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異世界スナイパー  ~元自衛隊員が剣と弓の異世界に転移したけど剣では敵わないので鉄砲鍛冶と暗殺者として生きていきます~   作者: マーシー・ザ・トマホーク
第二章 ドワーフの国

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閑話ー過去・アフガニスタンー 3

今回で石動の過去の話は終わりです。

早く元の話に戻せ、という催促も頂いておりますが、もう一話だけお付き合いください。

次回からは、元の話に戻りますから・・・。

「聖戦ジハード軍団か?」

「山の上で偉そうにしてるのがザカールウィですかね」

 リチャード少尉とエメリコ曹長が双眼鏡を覗きながら話している。


 エメリコ曹長がナイツSR-25を無造作に構えると、発砲した。

 山の上で大きなジェスチャーで指示を出していた男が倒れ、崖を転がる。

「うーん、なんか違う気がするな・・・・・・」

「まあいい、将校を中心に殺ってくれ」

 リチャード少尉はエメリコ曹長の肩をポンと叩くと、ススッと走り去る。


 石動がふと横を見ると、少し離れた場所に、案内人のはずだった中年男と娘が立ち竦んでいた。


 石動は迷う。

「(この作戦が罠だったんなら、あの二人もグルなんじゃないか? いや、でもあんな幼い少女もアルカイーダなのか? 助けたほうがいいのか・・・・・・)」


 迷う石動の横を走り抜けていく気配にハッと振り向くと、成宮曹長が小銃を構えて辺りを警戒しながらも、二人のところへ走っていく姿だった。

 

「成宮曹長!」

 叫ぶ石動の声に我に返ったのか、成宮曹長の姿を見て中年男が慌てて、民族衣装の下に隠し持っていたAK47Sをゴソゴソと引っ張り出そうとする。


 石動が成宮曹長を援護しようと中年男に向けてHK417を構えた時、成宮曹長に向けたものか、RPGのロケット弾が飛来した。


 中年男がAK47Sを取り出して成宮曹長に向けたと同時に、ロケット弾が中年男の近くに着弾して爆発する。

 中年男が全身にロケット弾の破片を浴びて吹っ飛ぶのと、成宮曹長が少女を庇って覆いかぶさって地面に伏せたのが同時だった。


「成宮曹長ー! くそっ、今行きます!」


 石動が走り出すと、成宮曹長が少女に覆いかぶさっていた状態から、フラッと首を押さえながら上半身を起こしたと思うと、信じられないという表情で石動を見た後、首から大量の血を噴き出す。


「!!! なんだっ!」


 ゆっくりと少女が身体を起こす。

 成宮曹長の返り血で顔は真っ赤だったが、その憎しみに燃えた眼は見間違えないようのないものだった。

 少女は立派に戦う戦士だった。

 鞘がJの形になったアラブ風の片刃のナイフで、成宮曹長の首を少女が掻き切ったのだ。

 少女は手に持ったナイフを両手で握り直すと、振りかぶって成宮曹長に突き立てようとした。


 石動は手にしたHK417を発砲し、胸の真ん中に7.62×51弾が着弾した少女は振りかぶった体勢のまま後ろに吹き飛ばされた。

 駆け寄った石動は、少女と中年男の死亡を確認すると成宮曹長を抱える。


「成宮曹長! 頑張ってください! 一緒にヘリの方に戻りましょう」

「・・・・・・カナコ・・・・・・」


 首の出血部位は深く、一目で致命傷と分かる傷だった。

 石動は懸命に声をかけ励ましたが、成宮曹長は既に焦点が合わない眼で虚空を見つめ、微かに一言呟くと生命の火が消えてしまった。


 石動は様々な感情が渦巻き、胸の中を鋭い爪で掻き毟られるような気持ちだったが、ひとつ深呼吸して成宮曹長の遺体を抱えながら、ヘリの影まで戻るべく走る。 


 成宮曹長の遺体を抱えてブラックホークの影に走り込むと、相馬一曹と伊藤二曹が待っていて、成宮曹長を抱きかかえるように受け取った。


 銃撃は激しさを増していて、集中砲火を浴びているこの場所に、いつまでも居る訳に行かないのは明らかだった。


 リチャード少尉が口を開く。


「状況は最悪だ。CIA(ラングレー)のクソ野郎が、クソ情報をつかまされた挙句、このクソのような状態だ。敵はザカールウィではなく、タリバンの可能性が高い。包囲される前に一刻も早くここを抜け出す必要がある」


 成宮曹長の遺体をチラッと見てリチャード少尉は続ける。

「成宮曹長が死んでしまったのは残念だ。心からそう思う。いいヤツだった。しかし、遺体を担いでこのタリバンの包囲を抜け出すのは無理だ。そして日本人はこの場所にはいないことになってる。絶対に死体をタリバンの手に渡すわけにはいかないんだ。どデカいスキャンダルになる」


 リチャード少尉は2枚のドッグタグを見せる。

「ヘリもこのままにはしておけない。ヘリの操縦士もダメだった。そこで、このヘリを爆破し炎上させるときに成宮曹長の遺体も燃やす」

 

 異議を唱えようと顔を上げた石動達を手で制して、リチャード少尉は言い切った。

「これは決定だ。異議は認めない。お前らももし基地に帰るまでに死んだら燃やすか、爆破するから覚悟しとけ」


 リチャード少尉の眼は本気だった。横からブロディ上級曹長が笑顔で優しく付け加える。

「心配するな。俺たちが必ずお前たちを基地まで連れて帰ってやる。だが、ナルミヤはダメだ。お前たちも分かってるだろう? こうしている間にも逃げるチャンスは無くなっている。リチャードが喜んで言ってると思わないでくれ」


 ブラックホークの機体を叩く銃弾の雨は、ますます激しくなっていた。


 相馬一曹は頷くと、成宮曹長のドッグタグを外し、自動小銃やマガジン、拳銃などの装備を成宮曹長の遺体から剥がす。

 マガジンは同種の自動小銃を使う相馬一曹と伊藤二曹が分け、自動小銃や拳銃は力自慢の相馬一曹が自分の装備の上に括り付ける。


 その間にブロディ曹長がプラスチック爆弾と焼夷手りゅう弾をブラックホークに仕掛けた。

 石動達3人は、操縦士らと並べられた成宮曹長の遺体の遺体に手を合わせて冥福を祈り、一緒に帰れない事を心の中で詫びる。


「いいか、今からあの谷の左手の斜面まで撤退する。まず俺とブロディが出る。後でリーアムとエメリコの指示でお前らも移動して来い。リーアム、基地と連絡はとれたか?」

「30分で騎兵隊が爆撃に来るとさ」

「やけに準備が良いな? まあいい、聞いたな。30分何があっても生きろ」

 リチャード少尉が矢継ぎ早に指示を飛ばす。リーアム曹長が衛星電話で話した内容を伝えると、皆で立ち上がり動き出す。

「では行くぞ! 行動開始(ムーブ) !」


 そこからの撤退戦は地獄だった。

 全員が岩肌まで移動したことを確認すると、ブロディ曹長がヘリを爆破させ燃え上がらせる。

 かなりの爆風と火球が上空まで立ち昇るほどの爆発で、ヘリ近くまで迫っていたタリバン兵は相当数被害が出たはずだ。


 それでもタリバン兵は当初の20人程度の待ち伏せから、次々と補充され、いくら倒してもキリがないほどだった。

 リチャード少尉とリーアム曹長が前衛で、ブロディ曹長と相馬一曹、伊藤二曹が中衛、エメリコ曹長と石動が殿(しんがり)を務め、追ってくるタリバン兵を狙い撃ちした。


 石動は思う。

 何人殺したのだろう。10人や20人では効かない。

 30分経つ頃には6本あったHK417の20連マガジンは空になり、相馬一曹から渡された成宮曹長のHK416も撃ち尽くし、予備装備(サイドアーム)のグロック19Xを撃っていた程だ。


 最初に少女を撃った時も、成宮曹長を助けるのに夢中で、はじめて人を殺したとかの感傷に浸っている暇などなかった。

 そしてそのあとの退却戦でも、考える暇もない激しい戦闘だ。いちいち殺した人数を数えている暇などない。

 なんと強烈な殺人童貞喪失なのか。


 今は考えられないが、後になれば感情が追いついて、なにかしら反動が来るのかもしれない。

 でも今の石動の正直な感想は、戦場では酷く人の命が安いな、というものだった。

 一発何円の官給品の弾丸で人が死んでいく。


 殺さなければ、シリア経由でロシアから流れてきたアメリカ製よりもっと安い単価の弾丸で撃たれ、こっちが死ぬだけだ。

 石動は自分の感情がどんどん摩耗していることにすら、気が付く余裕が無かった。

 

 30分過ぎる頃、GPS信号でデルタチームの位置を確認したF18ホーネットが対地攻撃で盛大な爆撃を敢行し、その後AH-64Dアパッチ・ロングボウ2機に護衛されたUH60ブラックホークが現れた。


 AH-64Dアパッチ・ロングボウはタリバン兵をヘルファイヤ・ミサイルと30ミリチェーンガンで掃討してくれ、安全を確保した後に着陸したUH60ブラックホークにデルタチームと石動達は、無事乗り込むことができた。


 ここまで至れり尽くせりだったのは、やはり日本の自衛隊員が非公認特殊部隊であるデルタフォースと一緒に作戦行動をとったということが明るみに出ると、いろいろと困る両国政府高官やアメリカ陸軍上層部の将官が居たため、迅速な対応を強行させたということらしい。


 助かったとはいえ石動達は満身創痍で、プレートキャリアで重要な部位は守られていたが傷や骨折はあちこちにあり、すぐに陸軍病院に移送された。

 そのため、デルタチームとはお別れやお礼を言う間もなく、バタバタと別れてしまい、その後も逢っていない。

 亡霊のように消えてしまったデルタチームは、全員かすり傷程度で、入院は必要なかったようだ。


 ベットに横たわった石動が、しみじみ思ったのは「マジでリアル『ブラックホークダウン』で『ローンサバイバー』」な体験だったと言う感想だ。

 デルタチームがいなかったら確実に死んでいただろう。


 そしてなによりも成宮曹長の事を考えた。


 何度も繰り返し、"あの時、自分が同行したいと言わなければ"と思ってしまう。

 片目と左腕を怪我した相馬一曹と右足に銃創を負った伊藤二曹には、帰りのヘリの中で涙を流しながら石動が謝ると、「それ以上言うと怒るぞ」と伊藤二曹に低い声で言われ、相馬一曹には無言で結構激しい勢いでヘルメットを被った頭を殴られた。

 負傷した左目を血の滲んだ包帯で覆い、残った右眼でじっと石動を見る優しい視線からは、伊藤二曹と同じ気持ちであることが伝わってくる。あれは殴った手の方が痛かったのでは、と石動は思う。


 恐らく同じように娘を持つ優しい父である成宮曹長は、タリバンかアルカイーダだったとしても、少女が危険に晒されているのが我慢できなかったのだろう。

 最後に呟いた「カナコ」とは成宮曹長の娘の名前だろうか?

 それとも愛する奥さんの名前だったのか。

 石動はいずれ成宮曹長の遺族に会って、最後の言葉を伝えるべきだと考えていたが、尋ねる勇気は持てそうにない。あまりに悲しいからだ。責任を感じるからだ。


 責任を果たすような行動をとるべきだ。

 石動はそう心を決める。


 帰国後、石動は自衛官を辞めるべく特殊作戦群に辞表を提出した。

 しかし、石動の能力と経験を惜しんだ特殊作戦群の大山一佐の尽力と慰留で、第一空挺団に転属することで落ち着いた。


 陸自の上層部がそんな動きをしていた頃、休暇をとった石動は成宮曹長の家を訪ねて仏壇に焼香させて頂く。


 公式には成宮曹長の死亡は戦闘によるものではなく、アメリカ陸軍のプレスリリースで「アメリカ軍のヘリコプター事故に巻き込まれ、演習中の自衛隊員と乗員2名が死亡した」とだけ公表され、それを受けた大手新聞の小さな囲み記事が掲載されただけだった。


 優しく迎えてくれた、奥さんの名前が「成宮 加奈子(カナコ)」さんだった。

 娘さんの名は「(あおい)」ちゃんだと知って、石動はなぜだか涙が溢れて仕方がなかった。 


お読みいただきありがとうございました。


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