襲撃 1
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翌朝、石動とロサは宿でゆっくりと朝食を食べてからチェックアウトし、宿を出て本日の目的であるダークエルフの国「サントアリオス」を目指して歩き出した。
結局、今までのところ治安当局から石動達への問い合わせを含めたアプローチは無かった。
良かったのだろうか? と思わないではなかったが、こちらは被害者なのだし何も無いならそれで良いか、と考え直す。
既に町は商店が開いていて、呼び込みの声が姦しい。橋を渡ってきたと思しき人通りも多く、物珍しげにキョロキョロしている姿は昨日の自分たちを見ている様だった。
街の外れの北側の城門を出ると、そこはサントアリオス方面へ向かう街道に直結しており、道なりにいけば着く。ブエンテラ領主国を起点に何本かの街道が伸びているのだ。
街道とはいえ、街の外は未舗装の道路で荷馬車がよく通るので轍も深くなり土埃も立つ。歩道なんてものはないので、道の端を歩くしかない。
ブエンテラ領主国を出てしばらくは丘陵地帯の中を街道が走っていたが、歩いていくとやがて黒々とした森が見えてくる。
サガラド河を挟んでエルフの森と対を成す深い森だ。
エルフの森とは若干、植生が違うようだが、それでも巨木が立ち並び、森の中に入ると街道を歩いていても昼なお薄暗く感じる程だ。何となく道も狭くなったような気がするのは圧迫感のせいか。
こんな森を開墾したのか、立派に街道が続いているのを見て、石動は先達の苦労が偲ばれた。
森の中に入ると、荷馬車の往来も少なくなり、人影もまばらになってきた。
ロサは明らかに森の中に入ってから機嫌がよく、歩く姿に生気が満ちた感じになっている。
張り切って歩くロサを微笑ましく見ていた石動に、フードの中から這い出てきた栗鼠姿のラタトスクが、頭の中に話しかけてきた。
『ねえ、気付いてる? つけられてるよ』
「(!! 何人だ?)」
『四人、いや三人かな・・・・・・。森に入ってからは気配を消したつもりなんだろうけど、殺意が漏れててバレバレだね」
「(てことは襲ってくるつもりか・・・・・・。何処か迎え撃つのに良い場所はある? 目撃者が居ない方が良いな)」
『そこの大きな木を過ぎたら右手に獣道があるから入って。百メートルも歩くと好都合な場所があるよ』
「(了解、ありがとう)」
石動は獣道が目に入ると、前を歩くロサに声をかけた。
「ロサ、ちょっと休憩しないか? 実はトイレが無いからずっと我慢してたんだけどそろそろ限界で・・・・・・」
ロサはちょっと驚いたように振り返って、少し前かがみになって前を押さえる演技をする石動を見た。
少し頬を赤らめて、ロサは口を尖らせて言う。
「仕方ないわね。ここで待っててあげるから、さっさと用を足してきなさい」
「いや、道から見えると嫌だから、森の中に入ってするよ。ロサもついてきて」
石動は少し強引にロサの手を掴むと獣道に入っていく。
「ええええッ! 人の生理現象を覗く趣味はないんですけどぉ~!」
ロサは石動に手を引かれながら叫んだ。
足早に獣道を歩きながら、石動はロサに小声で囁くように前を向いたままで話しかける。
「ロサ、どうやらつけられているらしい。殺気が漏れてるから、襲うつもりの様だ。だからこの先で迎え討とうと思う」
「・・・・・・分かった。聞きたいことは沢山あるけど後にするわ」
突然、獣道が途切れて樹木が疎になった場所に出た。そこは猪の様な大型獣のヌタ場になっているのか、草が薙ぎ倒され、彼方此方で地面が露出している。周りに生えている樹々にも獣の仕業と思しき爪痕が多数ある。
「ロサは正面にある、あのデカい樹に登って弓矢でバックアップしてくれ」
「了解。ツトムはどうするの?」
石動は不敵にニヤリと笑うと言った。
「こんな所まで追いかけて来てくれる熱心なお客さんはしっかりと歓迎してあげないと、ね?」
石動はスリングで肩に掛けていたシャープスライフルを外して手に取ると、レバーを操作して薬室チャンバーに50-90紙薬莢弾を装填した。予備弾も数発、ポケットに移しておく。
次いで銃口近くに着剣してある銃剣の鞘をはらう。銃剣の刀身が鈍く光った。
獣道の方に向け、石動はやや半身になり銃剣道の構えをとる。
すると待つまでもなく、ガサガサと音を立てながら薮を分けて三人の男達が現れた。
三人、と聞いて想像していた通り、昨日の酔っ払い三人組だった。
流石に今は酔ってはいないようだが、ニヤニヤ笑いを顔に貼り付けて歩いて来る。
「(コイツら、舐めてるな。油断しきってる)」
石動が呆れたのは、男達の態度だった。
昨日、あれだけ手酷くやられたのに、石動達を襲うのに包囲するとか遠距離から攻撃するなど考えずにまともに向かって歩いて来ている。
「(よっぽど腕に自信があるのか、それとも馬鹿なのか・・・・・・)」
石動がそんな事を思っていたら、先頭に立って歩いて来た金髪ロン毛が声を掛けて来た。
「ようっ! 色男。えらい勢いで女の手を引いて行ったから、てっきり一発済ませるもんだと思ったぜ。なんだ、もう済んじまったのか? これからなら俺らも仲間に入れてくれよ、ヒャッヒャッヒャ!」
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