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同行者

予約投稿時間を間違えました。

大変申し訳ありません。

「さてと・・・・・・」


 立ち上がった石動は弓矢を拾って近づいてきたロサが、自分の背後に回ったことを確認すると、目の前の森の木々に向かって話しかける。


「そろそろ出てきてくれるとありがたいんだがな。出てこないつもりなら強制的に出てくるように仕向けることになるけど?」


 石動がゆっくりとシャープスライフルを構えて、一つの樹に狙いをつけた。


「いやいや、それには及ばんよ」


 そう言いながら樹の影から巨体が現れる。それはドゥエイン・ジョンソン似のエドワルド・レーウェンフックだった。



「あんたもこいつらのお仲間かい?」

 油断なく銃口をエドワルドに向けながら、石動は穏やかに話しかけた。


「無論、違うぞ! 吾輩は街でお主らが出立するのを見かけて、旅に合流して昨晩の話の続きをするのも良かろうと思い、急ぎ街道に出たのじゃが、こ奴らがお主たちをつけ回しているのに気付き、いざとなったら助太刀しようと跡をついてきたのだ」

 エドワルドは、三人が倒れ伏す惨状を見ながら苦笑いを洩らす。

「全く余計な心配であったようだけどな」


「助太刀というわりには、ずっと樹の影からロサが人質になるのをただ見ていたようだが?」

 石動はグッとシャープスライフルの狙いを定め、返答如何で直ぐにも発砲できるように引き金に指を添える。

 エドワルドは悪びれもせず、頭をポリポリと掻き、恥ずかしげに下を向く。

「面目ない、出るタイミングを逸してしまってな。あっと思った時には既に始まってしまっておったし。

娘が盾にされたときは、吾輩が現れることであのハゲの注意を逸らして隙を作れるかと思い、樹の影から出ようとしたんじゃが・・・・・・その前に」


 パッと顔を上げたエドワルドは、顔を紅潮させ好奇心丸出しで石動に歩み寄る。

「お主のその変わった槍は何じゃ?! 雷鳴の様な音と共に足を吹き飛ばしおった! 魔道具か?! どういう仕組みなんじゃ?! ちょっとだけでもいいから見せてくれんかのぉ」


 でかい眼をキラキラさせながら笑顔で近づくエドワルドに、石動はすっかり毒気を抜かれてしまった。

 フードの中のラタトスクに頭の中で話し掛ける。

「(ラタちゃん、どう思う?)」

『う~ん、嘘は言っていないようだけど・・・・・・読めないな。一つ確かなのは山脈を越えたところの帝国領の領主の息子って言うけどレーウェンフック家って私のデータベースに無いんだよね』

「(ラタちゃんって、帝国の貴族たちまで詳しいの?!)」

『貴族だけではなく地方領主やその分家などまでデータベースに網羅してあるよ』

「(スゲー! でもそれにも無いなら要注意という事だね。了解)」


 ラタトスクとの会話を終えた石動は銃口を下げて構えを解き、ニコニコと笑顔のエドワルドへ向き直る。

「話は分かりました、エドワルドさん。とりあえず、話は後にして、この場をどうにかしてから街道に戻ろうと思います」

「その槍を見せてもらうのは・・・・・・?」

「却下です」

「そんな殺生な」


 両手を合わせて拝むような仕草をするエドワルドにふうっとため息をつき、視線を周りの石動は死体に移した石動は呟く。

「さて、どうしたもんだかな」

「ん? ほっときゃいいではないか?」

「え?」


 石動の呟きにエドワルドが反応したが、返された石動がきょとんとした。

 それを見てエドワルドの方が不思議そうに付け加える。

「だから、ほっとけば良かろう。お主のしたことは自分と仲間の身を守っただけのことだし、こ奴らは殺されても文句の言えん輩じゃ。この金髪が言っておった通り、森で冒険者が獣に襲われて居なくなるのは珍しいことでは無い。幸い、この場所は獣が集まるヌタ場の様じゃし、ほっとけば獣たちがキレイに始末してくれるわ」

「そんなもんですか・・・・・・」


 見るとロサもエドワルドの意見に頷いていて、違和感を感じてはいないようだ。

役人とかに届けなくて良いのだろうか?

 ラタトスクに依頼され、任務として行った銀狼将軍への狙撃とはちょっと意味が違う気がする。


 正当防衛とはいえ、仮にも殺人という事案なのに、そんな簡単でいいんだろうか・・・・・・?


 法治国家の公務員だった石動は、この世界の死に対する感覚が違い過ぎてまだ実感が無かったが、自衛隊時代に【海外研修】で行ったアフガンを思い出し、納得する。

 

 そう言えば、あそこも命の値段が安い場所だったな・・・・・・。

 石動の脳裏にアフガニスタンでの岩山の悪夢がフラッシュバックする。


「ああ、こ奴らの装備とか欲しいもんがあれば貰っておけば良いぞ。死んだ奴らには必要ないものだし、獣には価値が分からんからな」


 ハッハッハッと笑うエドワルドの言葉に石動は首を振る。


「そう云う事なら要らないし、早くここを出ましょう。どうやら獣の気配が近づいています。囲まれでもしたら面倒だ」

「そうか、勿体無いことじゃが仕方ないの」

 

 石動の言葉に皆頷いて、来た獣道の方へ戻ることにする。

 エドワルドを先頭に、ロサ、石動の順で歩き出した。石動はふと振り返り、広場の中で倒れたままの死体を見る。


「(間近で人を殺したのは久しぶりだけど・・・・・・意外と何も感じないもんだな)」


 そんな感想を心の中で呟いた石動は、脳裏にまたヘリコプターのローター音を聞いたような気がした。

 頭を振って前に向き直ると、ロサの後ろを周囲を警戒しながら歩き出す。


 しばらく歩くと、程なく幸いにも獣や魔獣に襲われる事無く街道に戻ってきた。


 街道に出た石動は、エドワルドに問いかける。

「さて、私達はサントアリオスに向かいますが、エドワルドさんはどちらへ行く予定ですか?」

「う~ん、これと言っては決まっておらんのだ。お主らは昨日、ドワーフの国クレアシスに行くと言っておったよな? 吾輩もクレアシスから山を越えて久しぶりに里に帰るのも良いと思っておったところじゃった。どうじゃろう、クレアシスまで一緒に行かんか?」

「一人では決められないので・・・・・・。ちょっと二人で相談してもいいですか?」

「おおっ、もちろん構わんとも!」


 エドワルドから少し離れたところへロサを連れて行き、小声で話し合う。


 石動はラタトスクから聞いたことや、昨日のレストランでもエドワルドと入れ替わりに三人組が入ってきたことに加えて、先程の襲撃でどうにもタイミングが良すぎる事、ただし何一つ証拠はなくエドワルドの言う通りかもしれないことなどをロサに伝え、同行するリスクとメリットを冷静に指摘した。


 リスクとしては、目的は分からないが襲撃などの黒幕がエドワルドである場合、今後の旅に更なるトラブルが予想されることだ。

 メリットをあげるなら、どうせ怪しいなら目の届くところに居てもらった方が監視しやすいことや、エドワルドの言う通りなら経験豊富なエドワルドは旅の伴に最適だと云う事だろう。


 ロサもラタトスクも同行して監視する方が、この先見えないところで暗躍されるよりマシでは? という意見だったので、同じ意見の石動も同意する。


 それでは、と二人はエドワルドのもとに向かい、石動が笑顔で告げる。


「エドワルドさん、先程も言った通り、先ず私達はサントアリオスに用事があるのでそちらを経由してからクレアシスに向かうことになりますが、どうします?」

「吾輩は全く問題ないぞ! もとより急ぐ旅では無いからな」

「では、一緒に行きましょうか。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしく頼む!」


 石動が差し出した右手をエドワルドがガッチリと握り返す。


 笑顔のエドワルドを見ながら、石動はついさっき人が3人死んだばかりなのに、何事もなかったようなこの明るさはなんなんだろう、とあらためて思う。

 自分が引き起こした事態ではあるが、エドワルドらの無関心さが靴の中に入った小石のように、心の中を刺激されて気持ちが悪い。


 本当にこの世界は、命の価値が安いんだな。


 なんとなく、わかってきたよ。


 石動は追憶の中のヘリコプターの爆音が、すぐ耳元で聞こえてきた気がした。

お読みいただきありがとうございました。


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