思ってラビスに尋ねてみた。

「こんなに上の階の工房で造った剣とかを、どうやって下まで降ろしているんです? 通路を使うのは大変そうだな、と思ったのですが」

「上にある工房はそれぞれ、荷物を降ろす専用の坑道を持っています。それを使って降ろしていますね。鉱山で深いところまで人を降ろすのに使う、滑車で上げたり下げたりする設備を利用しているのですよ」

「えっ、それって人も乗れるんですか?」

「もちろん乗れます。まあ、縦に空いたトンネルの中を箱が上がったり下がったりする、と思っていただければいいですかね。たまにロープが切れて落下する事故があるのが玉に瑕です」

「えっ、大丈夫なんですか?!」

「まぁ、鉱山で働いても落盤やら事故やらで死人は出ますからね。一緒ですよ。ハハハ」


 それってエレベーターじゃん!!と石動は心の中で叫んだ。死人が出るなんて笑い事じゃねーじゃん!

 ドワーフどんだけだよ!と。

 

 8階まで上ってくると、結構な距離を歩いてきたように思う。これなら危険でも最初からそのエレベーター的なヤツに乗った方が良かったのではないか、と石動が思い始めた時にラビスが言った。


「お待たせしました。この8階は全てカプリュス工房です。親方の居るメイン工房がひとつと、弟子が作業するサブ工房が五つあります。まず、親方の所へ参りましょう」

「はい、お願いします」


 石動とロサはやっとか、と思いつつ返事をする。でも、おかげで岩山の中にあるドワーフ工房の様子が詳しくわかったのは収穫だ。ラビスもそれを見せたかったから各階を回って見せたのだろう。


 8階まで来るとさすがに低層のような賑やかさは無いが、明らかに展示してある商品も高級感があり、客もレベルが上がっているのは石動でも分かる。メイン工房に入っても、部屋の中には高級そうな絨毯が敷かれ、さながらショールームのように剣や槍、鎧をはじめとした商品が品よく並べられている。

 いくつかある商談スペースでは何人かの客が買い付けに来ているようで、キチンとした身なりのドワーフと商人が小声でやりあっていた。


「(う~ん、なんかイメージが違うな・・・・・・)」


 石動はエルフの郷での鍛冶場の親方を思い出し、なんとなく居心地の悪い気持ちになる。あそこまでではなくても、鍛冶場なんだからもっと雑多なものとイメージしていたのだ。こんなに小綺麗だとは思わなかったというのが正直なところだ。

「(まあ、親方と会ってからだな・・・・・・)」


 ラビスの先導で店の奥に進み、重厚な木製のドアの前で停まると、ドアをノックする。

「工房長、お客様をお連れしました」

「・・・・・・」

 ン? という顔をして、ラビスが再度ノックして呼びかけても、部屋の中から返事はなかった。

「失礼しまーす」

 ラビスが勝手にドアを開けて中を覗き込むも、すぐにがっかりした様子でドアを閉める。


「すみません、こちらに親方はいませんでした。多分、鍛冶場の方だと思いますので」


 すこしイラっとした感じで、ラビスがまた先導して歩き出す。


 今度は金属製の分厚いドアの前で停まり、ラビスが慣れた感じでドアを開けた。

 その途端、ゴォッという炎の燃え盛る音に金属を槌で叩く金属音、それに男たちの怒声に似た怒鳴り声や熱気が石動達に叩きつけられる。

 ずんずんとラビスが中に入っていったので、石動とロサも恐る恐る続く。すると中で腕組みしながらあちこちに指示を出している、銀色の長い柄の槌を持った一際存在感のある逞しいドワーフがいて、ラビスが目指しているのもそのドワーフのようだ。


「もう! 親方! 部屋で待っていてくださいと言ったじゃないですか!」

「おう、ラビス! 戻ったか! 最初は部屋に居たんだがな、することなくて暇でよう」


 ガハハハッと豪快に笑うドワーフがやはり親方のようだった。その鋭い眼がラビスの後ろにいた石動にとまる。

「あんたがオルキスの紹介できた人か?」

「はい、ザミエルといいます。よろしくお願いします」


 そう言いながら近付いてきた逞しいドワーフは、髭もじゃの顔をほころばせながら、ごつごつした右手を差しだしてきた。

 ただそれだけの動作なのに、石動はなにやらドワーフの身体から熱気かオーラか分からないものが噴き出していて、石動の顔に吹き付けられたような気がして驚く。

 差しだされた右手を石動が握りかえすと、(いわお)のように揺るがない、硬質な感触が伝わってきた。

 ドワーフはニッと笑うと言い放つ。


「ワシがカプリュスだ」


お読みいただきありがとうございました。


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「8階まで上ってくると、結構な距離を歩いてきたように思う。これなら危険でも最初からそのエレベーター的なヤツに乗った方が良かったのではないか、と石動が思い始めた時にラビスが言った」 足が悪い人以外は、…
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