乱闘
新年あけましておめでとうございます。
何とかギリギリ松の内に更新間に合いました。
今年もどうぞよろしくお願い致します。
エドワルドがドアを開けようとした時、三人組が乱暴に「バンッッ」とドアを壊すような勢いで開けて雪崩れ込んできた。エドワルドは不快そうに軽く顔を顰め体を躱すと、スッと三人組にぶつからないよう、上手く避けると外に出ていく。
入ってきた三人組は十代後半に見える若者たちだったが、明らかに酒に酔っぱらっていた。
それぞれ皮鎧を着たりマントを羽織ったりしているが、いずれも片手剣などで武装している風体から見て、所謂「冒険者」という者なのかもしれない、と石動は冷静に観察していた。
三人はギャハハッと品の無い笑い声をあげ、猫耳娘に気付くと口々に「酒だ! エールとワイン持って来い!」と大声で怒鳴った。
眉をひそめた猫耳娘が無言で傍を通り抜けようとした時、軽薄そうな顔をした長髪の金髪がニヤニヤしながら猫耳娘の尻を掴む。
「キャアッ!」
悲鳴をあげて飛び上がった猫耳娘の反応が面白かったのか、三人は再び馬鹿笑いを爆発させた。
「ロサ、そろそろ宿に帰ろうか」
「そうね。折角の良い気分が台無しだわ」
石動が猫耳娘に眼で合図し、代金をテーブルに置いて椅子から立ち上がると、先程の金髪が初めて気付いて叫ぶ。
「おい、見ろよ! エルフがいるぜ!」
「マジかよ! この辺りじゃダークエルフの国があるとは聞いてたけど、森のエルフは初めてだ。ツイてるな」
「おーい、エルフの姉ちゃん、こっちで一緒に飲もうじゃないか」
ロサの顔がスンッと無表情になり、右手はベルトに差した剣鉈のあたりをさまよっている。
石動はため息をついて、ニヤニヤしながら近づいてきた金髪男とロサの間に立ちふさがった。
「悪いな、彼女は私の連れなんだ。もう帰るところだから失礼するよ」
「あ~ん? お前のなんだって? 帰るんならお前ひとりで帰れよ」
石動の視界の隅で、ロサがゆっくりと首を振っているのが見えた。機嫌の悪いオーラが立ち昇っている。石動は自分が逆に冷静になっていくのを感じていた。
「彼女も帰ると言っている。悪いが道を開けてくれ」
「ごちゃごちゃウルセェんだよ! 黙って女を渡せ! それとも痛い目に会いたいのか!」
金髪が石動の胸倉を右手で掴み上げてきた。
「はい、アウト~。先に手を出したから正当防衛成立ね」
石動は胸倉を掴んでいる金髪男の右手を自分の左手で軽く抑えると、右足を踏み出しながら右手に体重を載せて金髪男の右手のひじ関節に手刀を落とす。
ガクッと体勢が崩れた金髪男の右手を左手で抑えたまま、左足を引いて右足を軸に身体を回し円運動を使って投げ飛ばすと、体勢を崩された金髪男は訳も分からず振り回され、石動達のテーブルの後ろにあった石造りの暖炉の角に顔から激突すると、ズルズルと床に崩れて動かなくなった。
「野郎!」
ガタッと音がして他の二人が後ろから向かってきたのを感じた石動が振り返ると、スキンヘッドの大男が大振りの右ストレートを繰り出してきた。
一歩前に出てスッと相手の懐に入った石動は一本背負いの要領で、相手の力を利用し右手と襟を掴んで腰を使って投げ飛ばす。
キレイに宙を舞った大男は、受け身も知らないのか頭と背中から石動達が居たテーブルに落ちると、テーブルの足がその勢いでへし折れてそのまま床に激突し、仰向けに倒れたまま大男はピクリともしなかった。
「はい、あと一人だけどどうする? まだやる?」
石動が向き直るとひょろ長い手足を持つ長身の男が、ハッと我に返ったように廻し蹴りを放つ。
これも前に出て相手の懐ろに入った石動が、それにより勢いを殺した廻し蹴りを左手で捌いた瞬間に長身男の軸足を掬うように蹴り飛ばす。
スパっと宙に浮いた長身男は腰と背中から板張りの床がドーンッと響く程の勢いで床に叩きつけられ、その勢いで後頭部も強打したのか、呻きながらも立ち上がろうとするも果たせないようだ。
石動は腹ばいになって起き上がろうとする長身男に近づき、男の腰の上の腎臓付近を踏むように蹴り抜くと男は動かなくなった。
時間にして一分足らずの出来事だった。
あまりに鮮やかな瞬殺劇に呆然としていた周りの客たちも、ロサが石動の肩を叩いて「お疲れ様」と言うと、一斉に我に返り拍手と指笛の嵐が巻き起こる。
目立ってしまった石動は少し照れながら、猫耳娘を手招きするとマジックバッグから金貨を一枚取り出して渡す。
「テーブルや椅子を壊してしまって申し訳ない。弁償はこれで足りるかな?」
「いえいえ! こんなに貰う訳にはいきません! 悪いのはアイツらだし!」
「そう言わず、受け取ってほしい」
石動が男達を見ると、男の店員や冒険者らしい客たちが協力して、三人組を縄で縛り始めていた。
「あとは衛兵への連絡とか任せてもいいかな。私たちは海鳥亭に泊っているから、必要ならそう衛兵に伝えてほしい」
「分かりました。任せてください。お客さんには迷惑かけさせませんから!」
猫耳娘は金貨を握りしめながら、フンスッと胸を張った。
そばに寄ってきたロサが微笑んで石動に言う。
「では、帰りましょうか。私のヒーローさん」
店の外に出ると、大きな満月が夜空に浮かんでいた。
既に道の両側に並んでにぎやかだった店も閉まっていて、サガラド河から吹く川風だろうか、静かになった通りを涼しい風が通り抜けている。酒を飲んで火照った顔と身体に気持ち良い。
石畳で舗装された道は歩きやすく、街灯の灯りで夜でも明るいので、宿までの道に迷うことはなかった。
ロサは非常に上機嫌で鼻歌を歌いながら、石動の腕を組むというより腕に纏わりつく感じで隣を歩いている。石動は歩きにくくて仕方ないが、振りほどくような無粋な真似は流石にしない。
それよりも石動には気になっていることがあった。
いつの間にかフードから這い出て、石動の肩に座っている栗鼠姿のラタトスクにそっと頭の中で話し掛けてみる。そう言えば、乱闘時にもコイツはフードの中にいたのだろうか?
「(なあ、ラタちゃん。自分って強くなってないか? 体術は自衛隊時代から得意だったけど、アクィラさんや神殿騎士団の人たちと訓練していた時はもっと苦戦していたような気がするんだが?)」
『神殿騎士団と冒険者を一緒にするのはどうかと思うけど、そりゃ強くなっていると思うよ。だってスキルのランクが上がってるからね』
「(ランクが上がった?! なんで?!)」
『はぁ~、ツトムはサラマンダーを何匹倒してると思ってるの? 100匹近くは倒したでしょ? その上にキングサラマンダーの討伐に関与しているんだよ。経験値がとんでもない量入ったからに決まってるでしょ』
「(へぇー、そうなんだ。因みに今どうなってるか教えてくれない?)」
『そうだなー、目立って上がったのは【暗殺者】と【銃使い】だね。
・錬金術師 1/99 → 11/99
・鍛冶師 5/99 → 15/99
・鑑定 1/99 → 10/99
・暗殺者 8/99 → 32/99
・銃使い 10/99 → 30/99
・狩人 6/10 → 8/10
・兵士 6/10 → 8/10
【暗殺者】が【銃使い】よりも上がったのは、グラナート将軍狙撃がキングサラマンダーの経験値にプラスされたからだろうね。30超えたらどうなるのか、どんなステージに進むのか私も興味深いと思っていたけど、図らずも今日、その片鱗を見ることが出来たわけだね』
石動はラタトスクの"次のステージ"と言う言葉に心が弾んだ。
鍛冶と錬金術のレベルはまだまだだが、銃使いが次のステージに進んだのなら、シャープスライフルより高性能な銃器を開発出来るようになるかも、と希望が湧いたからだ。
「へへへ、そうか、そうなんだ。楽しみだなぁ」
「えっ、ツトム、何か言った?」
『うわっ、気持ち悪っ』
思わず声に出してしまった石動に、ロサが思わず聞き返す。
ラタトスクは器用に顔を顰めて呟くと、フードの中に戻っていく。
月明かりに照らされた舗道に、2人と一匹(?)の影が長く伸び、歩く度にフラフラと楽しそうに揺れていた。
お読みいただきありがとうございました。
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