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サントアリオス

お待たせしました。

今回からちょうど襲撃後の元の話に戻ります。

よろしくお付き合いください。

 森の中の街道を、石動とロサそしてエドワルドの三人で歩き出す。


 ダークエルフの国「サントアリオス」は街道を道なりに進むと森の中に突如として現れる国で、どちらかと言うと大きめの集落という方が近いかもしれない。

 人口は1,000人~2,000人とはっきりせず、街道沿いにあるのはダークエルフが交易の目的で設けた集落だからであり、その住人の多くは森の奥で暮らしていると言われている。


 「サントアリオス」からはミルガルズ山脈の麓にある山岳民族の国「モンターニュ」への道と、ミルガルズ山脈に向かって右に折れ、ドワーフの国である「クレアシス王国」へ向かう道が伸びている。

 石動達は「サントアリオス」でロサの友人に会って一泊し、その後「クレアシス王国」に向かう予定だった。

 

「くどいようですけど、エドワルドさんはそれでいいんですね?」

「全く問題ない! 所詮、行く当てのない旅である故な! 吾輩もまだサントアリオスには行ったことが無いから楽しみだわい。ハハハハハッ」


 エドワルドの狙いはなんなのだろう?

 石動は少し探りを入れるつもりでエドワルドに念押ししてみたが、笑顔で煙に巻かれた。

 こういう腹芸はエドワルドの方が石動より一枚上手らしい。


 石動はもうスパッと諦めて、成り行きに任せることにした。ラタトスクもいることだし、あまり酷いことにはならないだろうと考える。


 そう割り切ってしまうと、エドワルドは旅の伴に最高の人物だった。

 旅の経験が豊富だから各地の土地柄や特産物に始まり、冒険者たちと組んで魔獣と闘った話など、話題には事欠かない。

 話は尽きず、何度もエドワルドの巧みな話術で爆笑させられた石動は、何だか警戒するのが馬鹿らしくなってきてしまう。

 すっかりエドワルドに気を許してしまった石動達が三人で談笑しながら歩いていると、森の中のやや薄暗かった街道の幅が広くなり、それにつれて微妙に明るくなってきた。


 ロサが小走りに駆けて、嬉しげに先頭に立って歩き出すとサントアリオスが近いことを告げる。


 それから30分も歩いただろうか、本当に突然パァッという感じで森が開け、サントアリオスが見えてきた。

 

 街道はサントアリオスに向かう左への脇道と、まっすぐ進んで「モンターニュ」に向かう道、そして右に折れて「クレアシス王国」に向かう三叉路になっている。


 左に折れて三叉路の脇道をしばらく進むと、そこはもうサントアリオスの入り口だ。

 確かに他の国のように立派な城砦があるでもなく、訪れた人は小さめの街、という印象を受ける。

 魔獣避けに集落の周りは先を尖らせた3メートル程の丸太で囲われ、堀も巡らせてある。

 でも質素で、必要最小限といった感じだ。


 入口の門には衛兵も立ってはいるが、入国手続きも無く、入国税も必要ない。

 聞けば関税も安いらしく、商人がブエンテラ領主国から流れてくるメリットがあるように工夫しているのが感じられる。


 衛兵に会釈しながら門を通った石動達は、ブエンテラ領主国に入った時のように騒々しくなく、落ち着いた雰囲気なのに好感を持つ。

 石畳できれいに整備された道の両側には、木造で白塗りの土壁とオレンジ色の瓦で建てられた瀟洒な家や商店が立ち並び、前世界のヨーロッパの古い町並みのような風情が感じられた。

 

「ロサ、この国って何が盛んなの?」

「一番は宝石や貴金属の加工と販売じゃないかな。ダークエルフは手先が器用だからね、ドワーフと違った繊細な仕事で人気だって聞いたよ」

 石動の問いに、なぜかロサが自慢気に胸を張る。


「宝石の原石は何処から来るんだろう。やっぱり山からかな?」

「そう、主にモンターニュから流れてくるらしいね。商人はブエンテラ領主国で仕入れたものをここで売って、その資金で宝石を買って他の国に行く人も多いんだって」

「へぇー」

「そう、それでこの先の街道は宝石を狙った盗賊がおるのだ。吾輩もクレアシス側からじゃが、依頼されて討伐団に参加したこともあるぞ!」


 石動とロサとの会話にエドワルドが横から参加してくる。

「盗賊というより軍隊だったな、あれは。盗賊なのに総勢100人はおって組織されてたから、ちょっとした戦争だったぞ」

「へえ~、その盗賊団はどうなったの?」

「うむ、なんとか蹴散らして首領を捕らえたのは良かったが、参謀格の幹部が捕まらなくてな。そ奴が軍隊のように組織をまとめてたらしい。狡賢いオオカミのような奴でな、逃げ足も速かったわ」

 ハハハッと笑い飛ばすエドワルドを呆れたように見て、石動は改めてこの世界の治安の悪さとこれからの旅の安全を考えてしまう。

 自分もついさっき殺し合いをしたばかりだしな、と石動は内心でため息をついた。


 話しているうちに、ロサの案内で大通りから路地を一本入ったところにある、瀟洒で立派な二階建ての家の前に着いた。

 ロサがドアをノックすると、待ちかねたように内側からドアが開き、ダークエルフの女性が出てくる。

「リーリウム!」

「ロサ!」

 ハグして再会を喜び合う二人を見て、石動までなぜだか嬉しくなった。

 そして二人の外見が対照的なのに驚く。


 ロサは森のエルフらしく全体的に細身でスラッとしたモデル体型で、美しい金髪を肩甲骨のあたりまで伸ばし、肌も抜けるように白い。

 対してリーリウムはダークエルフのイメージ通り、肉感的でグラマラスだ。自然にウェーブした栗色の髪と褐色の肌も相まって、石動はラテン系美人という印象を持った。

 それに加えてリーリウムは巨乳で、胸元が開いた服を着ているので余計に目が吸い寄せられる。

 ロサも胸が無いわけではないが標準的で、リーリウムに比べたら小振りと言わざるを得ない。


 ロサに紹介されてリーリウムが石動に笑いかけながら右手を差し出してきた。

「あなたがツ、んんっザミエルさんね。ロサから聞いてるわ、よろしく」

「ザミエルです。こちらこそよろしく」 


 気を付けなければ。目線を落とすな、と石動は心の中で自分に言い聞かせた。

 女性は男の視線には敏感だと聞いたことがある。

 視線や態度でロサにリーリウムとナニかを比べていることを悟られてはいけない・・・・・・。死ぬかもしれないぞ。


 石動はエドワルドとも握手を交わすリーリウムを見ながら、ロサの眼が石動の行動を横目で監視しているのを感じていた。笑顔なのに眼が笑っていない。

 ふと、ロサだけではなくエルフの郷に居るロサの兄のアクィラが、剣を振り回しながら追いかけてくるのを幻視した気がする。



 その日はそのまま、リーリウムの家に泊ることになり、夕方には仕事を終えて帰ってきたリーリウムの両親と共に賑やかな晩餐となった。


 リーリウムの両親はサントアリオスでも有数の宝石研磨と加工の工場だけではなく、販売店まで持つ商会を経営しており、議員として国政にも参与しているらしい。

 本宅は森の奥にあり、この家はあくまで出先の別宅という扱いのようだ。

 その割には豪華で、家というよりちょっとした「(やかた)」のようだが。


 そんな話やエドワルドの馬鹿話で盛り上がり、楽しい夕食だった。

 ロサはまだリーリウムたちと積もる話があるようなので、石動やエドワルドはそれぞれ割り当てられた部屋で寛ぐことにした。


 身体をお湯で拭い、さっぱりしてベッドに横になった石動は、今日一日の目まぐるしい展開に思いを巡らせる。

 石動は、三人も人を殺しているのだから普通なら何かしら感じるものがあるはずだ、と思う。

 自分で自分を分析しても、特に興奮状態であるとか、逆に心を閉じているとかは感じられない。

 逆に平静すぎて自分が怖い位だ。


「ラタトスク、私は冷たい人間になってしまったんだろうか?」

『スキルのレベルが上がることで、状態異常に対して抵抗ができているのかもしれないね。どのスキルが影響したかは分からないけど、普通に考えれは「暗殺者」か「兵士」かな』

「そうか、暗殺者や兵士が人を殺すのは当たり前か・・・・・・」


 じっと天井を見つめて、石動は眉を顰めていたが、ふっと表情を緩めて灯りを消した。

「まあ、考えても仕方ないし寝るわ。おやすみ、ラタちゃん」

『おやすみ、ツトム』


お読みいただきありがとうございました。


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「あなたがツ、んんっザミエルさんね。ロサから聞いてるわ、よろしく」 ロサは、以前から手紙などの方法でやりとりしていたのかな。
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