ラタトスク
設定説明回です。
読みにくいかもしれませんが、大体こんな感じと思っていただければ・・・
設定の甘い部分は後日、書き直すかもしれません。
石動はコンランしていた。
聞きたいことが多すぎる。なんだ「渡り人」って?
いや、聞こえてきたのは日本語だったぞ。
それ以前に耳から聞こえたというより直接頭の中に響いた感じだったが・・・?
『ああ、私は日本語? が喋れるわけではない。私の持つ特殊能力を使って翻訳し君に直接、念話を試みているだけだよ』
あかしっくれこーど? 念話? 分からない事がまた増えた。というか、自分の考えていることが読まれているのか?
『ハハッ、混乱しているね、無理もない。説明は順を追ってするとして、まずは自己紹介といこう。私はこの世界に七柱ある世界樹の第四柱であるラタトスクだ。ラタちゃんと呼んでくれ!』
ニコニコと笑顔でそう宣うと右手を差し出してきた白い少女を、石動は呆然としながらも反射的に右手を取り、握手した。
ラタトスクは一瞬、妙な顔をしたが笑顔に戻り、言葉を続ける。
あれ? 間違えたかな。跪いて手の甲に唇を寄せて敬意を表すべきだった? と石動は気が付くももう遅い。
『君の名はイスルギ・ツトムだったか? ああ、自己紹介は不要だ。こうしている間にも君の情報は私の中に流れ込んできているからね。うんうん、じつに興味深い。』
真顔になったラタトスクは大きな赤い目でじっと石動を見つめた。
『いろいろと聞きたいことがあるだろう。その疑問に答えると同時に、いくらか説明もせねばな』
石動はうなずいて、ラタトスクを見つめ返す。
「ここは何処なのか、何故僕はここに居るのか、君は何者なのかを知りたい」
『ふむ、先ずは最後の疑問から答えようか』
ラタトスクは微笑みながら問いかけた。
『君は世界樹を知っているかな?』
「え~と、確か北欧神話にあった、世界を体現する木だった・・・ような?』
『ほう、北欧神話とやらはよくわからんが、その他は大きく間違ってはいないな。この星には六つの大陸があり、それぞれに世界樹がある。私たちはこの星の成り立ちから見守り、知恵や知識を繋いできた、言わば記憶の番人みたいなものだ。ある意味この星そのものを体現しているとも言えるだろう。
だから、私には今まで何百年に一度訪れる「渡り人」に関する知識もある訳だ。』
「ええっ、じゃあ自分の他にもこの世界に来た人間がいるということですか?!」
ラタトスクは残念そうに眉を顰め、首を振った。
『今現在居るかというと居ない。ツトム、君だけだ。前回渡り人が訪れたのは確か200年ほど前のことだったからな。その前は500年以上前だったと記憶している。だから、長命なエルフ達は「渡り人」のことを経験や言い伝えでよく知っていて、現れたら私の所に連れてくる決まりになっているのさ』
「長命って程があるだろ・・・・・・(え~と、じゃあロサって見た目若いけど幾つだったんだろ?)」
『たしか220歳だったと思うぞ』
「ああああ、そうだった! 思ってることタダ漏れだった!」
『話を戻すが、いいかな? 「渡り人」は此処とは違う世界の人間だから当然言葉も分からないし、この世界の住人なら当然知っていることも知らない。だからこうして一度は保護しないと直ぐに死んでしまうだろうから、親切なラタちゃんがいろいろと手取り足取り教えてあげようということなのさ!』
ビシッという擬音が聞こえそうなほどドヤ顔で右手の人差し指を石動に向け、ポーズを決めたラタトスクを見て、石動はようやく緊張が解けてくるのを感じていた。
ラタトスクの大袈裟なしゃべり様や態度もそういう効果を狙ったもののような気がしている。
石動はようやく"助かった"ように思え、心の底からラタトスクに頭を下げて言った。
「ラタちゃん、ありがとう! 恩に着るよ」
『ようやく私の偉大さが分かってきたようだな。よろしい、ではチュートリアルを始めよう』
ラタトスクはニコッと顔の回りに花が咲いた様な笑顔になると、嬉しそうに石動にその笑顔を向けるのだった。
『では、まずこの世界を簡略に説明しよう』
スッとラタトスクが手を振ると石動の椅子の間の空間にテーブルが現れ、何やら動物の皮のようなものが広げられる。
よく見ると、世界史の授業で教科書に載っていた中世ヨーロッパの時代の世界地図に似たものが描かれていた。
なんとなく、ヨーロッパ視点での地球の地図に似ているが、メルカトル図法を無視したような歪な感じだ。
そのうえ、地球でいう大西洋にダイヤ型の大陸があり、それを上下左右で取り囲むように大陸が配置されているのが決定的に違っていた。
西は南北アメリカ大陸がメキシコ無しに、海が隔たてて別々の大陸になっている。
南はアフリカを押しつぶしたのとオーストラリアや南極が一緒になっていた。
北も北欧とシベリアやアラスカがあわせて大陸となり、東は一番大きくてユーラシア大陸に近い。
しかし、地球でいうバルカンや東欧のあたりに曲がりくねった太い線があって、大陸が分けられていた。
ラタトスクがスッと真ん中のダイヤ型の大陸を指さす。
『この世界はニーベルングと呼ばれている。これが世界地図で、真ん中に描かれているのがアトランティス大陸だ。世界の中心であり、神の住まう神聖な大陸とされている』
「アトランティスだって・・・? アレは失われた大陸じゃないのか?」
『失われたなど失礼な。世界の中心だぞ! あとはそれぞれアーガルズ大陸、ミルガルズ大陸、ヨトゥンヘイム大陸、ヘルヘイム大陸になる」
「北欧神話にアトランティス伝説が混じって違和感半端ないな・・・。あれっ、さっき六つの大陸って言ってなかった? これじゃ五つだよね?」
『良い質問だな。ミルガルズ大陸のここに線が引かれてあるのが分かるか? 」
ラタトスクがいつの間にか、白い指揮棒のような短い杖を持ち、その先で地図を指す。
「ああ、何の線だろうと思ってた」
『ここには大地溝帯が走っていてな、広いところでは幅10キロメートル、深さは平均して5キロメートルはある深い溝というか超深い谷になっていて、生き物はほぼ通ることはできないんだ。そして、その先は「魔大陸」と呼ばれ、魔物が住む世界となっているんだよ」
「魔大陸を入れて六つの大陸という訳か・・・・・・」
『そのとおり。今、私たちが居るのもミルガルズ大陸での真ん中辺りだ。魔大陸とはかなり離れているから安心してくれ』
ラタトスクが石動をニマニマと笑いながら生暖かい目で見ていた。 石動はジト目でラタトスクを見返しながら尋ねる。
「ところで魔物ってなんなんだ? それは魔大陸にしかいないのか?」
『いや、魔物は程度の差はあるがどの大陸にもいるよ。魔物が動物と違うのは、魔法を使えることだ。魔物は身体の中に魔石という魔力の塊を持っていて、その魔力の属性に応じた魔法を使うことが出来る。魔石の属性が風なら風魔法、火なら火魔法という具合にね』
石動はハッとした顔でうなづいた。
「そういえばロサを助けた時のデカい熊、あいつは届かない間合いのはずなのに爪の攻撃が三日月みたいになって飛んでたな!」
『ほう、サーベルベアをやっつけたのか。あれは風魔法を使える。ウインドカッターだろう』
「えええ、あんなのがうじゃうじゃ居るのか、この世界」
『いや、ほとんどが普通の動物だぞ、鹿とか猪とか。まれに突然変異で魔石を生じたヤツが魔物となる。ツトムは来て早々、珍しいものを見られたわけだな!』
「いやいや、有り難くないし。そんなにたくさん居ないなら良かったよ。魔大陸は魔物の住処と言ったっけ?」
『魔大陸はすべて魔物ばかりらしい。らしいというのは余り正式の調査が行われていないからなんだけどね。何しろ魔大陸に行ったものは誰も帰ってこないんだから』
先程聞いた大地溝帯の話を思い出す。確かにそんな大規模な断崖絶壁があるなら抜けるだけでも苦労するだろう。
「でも、魔大陸にも世界樹はあるんだろ?」
『世界樹は六つの大陸全てにあるよ。第一柱である大元はアトランティス大陸の真ん中にある。その高さはこの星の成層圏を越え、宇宙にまで届いている。
余りに巨大なもんで、第二柱も居て第一柱を補佐しているな。あとはいろんな形態であるぞ。他には地下のダンジョンの最下層にあるものや、深海に生えてるなんてのもあるんだ』
ラタトスクが得意気に、フフンッと鼻を鳴らす。
対して石動は呆れた様に呟いた。
「宇宙にまでって軌道エレベーターかよ・・・・・・。それに深海ってもうそれ樹木じゃないよね。」
『あと魔大陸のヤツはちょっと変わっててな。魔大陸の何処に生えてるのかもハッキリしないんだよ。引きこもりというか、他の世界樹達とは連絡取れるんだけど、アイツだけなかなか連絡取れないんだよね。だから、現状はよくわからないんだ。枯れてないといいけど』
「うわー魔大陸には近づかないようにしたいね。やっぱ、ラタトスク達はそれぞれの大陸を管理しているわけ? 神が住まうとか言ってたっけ」
ラタトスクの笑みが深まり、得意げにテーブルの周りを歩き出す。
『アトランティス大陸の第一柱は神に仕える者として信仰されているね。神とはこの世界を創りたもうた創造神様だよ。第一柱の頂上に住まうと言われている。人族だけでなく亜人達も「世界教」の信者となってこの星中に神殿を造っているよ。ちなみにここもその一つだけどね』
「じゃあ、各大陸の世界樹は神の使いとして崇められているということ?」
『いや、ダンジョンや海底にあるのは行くこと自体が無理だし、魔大陸は言うまでもないな。それに私達は記録や知性を司るものだから、重大事の方策を決めたりする時の相談役というような感じだと思ってくれればいい』
そう答えるラタトスクの衣装が、先程まで白いワンピースの様なドレスだったのが、いつの間にかマントを羽織り片眼鏡を嵌めた魔法教師風に変わっているのに石動は気が付いた。
コイツ、形から入るタイプか、と思う石動。
「では相談役に早速教えてほしいんだけど、さっき動物と魔物を分けるのは魔法が使えるかどうか、って言ったよね。この世界の人間たちも魔法が使えるのか?」
「いや、人間はほとんど魔法は使える者はいないな。稀に突然変異で魔力持ちの魔法使いみたいなのが生まれてくるけど、魔物に比べれば非常に弱い初期魔法しか使えないんだ。
なぜなら、魔石を持っていないから魔力量が少ないからね。獣人も同じ理由で使えない』
石動はこの世界は転生ものの定番である「剣と魔法の世界」なのかと思っていたが、ほとんど魔法が使えない世界だと聞いて驚く。
「そういえばロサは回復魔法を使っていたぞ!」
『亜人はちょっとだけ魔力を使えるんだよ。だから先祖が魔人だったっていう風評があって、人間から差別されたりしているが、それは根拠のないデマなんだ。
何故使えるかは種族的な特徴と言う他ない。でも亜人も魔石を持っていないからその魔力量は少ないんだ。だから、ちょっと火を付けたり、水を出したり、怪我を治したりするのが精いっぱいかな。
とてもじゃないけど、魔力で攻撃とかドカーンと火の玉を出すとかできないよ』
廚二病なら"ファイヤーボール!"とかにあこがれるのだろう。それより石動は魔法で攻撃されることがあるのかを知りたかった。
「魔人なら魔法を使えるんだ?」
『昔は使えたから今も使えるんじゃないかな、というのが正しいかも。ここ2000年ほど魔人は姿を見せていないから分からないんだ。
でも魔人の特徴として魔石を持って生まれるから魔法が使えるのは間違いないと思う。
もう魔人は滅んだって説もあるし、魔大陸の奥深くに潜んでいるという者もいる。どちらも確かめていないから何とも言えないけど、昔、魔人は魔物より強い魔法を使っていたのは確かだね』
「ふ~ん、では魔石が無い自分も魔法は使えないんだな・・・・・・」
『ちなみに私は問題なく使えるぞ? 魔石は持っていないが、世界樹の魔力を使えるからね』
ラタトスクは右掌を上に向けるとポッと火の玉を出し、左掌も同じ様に今度は水の玉を出して見せ、如何だとばかりのドヤ顔を向ける。
石動も段々とラタトスクの性格が分かってきたので、“おおっ!”と驚いて見せ、心からの拍手を送ってやる。
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