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吊り橋

お待たせしました、第二章の始まりです。


計画では第二章を書き上げてから毎日投下する予定でしたが、一時入院したりして予定が狂ってしまいました。

このままでは中々書き溜められないので、不定期ではありますが、週に1~2回程度投稿するようにしたいと考えています。

大変申し訳ございませんが、ゆっくりペースでお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

 エルフの郷から世界樹の森を東に進むと、ミルガルズ山脈に源流を発する大河であるサガラド河が見えてくる。


 その川幅は大きく、下流域の最も広いところでは5キロメートルにもなるが、やや上流域に近い森の近くを流れる場所でも1~2キロメートルはあるだろう。


 水量も多く流れも急であるため、とても泳いで渡れるようなものではなく、大河を渡るには船で渡るか、ブエンテラ領主国もしくはウィンドベルク王国が掛けた橋を渡るしかない。


 ブエンテラ領主国とは、ウィンドベルク王国よりやや上流の、エルフの郷がある森に入った場所に掛かっている橋を渡れば入国できる、サガラド河の対岸にある小国だ。


 文字通り先祖代々の土地の領主が収めており、有料である橋の収入が国の主な財源だ。


 その有料の橋は、既に失われた太古の文明が持っていたロストテクノロジーで造られたという、数千年前からある石と金属からなる全長2キロメートルの巨大な吊り橋だ。


 河の中に支柱を建てることなく、両岸にある巨大な主塔から渡された吊り橋は、過去何度もあった大河の氾濫や増水にもビクともせず、壊れる気配が全く無い。


 橋の横幅も馬車が擦れ違える程広く、滑らかだが滑り止めが施された石の路面は撓んだり揺れる事も無いという優れモノだ。


 ちなみにウィンドベルク王国にかかるフォルコメン橋は河口近くにあり、河に点在する中州を繋ぐように掛かっている石橋で、一つ一つの橋の長さはそれほどでもないが、総全長は5キロメートルに及ぶ。


 こちらの橋は無料だが、中流域より上流に拠点を構える者や大陸東側の国々を目指す者にとっては非常に遠回りになるので、そちらを目指すなら有料でもブエンテラの橋を渡るか渡し船を使うことを選ぶことになる。


 しかも如才ないことにブエンテラ領主国は、橋の近くに前世界で言うヨットハーバーの様な施設も完備していて、そこには旨い料理屋を始め武器屋から酒場まで揃っており、船で河を渡る者もそこに立ち寄りたくなるよう仕向けられている。


 ブエンテラ領主は相当、やり手に違いないと石動は思った。


 勿論、船を持たない石動達は橋を渡る事に決めていて、森を抜けた先にある橋の袂まで来ていた。


「凄いな、この橋。めちゃくちゃデカい! ちょっと感動するわ」


「フフッ、初めて見たらそうなるわよね」


 石動は吊り橋のケーブルを支える巨大な主塔を見上げ、口を開けてポカンとしてしまう。


 ロサはそんな石動を見て微笑んでいた。


 石動は子供の頃に初めて瀬戸大橋を渡った時に感じた巨大建造物への素直な畏敬心というか、こんなデカい物を作っちゃう人間ってスゴい! という誇らしい気持ちというか、そんな気持ちを持った事を思い出していた。


 もっともこの橋は誰が作ったかすら伝説の中であり、誰にも分からないのだが。


 それでも全長2キロと言えば、香川県坂出市から伸びる南備讃瀬戸大橋の全長が1723メートルだからそれより長く、前世界最長の吊り橋である明石海峡大橋が3911メートルなのでそれより短いだけというとんでもない大きさだ。


 荷馬車は船では運べ無いため、まるでトラックの様に列を成しガラガラと音を立てながら続々と橋を渡って行く。この橋は流通の重要な拠点にもなっているのだなと否応なしに感じさせられる光景だ。


 そんな中、たくさんの荷馬車の通る横の歩道を、石動はロサと並んでのんびり歩いて渡った。


 川面を渡る風が、石動とロサの頬を撫でる様に吹いていて気持ち良い。


 横を通る荷馬車の立てた埃も風が吹き飛ばしてくれた。


「スゴイな、石もケーブルも全く風化したり錆びたりしていない。どんな素材で出来ているんだろう?」


「昔、魔大陸からドラゴンが飛んできたことがあって、この橋の上で暴れたけどキズ一つ付かなかったって言う伝説があるわ。なんでも、時間が止まった素材で出来てる、って聞いたことがあるかも」


「(えーっ、何処かで読んだり聞いたりした事のあるような・・・・・・。ガチのオーパーツじゃん、それ・・・・・・)」


 石動とロサは気持ち良い川風に吹かれながら他愛のない会話をし、橋の欄干越しに見える雄大な景色を楽しみながらゆっくり歩いたため、橋を渡るのに30分程かかってしまった。


 ようやく到着した対岸の主塔の下には、関所の様な門や建物があり、警備の兵士が立っていた。


 荷馬車は定期便なのか、札を掲げて兵士に示し、ガラガラと通って行く者が多い。


 石動のマントのフードの中で寛ぐ栗鼠姿のラタトスクに尋ねると、大手の流通業者や商人は領主と契約して札を発行してもらい、通過した回数に応じて後で纏めて通行料を支払うのだそうだ。


 歩いて渡ってきた者は門の横にある事務所の様な建物を通って料金を支払う様で、既に何人か行列が出来ていた。


「ロサは前にもこの橋を渡ったことはあるの?」


「うん、去年も通ったかな。ブエンテラ領主国の北にサントアリオスというダークエルフの国があって、そこに友達がいるんだ」




 サガラド河を越え、大陸の東の端にあるエレリヒオン共和国に至るまでのこの辺りは、七つの小国が犇めいていて、それぞれ土豪とも言える地場勢力が競い合っている。


 以前はもっと多くの小国が乱立していたのだが、何度も争いを重ね、新たに国が興っては滅んだ結果、現在の七か国で奇妙なバランスが保たれている状態だ。


 関所への行列が進み、順番が近づいてくると、石動はあることに気付く。


「ロサ、そう言えば自分、身分証明書みたいなものを何も持っていないけど、入国できるのかな」


 小声だが勢い込んで尋ねてくる石動の勢いに押されながら、ロサは苦笑いする。


「大丈夫。ここでは橋の料金を払うだけで通れるから心配いらないよ」


「そっか、良かった。ちなみに料金って幾ら?」


「銀貨二枚だったと思う」


「ふ~ん・・・・・・」





 その昔「渡り人」が齎した貨幣制度は順調にこの世界で発展し、今では各国共通の通貨単位として流通しているらしい。


 石動はエルフの郷で流通していた貨幣しか知らないが、大体、銅貨が前世界の百円、大銅貨が五百円、銀貨が千円で大銀貨が五千円、金貨が一万円で大金貨が十万円の価値があると思えば間違いないようだ。大金貨の上には白金貨という百万円の価値があるものもあるが、市中には余り流通していない。


 橋の通行料金が銀貨二枚というのは前世界の価値で換算すると二千円程なので、それほど高くないように感じるかも知れないが、この世界の物価は安く一般的な成人は月に金貨二枚あれば生活できると聞くので、やはり高いのだろう。


 今の石動は素材を売った代金に加え、ラタトスクから貰った狙撃の報酬があるので、懐は非常に暖かい。


 白金貨ですら何枚か持っているほどなので、取り敢えず財布代わりの巾着袋に何枚かの銀貨と銅貨を入れて懐に入れ、その他の金貨等はマジックバッグの中に大事にしまってある。


 そのうち行列が進んで石動達の番になり、愛想の良い料金所のお姉さんに2人分の銀貨4枚を支払ってゲートを通った。


 ゲートを抜けるとそこには商魂逞しい国らしく、道の両側に土産物屋や食堂、カフェに酒場、洋服店から武具屋まで、ありとあらゆる店が通行客の財布の紐を緩めようと建ち並んでいる。


 荷馬車のゲートは別の様でこちらの道は通行客でごった返しており、威勢よく客を呼び込む商人の声や屋台の暴力的なまでに香ばしい炭火で焼かれた肉とタレの香りなどが混じり合い、賑やかな喧騒が石動達を包んでいく。


 もう午後をいくらか過ぎており、雰囲気に気分が高揚した石動達も昼食を摂り損ねていたため空腹と誘惑に負けて、主に食べ物の屋台を冷やかしながら目に付いたものを買っていくことにした。




 鶏もも肉を甘辛いタレで焼いた山賊焼きの様なものは、見つけた途端に我慢できず買ってしまう。次いでかなり大きめの牛肉と思われる肉が3枚も串に刺さった串焼きと、天然酵母と思われるズッシリした丸パンに野菜と目玉焼きを挟んだサンドウィッチをそれぞれ買い込んだ。


 ロサも牛串焼きとサンドウィッチを買う。


 飲み物は店頭で巨大なオレンジを絞り器で絞っていた果汁100パーセントのジュースにする。


 ジュース屋の前に幾つかベンチが設えてあり、そこで木のコップに入ったジュースを飲んだらコップを返却するシステムだ。


 ベンチには他の客が同様に屋台で買ったものを座って食べながらジュースを飲んでおり、石動達も見習って屋台の女主人に断ってから座り、そこで食べることにした。




 石動はまず鳥のもも肉に齧り付く。


 山賊焼きの様な見た目だったが、前世のように醬油ベースの味ではなくブラックベリーのソースに香辛料を利かせた物をつけて焼いてあり、爽やかな酸味とピリ辛のソースがジューシーな鶏肉にマッチして非常に美味い。一口噛むごとに肉汁が口の中に溢れ、ソースに加えパリパリとした鳥の表面に仄かに香る炭火の香りが食欲を刺激する。


 前世界の鶏もも肉の2倍くらいある大きさだったが、石動はペロリと平らげてしまった。


 隣でロサが、サンドウィッチに串焼きの牛肉を一緒に挟んで美味しそうに食べていたので、石動も真似することにする。


 サンドウィッチは手のひらサイズの丸いパンを横から切れ目を入れ、そこにレタスの様な葉物野菜と卵の目玉焼きが挟んでいるという、それだけでも結構なボリューム感があるものだったが、そこに厚さ1センチはあるミディアムステーキを一口サイズに切ったような串焼きの牛肉を加えると、豪華なハンバーガーの様な見た目になった。


 目一杯大きな口を開け一口齧り付くと、塩胡椒の効いた牛肉が思ったより柔らかくジューシーで、簡単に噛み切れるのに肉汁が迸る。それを半熟の目玉焼きから出た黄身がまろやかにし、レタスの様な野菜にかかったドレッシングの酸味と絡み合う。



「ああ、美味い! 口の中が幸せだ・・・・・・」


「・・・・・・!」


 ロサは頬張り過ぎて頬が栗鼠かハムスターのように膨らんでいて、返事が出来ないようだ。でも石動の方を見て激しく同意するとばかり、コクコクと頷く。


 暫くは二人とも無言でサンドウィッチを食べ進み、食べ終わってオレンジジュースを飲むころになってようやく落ち着いてきた。


「この国は食べ物が美味しいな。いや、別にエルフの郷が美味しくないってわけじゃないんだが・・・・・・」


「ここは流通の拠点でもあるから、大陸中の美味しい物や珍しい物が集まってくるからじゃない?」


 なんとなく石動は楽しくなってきたので、ロサに提案してみる。


「よし、じゃあもう午後も遅いし、今日は宿を探して落ち着いてから街を探検してみるか?」


「うんっ、決まりね!」


 二人はベンチから立ち上がり、ジュースの入っていた空コップを屋台に返すと、楽しげにどんな宿にするか相談しながら歩き出した。


お読みいただきありがとうございました。

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