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調査

また来る、とカッコつけたのに、と石動は思ったが、あのあと都合5回、洞窟に入った。

 蝙蝠たちの食事時間が夜明け前と日暮れ前であることがわかり、その日の夕方と翌日、翌々日の朝夕に入ったのだ。一回の調査時間をあまり長く取れないので、やむを得ず回数を重ねるしかなかった。


 それでも分かったことは、硝酸の池の先はだんだんと天井も横幅も低く狭くなっていることだ。冒険者たちの話の通り池から30メートルも進むと、奥に食事に出ていない蝙蝠の集団がいて、近づいてくる石動達に気づいて「チッ、チッ」と警戒音をたてはじめる。

 おそらくそれ以上近づくと、追いかえそうと大挙して襲い掛かってくるのだろう。石動達は警戒音がきこえてから先は進まず、ゆっくり後退して引き返した。

 あとは洞窟の壁の断層を調べたり、硝石を削って堆積している厚さを測ったり、硝酸の池の深さを探ったのち、調査を終えることにした。

 なによりフラッシュライトの電池が切れたのが、調査終了の原因として大きい。次回来るときは何らかの照明器具を工夫する必要があるだろう。

 

「ザミエル殿、では明日の朝には出立でよろしいか?」

「ええ、協力してくれたおかげで、満足のいく調査ができました。エドワルド、ロサ、ありがとう」

「礼なんて要らないわ、どうってことないし。それより、私はまたあのジャングルで虫に噛まれながら帰るのが憂鬱よ」


 この盆地に来て四日目の夜、焚火を囲んで夕食を食べながら、調査協力のお礼を石動が言うと、ロサがげんなりした顔をして顔を顰める。


「それなんだけど、次回来るときのために、このジャングルもある程度調べといた方がいいと思うんだ。肉食獣もいるみたいだし」

「うーむ、初日に見た猿の死骸であるな。確かに危険な生き物がいることは間違いないのであろう」

「そこで、馬車の迎えまであと2日あるから、このジャングルの周辺部から入った辺りを中心に、川上の方を回って帰るのはどうかな? さすがに夜はジャングルの中ではなく、岩場ですごした方が良いと思うしね」

「そうであるな。下流に回ると河が湖のようになっていたから、あれを渡るのはホネだろうて」

「しかたないか。ジャングルを横切って調べるよりは良さそうね」 

 

 皆の念頭にあるのは初日に見た、大きな猿が喰われていた死骸だ。大型の肉食獣か魔物がこのジャングルの食物連鎖の上位にいることは間違いない。その正体を確認できれば対応も取れるので、安心できる。


 石動のそんな提案に2人とも同意してくれた。

 明日は盆地の周辺部から20~30メートルほど入った辺りを、岩壁に沿って反時計回りに川上を目指して出立することでまとまった。



 翌朝、3人は朝食を済ませると岩棚を降り、蝙蝠の洞窟を後にした。

 

 まっすぐにジャングルに入り、木々の間からなんとか岩壁が見える所で停まり、岩壁に沿って川上を目指すことにする。

 ジャングルの中はすでに蒸し暑く、完熟した果物が腐敗したような甘い臭いと、エドワルドがマチェットで切り開く草や木々の汁の臭いが混じり、息苦しいように感じるほどだ。


 進むにつれ、なんとなくジャングルの住人たちが見えてくる。

 動物で種類が多いのは、クモザルのように見える猿たちだ。10頭ほどの群れをなし、長い尻尾を器用に使いながら木々を渡っていく。近づくとホエザルのように特徴ある泣き声で警戒するのもよく似ている。

 出発して間がないのに、すでに大きいのから小さいのまで数種類の猿を見かけた。


 次いで多いのはやはり、鮮やかな色彩の鳥たちだ。

 宝石のように煌びやかな羽を見せびらかすように飛ぶ鳥や、木の枝で歌うように囀る純白の鳥など、名前は知らないが見る者に癒しを与えてくれるようだ。

 突然、藪の中から、ヒクイドリのような凶暴な鳥が飛び出してきたときには石動も驚いた。

 すぐにエドワルドのマチェットで首をはねられていたが。

 ロサが素早く捌き、夕食用として石動に渡してくる。美味いのだろうか、と思いながら石動はマジックバッグの中にとり肉を仕舞う。


 しばらくして石動は、首筋にチリチリとした妙な感覚を覚えはじめ、気になりはじめた。

「(ラタちゃん、これはなんだろうか。なにかスキルが働いているのかな)」

『多分だけと、ツトムの「狩人」か「暗殺者」が反応しているんじゃない? 殺気を感じてるか、気配察知になにかが引っ掛かってるんだろうね』


 石動はそう言われてみれば、なんとなく敵の殺気を感じた時に似ているな、と思いかえす。

 チリチリとした警告は強まるばかりで、周りを見回し、警戒を厳重にしてもなにも異常がない。


「皆、警戒してくれ」


 足を止めた石動がそう警告すると、エドワルドとロサも動きを止め、辺りを見回す。

 鳥の声もいつの間か聞こえなくなり、猿たちもいなくなっていた。


 じりじりとした時間が流れたが何も起こらず、気のせいか、と再び前進しようと動き始めることにした。その時、石動はロサの右上にある木の枝の周りの空間がグニャリと歪んで動くのが見えた。


 石動はとっさに肩付けして警戒していたシャープスライフルの銃口を、その歪みに向けると発砲する。


「ギャウンンッ!」


 得体のしれない大型の獣が悲鳴を上げて木の枝から落下した。

 発砲したシャープスライフルには、まだ散弾の紙巻薬莢弾を装填していた。素早くレバーを操作した石動は、次弾に50-90弾を装填すると鳴き声の主に銃口を向ける。

 

 現れたのは黒豹のような魔獣だった。藪の上に落ちて、顔や胸から血を流し、もがいている。


 石動の放った散弾を浴びた顔と胸は透明な迷彩が解け、黒っぽい猛獣の姿があらわになっているが、まだ下半身は光学迷彩のように透明で、もがくたびにそのあたりの空間が歪んで見えていた。


「魔獣か!」

「ふんっ」

 

 石動が前足の付け根にある心臓部分に狙いをつけて発砲するのと、エドワルドがマチェットで首を切り落とすのがほぼ同時だった。

 

 絶命した黒豹の魔物は、ようやく全身があらわになる。体長1.5メートルほどの雄だった。


「スゴイな! 透明になる豹なんて初めて見たんだけど!(まるで映画のプレデターみたいだったな)」

 石動がシャープスライフルに再び装填しながら、感心したように言うとエドワルドとロサもうなづく。

「私も初めて見たわ」

「拙者も見たことも聞いたこともござらん。この地を教えた冒険者たちも、全く言わなかったぞ」

「じゃあ、見た時には喰われてるから目撃者がいないのかもね。初日に見た猿の死骸はこいつの仕業だと思う?」

「そうかもしれん。ただ、こいつは牙も爪も立派だが、あの死骸のキズには少し小さいようだ」

「まだ、大物がいるかもしれないということね・・・・・・」


 石動とエドワルドの会話に、ロサがげんなりした表情で呟く。


 そこからの行程は透明な魔物まで警戒しないといけないことから、さらに慎重なものになったので、スピードが落ちてしまったのは仕方のないことだった。


お読みいただきありがとうございました。


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