閑話ー過去・アフガニスタンー 2
確定申告・・・メンドイ
そんな濃密といえる訓練も、2週間近くが経過して終わりに近づいたある日、デルタチームに緊急指令が入る。
CIAからアフガニスタンのある村にアルカイーダの幹部アル・ムハンマド・ザカールウィが入った、との情報が入ったのだ。
ザカールウィはアルカイーダの幹部の中でも過激派として知られ、私兵組織「聖戦ジハード軍団」を組織してイラクでの日本人人質殺害事件や数々の爆破事件に関与し、アメリカ合衆国から多額の懸賞金をかけられている大物だ。
衛星写真やドローンでの撮影では、それらしい人物は認められるものの、確証を得るまでには至らず、デルタチームによる侵入と確認がフォートブラックの本部を通じて依頼されてきた。
「そんなもん、ドローン飛ばして、そいつにバイパーストライク誘導弾をぶち込めば済む話じゃねえか?」
ブロディ上級曹長が面倒臭そうに顔の前で手を振りながら文句を言う。
「違うヤツのケツにぶち込むとマスコミや議会が五月蠅いからな。確認したいんだと」
リチャード少尉が眉を顰めながら続ける。
「要するに政治だ。俺たちは駒に過ぎんよ」
リーアム曹長がニヤリと笑って尋ねた。
「駒には鋭い爪も牙もあるけどな。確認したら殺しちまってもかまわないんだろ?」
リチャード少尉は微笑みながら肩をすくめた。
「そりゃ成り行きってもんだ。CIAは生け捕りにしたいんだろうけどな」
笑い合うデルタチームを見て、石動達は4人に畏敬の念を抱く。
たった4人でアルカイーダの勢力下にある村まで行って、帰って来るというのか。
しかも出来たら暗殺までするという・・・・・・。
激しい戦闘になるのは眼に見えているのでは?
石動はデルタの本気を見てみたい!という強い衝動が腹の底から込み上げてきた。
リチャード少尉が成宮曹長に向き直って済まなそうに口を開く。
「あー、済まない。我々はピクニックに行く事になった。そんな訳でちょっと早いが訓練は終了・・・・・・」
「私達も同行させて頂けないでしょうか!」
リチャード少尉が話し終わらない間に、石動は大きな声を上げてしまった。
横では成宮曹長が目を丸くして石動を見ており、伊藤二曹が慌てて石動の肩を掴む。
真剣な石動の眼を見て、成宮曹長は微笑みながら微かに頷くと、伊藤二曹らを見た。
相馬一曹は親指を立てて頷き、伊藤二曹も石動の肩から手を放して苦笑いを浮かべる。
「私からもお願いします」
成宮曹長がリチャード少尉に頭を下げると、石動達3人も慌ててそれに倣う。
「うーん、流石にマズいんじゃないかな。難しいと思うけど、フォートブラックには一応、伺いを立ててみるよ」
リチャード少尉は最初は断っていたが、なんとか渋りながらも譲歩してくれ、本部の許可を条件に同行を検討してくれることとなった。
どういう交渉が政府間、または両軍内部で行われたのかは不明だが、なぜか一部条件付きで同行が認められることになった。
どうせ駄目だろうと思っていた石動達が、一番驚いたほどだ。
同行の条件として、デルタチームについて行ける範囲はアフガニスタン正規軍の勢力範囲内だけというもので、今回の作戦行動としてはヘリで現地の案内人と合流した後、1~2日程度同行できるだけだ。
アルカイーダやタリバンの勢力下には立ち入らないことと、交戦になった場合はデルタチームの指揮下となるが、自衛官として自衛に必要な範囲とすること、という注意書きまでついてきた。
石動達のピックアップポイントにはヘリが迎えに来ることになっている。
「まさにピクニックだな! ランチボックスとビールを忘れるなよ! ハハハッ」
リーアム曹長が石動の背中を巨大な手でバンバン叩きながら、大笑いした。
作戦当日、準備を整えた石動達は、到着した時と同じヘリの発着場でUH60ブラックホークの前に立っていた。
「うー、流石にちょっと緊張してきた」
「もう一度、トイレに行った方が良いんじゃないか? 漏らしたら大事だぞ」
伊藤二曹の呟きに相馬一曹が茶々を入れる。そんな空気にふっと緊張がほぐれてきた。
「すみません、成宮曹長。自分が言い出したばかりに皆を危険にさらすことになって・・・・・・」
「なんだ、石動。後悔してるのか? ビビってるんじゃないよな」
石動は自分の発言がこんな大きなことになると思わず、なんとなく申し訳ない気持ちになって成宮曹長に頭を下げる。
成宮曹長は笑いながら、明るく石動を揶揄ってきた。
「皆の気持ちで決めたことだ。お前が気にすることじゃない」
「そうだぞ。腕が鳴るぜ」
伊藤二曹や相馬一曹も話に加わり、相馬一曹は太い腕で力こぶをつくってみせる。
ふと気が付くと、デルタの4人が気配も感じさせず、いつの間にか近くまで来ていた。
いつものリラックスした雰囲気だが、眼が違う。完全に仕事モードの戦士の眼になっていた。
「オーケー、ボーイズ。散歩の時間だ」
リチャード少尉の言葉でヘリに乗り込む。状況開始だ。
UH60ブラックホークで20分程飛んだ先で、地元の案内人と合流する予定になっている。
基地からしばらくは平地が続いたが、次第に山岳地に入っていく。
合流するのは不必要に目立たないよう、谷あいにある小さな盆地が指定されている。
高度を上げて飛行していたUH60ブラックホークは、次第に高度を下げて合流地点へ近づいていく。
合流地点には、ターバンを巻いた髭面の中年男と、娘らしい黒髪の少女が立っていた。
民族衣装なのか、マントの様なダボッとした服を着た中年男と娘が手を振ってくる。
谷あいにゆっくりと高度を下げていくUH60ブラックホーク。
「待てッ!」
外の様子を窺っていたリチャード少尉がヘリの操縦士に怒鳴る。
「どうも気に入らない・・・・・・。エメリコ、サーモグラフのスコープはあるか?」
地上10メートル程のところでホバリングし、動きを止めたUH60ブラックホークに男と娘が振る手の勢いが激しくなった。
「リチャード、どうやらかなりの人数が岩陰に隠れてるぞ。罠だ!」
「撤退だ! 基地へ戻せ!」
リチャード少尉の言葉に頷いて、操縦士がヘリの高度を上げようと操縦桿とラダーを操作しようとした時、煙を引きながら飛んでくるモノに気付く。
「R P G !」
気が付くと三方向からRPGロケット砲の十字砲火を受けていた。
操縦士がグワッと機体を傾けることで、正面から飛んできたロケット弾を避ける。
しかし、右に機体を傾けたことで斜め右から飛んでくるロケット弾を避けることができず、ローターに被弾してしまう。
スズンッという腹に響く爆発音とともに、UH60ブラックホークのローターブレードが爆発で何本か吹っ飛び、途端に機体の制御が効かず不安定な挙動をし始めた。
機体が墜落し始めたことで、斜め左から飛んできたロケット弾はキャビン直撃ルートから外れ、飛び去ってしまう。
石動達はシートに安全ベルトで繋がれたまま、機内でシェイクされているような状態だった。
「落ちるぞ!! しっかりつかまれ!」
リチャード少尉の叫ぶ声に、歯を食いしばって衝撃に備える石動達。
ドグワッシャーン!!
凄まじい衝撃とともに操縦席から地面に突っ込んだUH60ブラックホークは、幸いにも10メートル程度の高度だったので、操縦席のキャノピーがクッションとなり、石動達がいるキャビンまで潰れることはなかった。その代わり、操縦席はペシャンコで操縦士が助かる見込みは無かったが。
衝撃でグラグラする意識と痛みを無視して、石動達は無言で安全ベルトを外し、装備を持ってUH60ブラックホークの外に飛び出す。
石動達が外に飛び出すと同時くらいに、黒いターバンを巻いたタリバン兵や戦闘服を着た兵士らが姿を現し、一斉に銃撃を加えてきた。
UH60ブラックホークは、幸い燃料タンクの破損はないようで、すぐに爆発することはなさそうだ。遮蔽物として利用しながら銃撃に対して反撃を開始する。
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