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高炉

  ノークトゥアム商会の馬車でクレアシス王国の麓の街に戻った石動一行は、ひとまず宿屋に戻り、ジャングル生活でついた汚れを落とすことにした。


 風呂に入ると、自分の身体から信じられないほど垢が出て驚く。石動はレンジャー訓練でサバイバル実習をした時を思い出した。あの時より汚れていたとは・・・・・・。

 こんなのが三人も乗った馬車の中は、さぞかし臭いが酷かったのではないだろうか。石動たちは鼻が慣れてしまっていて気がつかなかったが。臭いが馬車に移っていないといいが、と石動は心配になる。オルキスさんに謝っておかないと、と心の中でメモした。


 さっぱりしたところでベッドの上にダイブすると、一瞬で眠ってしまったようだ。ふと気がついて目をさますと、すっかり日が暮れて夜になっていた。


 石動が起きてソファーでボーっとしていると、ちょうど部屋に宿屋の従業員が来て、夕食を並べ始めた。

 同様に眠り込んでいたロサやエドワルドを起こして、久しぶりにまともな食事を楽しむ。


 まずは3人で無事帰ってきたことを祝い、葡萄酒をグラスに注ぎ、乾杯する。

 ひとくち口に入れると、赤葡萄酒の芳醇な香りとまろやかな酸味が豊かな味わいを奏でてくれる。石動は生きて帰れて良かった、との思いをあらためて感じる。


「あのデカい鳥の肉も美味かったが、さすがにこの宿屋のとり肉のソテーには負けておるな! なんといってもかかっているソースが絶品じゃ」

「確かに。あそこでは塩味付けただけだったもんね」

「そういえば、肉はまだたくさんマジックバッグの中に入ってるから、この宿で調理してもらってみる?」


 エドワルドとロサの話に何気なく石動が提案すると、ふたりはピタッと動きを止め、くるっと石動の方を見た。 

「まだ持ってたの?!」

「それは良い考えじゃな! うーむ、しかしギルドに卸せば、おそらく高値が付くに違いないが・・・・・・」


 ロサとエドワルドが石動の提案に飛びつく。皆で話し合った結果、消える豹の牙とかディアトリマのくちばしや爪などの一部はギルドに売却するが、肉は売らずに食べてしまうことになった。

 あす、宿屋の支配人に相談してみようね、楽しみ!とロサが嬉しそうなので良しとしよう。石動はワインを飲みながらそう思った。


 翌朝、宿屋の支配人に相談すると快く調理を引き受けてくれたので、石動はディアトリマのもも肉と胸肉の塊の一部を渡す。

 鳥自体がデカいので、渡された肉の大きさに目を見張る支配人の反応に微笑み、ふたりは宿屋を出た。向かう先は以前、ノークトゥアム商会から紹介状をもらっていたカリュプス工房だ。

 石動は、約束の1週間が経っているので、とりあえず挨拶に寄ってみようと思ったのだ。もしまだダメなら、リストにある錬金術の工房に回ってみてもいい。


 エドワルドは、分配された魔物の素材がどのくらいの値段が付くか知りたいと言って、ギルドへ行ったので別行動だ。


 昨夜、皆で素材の分配をした時、エドワルドは最初、消える豹は石動がひとりで倒したものだからと素材を受け取ろうとしなかった。しかし石動が命を助けてもらったお礼がしたいと説得して、やっと爪や牙の一部を受け取ったのだ。話し合いの結果、豹の毛皮や魔石は石動のものとなる。

 ディアトリマの素材もくちばしや魔石は石動がとり、爪や羽毛をロサとエドワルドで分けている。

 巨大な大腿骨などもマジックバッグの中にあるのだが、それはふたりとも要らないと断られた。


 エドワルドが自分で狩った蝙蝠の魔物や、ジャングルで食材にした魔物の素材もあるらしく、まあまあ大きな荷物を抱えていそいそとギルドに出かけて行った。


 クレアシス王国の心臓部であるドワーフたちの工房があるのは、岩肌に虫食い穴が開いたようなミルガルズ山脈の岩山のなかだ。

 麓の街から岩山の中にあるドワーフの工房街に入るには、岩山のふもとにある入り口の検問所を通らねばならない。

 検問所にはクレアシス王国の屈強なドワーフの兵士が多数常駐していて、出入りできる許可証を持った人間しか通さないようになっている。


 石動が検問所の厳重なゲートの前で、兵士にノークトゥアム商会の紹介状を見せると、兵士はニコリともせず「待て」と言って紹介状を奥の部屋に居た別の兵士に渡す。

 それきり、兵士は何も言わず、石動たちは検問所前で放置された。

 しばらくはじっと待っていたが、10分経っても放置されたままだったので、石動が「あの・・・・・・」と兵士に話しかけようとしてもジロッと睨まれるだけなので黙るしかない。

 あきらめて待っていると、トンネルの向こうからひとりのドワーフが走ってくるのが見えた。

 ドワーフは兵士に話しかけると、書類を受け取り、石動達の方へ歩いてくる。

 石動の前に歩み寄ると、にこやかに笑いかけながら尋ねてきた。


「すみません、ザミエル殿でしょうか? 私はカリュプス工房で働くラビスという者です」

「ああ、これはご丁寧に。ザミエルといいます。こちらはロサ」

「よろしくお願いします。お待たせして申し訳ありませんでした。私がご案内します」


 ラビスはドワーフらしく、剛毛な髪と髭に覆われた顔をクシャッとして笑い、非常に愛嬌があって好感が持てる人物だった。身長はロサより低いが体格はガッチリとして、身幅が厚く筋肉質なのが粗末な作業着の上からでも分かる。


 ラビスの先導で検問所を抜けると、馬車が数台並んで通れるほどの幅を持つ広いトンネルに入る。トンネル内にも一定の間隔で発光するライトのような魔道具が、天井に埋め込まれていた。

「(電気もないのにどんな原理で光っているんだろう?)」

 石動はドワーフの技術力に驚き、期待が高まるのを感じる。


 50メートルも歩かないうちにトンネルは終わり、岩山の中のドームに出た。

「うわぁ~!」

「スゴイな、これは」

 ロサが歓声を上げたのも無理はないと、石動は唸る。

 

 入ってすぐに目に入るのは、高さは20~30メートルはある巨大な建造物だ。


「これはなんですか?」

「ああ、これは銑鉄を造るための高炉です」

「高炉!?」

 石動の質問にラビスが答える。


 高炉は前世界の製鉄所のような巨大な金属とパイプの塊ではなく、分厚い耐火煉瓦で出来た、台形のビルのような建物だった。何人ものドワーフ達が高炉にとりつき、それぞれの役割を果たすように働いている。

 素人の石動には製鉄のメカニズムは分からないが、天辺から鉄鉱石やコークスを放り込み、巨大な送風機を動かして空気を送り込んでいるように見えた。

 驚いたのは高炉内に空気を送り込む送風機が、熱せられた水蒸気で回る車輪に連結された大型のふいごであることだった。

「(原始的な蒸気機関が使われているのか・・・・・・?!)」


「この山は、今でも鉄鉱石を産出しています。いくつもの坑道が掘られていて、そこから運ばれた鉄鉱石とコークスを交互に投入し、下からふいごで熱風をおくるのです。そうするとコークスが反応してガスを発生させ、そのガスが鉄鉱石を溶かしながら酸素を取り除き、銑鉄ができます」

 

 ラビスの説明に石動が驚いていると、釜が開けられて高炉から溶けた銑鉄が流れだした。それを受けてドワーフ達が洋ナシ型の転炉に銑鉄を移している。

「(ああ、なんとなくこの場面は映画か何かで見たことあるな・・・・・・)」


「あれは転炉です。銑鉄から不純物を取り除くもので、不純物が無い(はがね)が出来上がります」

「へぇ~」

 石動は興味深く、製鉄の光景を眺めていたが、ロサが石動の袖を引っ張る。

「ねぇ、めちゃくちゃ暑いんだけど」

「うん、そうだね。行こうか」


 排熱用のパイプや煙突が岩山の外に伸びているようだが、さすがにコークスの燃える高温に溶けた銑鉄などが相まって、かなり広い場所なのに体感温度は高く、ほとんどサウナ状態だ。

 汗をダラダラ流すロサが、同じく汗みずくになっていた石動に先に行くよう促した。

 ラビスは慣れているのか、汗ひとつかいていない。

 再びラビスの先導で、奥に向かう通路を通り、次のフロアを目指す。


お読みいただきありがとうございました。


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