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盗賊

既に馬車は狭い森の中の街道を走り抜け、クレアシス王国へ向かう丘陵地帯へと向かっていた。


 石動は、てっきり視界の悪い森の中で盗賊が襲ってくるものだと思ってた、とロサに尋ねると鼻で笑われる。

 「森が私達に味方してくれるのに、エルフやダークエルフと森の中で戦って敵う者がいると思う? 自殺志願者でない限りダークエルフのいる商隊を森で襲う馬鹿はいないわ」

 ロサがそんなことも知らないなんて、とばかりに石動を見て、憐れむように首を振った。


「だからダークエルフの商隊を狙うなら、森の木々を味方にできない草原か、岩場で襲ってくるのよ。油断しないでね」

「分かった。気を付けるよ」


 ロサの注意に石動は神妙に頷く。


 幸い、草原を進む間は盗賊の襲撃もなく、温かい日の光を浴びて座っていると眠気を催す程、順調に商隊は街道を進んでいく。


 そして、ミルガルズ山脈が近づいて見え草原がそろそろ終わり、岩場に差し掛かろうとした時、風の匂いを嗅いでいたラタトスクが、念話で警告してきた。


『ツトム、この先300メートル程先の岩場で、待ち構えてるのがいるよ』

「(何人くらいか分かるか?)」

『ええと、街道が曲っているところの両脇の崖に二人ずつかな。丸太を積み上げてるから、私達が通り過ぎた後に丸太を落として退路を塞ぎ、その奥に控えてる本隊が襲ってくる段取りだろうね』

「(ありがとう、ラタちゃん。助かった!)」


 すぐに馬車の横を走る騎馬の団員に頼んで、デビット団長を呼んでもらう。


「ザミエル殿、なにかあったか?!」

「デビット団長、ちょっと相談がある」


 早速、馬を廻してきたデビット団長が石動に声をかけてきた。

 石動は素早く屋根から降りると、馬車の後部に回り、デビット団長を手招きする。


 暫く、二人でひそひそ話をしていたが、デビット団長は石動に頷くと、馬首を翻して商隊の先頭に戻り、全体を止めて休憩を宣言した。


 街道わきのちょっとした平地に馬車を止め、取り囲むように陣を敷くと、各々が水筒を取り出したり、馬車から飲み物を出したりして休憩し始めた。


 石動は用を足すような素振りで一行を離れると、賊が潜んでいる岩場が見渡せる場所へと登りだす。

 幸い、傾斜も急ではなく高さも50メートル程の岩山だったのですぐに登り終え、そっと賊達の様子を窺う。


 街道の両脇に潜んでいた盗賊は、ラタトスクが言った通り二人ずつで、急に商隊が止まって休憩し始めたのを見て、慌てていた。

 中には下からも見えるのではないか、と思えるほど身を乗り出して商隊を見ている奴もいた。


 石動は落ち着いて、周りに人がいないことを確かめたうえで、マジックバッグから50ー90紙巻薬莢弾を数発取り出して近くの岩の上に置いた。

 まずは岩場の上で、下を覗き込んでいる男の背中を狙い、シャープスライフルを構えて発砲した。


 バァンッッ!


 もうもうと銃口から黒色火薬の白煙が噴出し、あたりに立ち込めたが、すぐに風が吹き払ってくれた。

 狙撃距離が短いので、風の影響は考えなくてよい。


 発射された50口径の巨弾は身を乗り出していた男の肩甲骨の下に着弾し、その弾丸のエネルギーは即死した男の身体を崖下に突き飛ばす。


 急に相棒が崖下に落ちてうろたえた、もう一人の男が立ち上がったところに、石動の放った第2射が男の腰上に着弾した。

 腰から腹に向け貫通した50口径弾は、腸をほとんど巨大な射出口から周りに吹き飛ばし、辺りにばら撒いてしまう。地面に倒れ伏した男はピクリとも動かなかった。


 異変に気付いた対岸の盗賊が、石動を窺うように右手を目の上にかざしたところを、ちょうど石動の第3射がその右掌を貫いたので、男の頭が爆発したように消失した。


 一人残った盗賊が悲鳴を上げてパニックになり、矢を石動のいる岩場に射かけてきたが、石動の居る場所のはるか下にしか届かず、震える手で次の矢をつがえようとした時に第4射が胸のど真ん中に着弾する。

 盗賊の胸から貫通した銃弾は背中に巨大な射出口を開け、そこから破壊された心臓や粉々になった肋骨の欠片を地面にぶちまけた。


 石動はレバーを操作して次弾を装填すると、他に動くものはいないか静かに辺りを窺う。

 丸太を積み上げた岩場の上に、他に動くものはなく、誰かか応援に駆けつけてくる様子も感じられなかった。


「うーん、やっぱ50口径だと人間のようなソフト・ターゲットにはオーバーキル過ぎるな。サーベルベアやサラマンダーとかにこれで良かったんだけど、ちょっと別口径も考えないと・・・・・・」


 石動は狙撃体制を解いてライフルを背に背負い、岩山を下りながら、あれこれ改良するにはどうすればよいか、次は何をつくるべきか、などを考える。

 

 下に降りると、石動は突然死体が岩場から降ってきたりして気が気じゃなかったデビット団長に、無事盗賊たちを排除したことを報告した。


 それから事前の打ち合わせ通り、岩場の道の先で待ち伏せしている盗賊たちが、銃声に怪しむ前に商隊を出発させる。

 丸太を積み上げた岩場の上には、弓矢を装備した商会のダークエルフ2名と石動・ロサのコンビがそれぞれ盗賊の代わりに登って待機することにした。


 商隊が出発し、石動達がいる岩場の前を通り過ぎて、枯れた谷の様な道を進んでいると、盗賊の本隊と思われる集団が道の両脇に現れた。


 如何にも山賊、といった薄汚い装備を纏った人相の悪い輩たちが20人ほどだったが、我先に襲い掛かってくるかと思いきや、先ず弓隊が両脇から矢を射かけようとしてきた。


 デビット団長は予定通り商隊を後退させ、逃げる素振りして見せた。


 すると、盗賊たちは手に手に得物を振りかざして、谷間の道を駆け下りて追走してくる。


 石動が目を凝らして辺りを窺っていると、弓隊の後方で馬に乗った二人組の片方が、しきりに石動達がいる岩場の方を見上げて、手に持った剣を振り回し、合図らしきものを送ってくるのに気づく。

「(もしかしてアレが丸太を落として退路を断て、という合図かな・・・・・・)」

 

 石動は岩場の上で腹這いになり、伏せ撃ち(プローン)の姿勢をとってシャープスライフルを構えている。ライフルの照準を合図の男に合わせて、観察することにした。

 ロサは丸太を遮蔽物にして石動の背後を守り、近づいてくる者がいれば射かけようと弓を構えて警戒してくれている。


「(あいつが指揮官かな?)」

 盗賊にしては立派な鎧や装備をつけ、盛んに合図を送ってくる男に狙いをつけていた石動は、ふとその隣にいるフード付きのマントを着た男が、合図を送る男に苛立たしげに何か小声で罵っているのに気付いた。


 罵られた方の合図を送る男はますます焦ったように剣を持つ手を振り回す。


「(これは、ひょっとして・・・・・・)」

 石動はシャープスライフルの狙いを合図する男から隣にいるフード男に移し、静かに引き金を落とした。


 バァンッッ!


 銃声と共にフード男が、馬から振り落とされたように落ちて視界から消える。

 すぐさま次弾を装填した石動は、合図するため上げていた手をそのままに、あっけにとられたように落ちた男を見ている男にも続いて発砲した。

 手を上げたまま吹き飛ばされるように馬から落ちた男を確認した石動は、そのまま弓隊に指示を出していた者など指揮官らしき人物を狙い、発砲して倒していく。


 指揮官らしき者を5人も倒した頃には、盗賊たちは浮足立ち、統制の取れた動きができなくなっていた。


 その機会を逃さず、デビット団長率いる「グリフォンの剣」の傭兵たちが踵を返して突撃し、盗賊たちを蹂躙する。

 その中にはエドワルドもいて、笑いながら両手剣を軽々と振り回し、盗賊たちを血祭りにあげていた。

 

 ロサやダークエルフ達も崖の上から逃げようとする盗賊に矢を射かけ、石動も負けじとエドワルドに矢を射ろうとしていた男を撃ち倒す。


 こうして盗賊たちを壊滅させるのに、さほどの時間を必要とはしなかった。


お読みいただきありがとうございました。


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