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状況終了

私の住んでいる中国地方も台風の影響で昨夜から風が凄くて、余りにバタバタと風の音が五月蠅いので明け方に目が覚めてしまいました。

窓の外を見ると、外に止めてあったバイクのカバーが風で捲れた上にズタズタに裂けている!

あの丈夫なメーカー純正のカバーが裂けるなんて・・・・・・。

ショックです、油断していました。


九州では河川の氾濫など、水害が発生しているところもあるように報道で見ました。

幾分、勢力は衰えてきているようですが、警戒は怠らないようにしたいですね。

 エルフの郷に戻ってからも、石動は追加の金属薬莢弾を作製したり、ラタトスクやアクィラらと打ち合わせをしたりで忙しかった。


 模擬弾も造ってアクィラに渡し、実弾での練習が出来ない時でも模擬弾を装填して空撃ちすることでイメージトレーニングするように指示していた。


「キングキラーともなるとオレに指示出来るわけか。偉くなったもんだな」


 アクィラが悪戯っぽく笑いながら背中を叩いてくるので、石動はフンッと鼻で笑い返してやる。


「剣では敵いませんけど、銃にかけては自分が上ですからね。悔しかったら師を超えて見せなさい」

「言ったなコイツ」




 決行予定日の3日前に王国軍が王都を出て、ヴァイン大平原に行軍を開始したとの情報が届く。

 王国軍が着く前にヴァイン大平原に入るべくエルフの郷を出て、石動とアクィラに従者のウルススは予定通りヴァイン大平原を見渡せる崖の上の草原に潜入する。


 草原と一言で言っても全く平らなわけではなく、低い丘や窪み、岩が露出している場所や背の低い灌木が生い茂っている場所など隠れる場所はいくらもあることは事前の予行演習の際に判明していた。


 そこで石動はさらに万全を期すため、細かい網に草原の植生に似た色の布を縫い付け、全身を覆うモコモコのフードの様なギリースーツを自作し、自分だけではなく同行の2人にも渡していた。

 ギリースーツに実際の草原の草も差し加えることで、偽装を完璧にした3人は少し離れると何処に隠れているのか全く分からなくなる。

  

 まもなく王国軍がヴァイン大平原に到着し、それぞれに陣を張り始めるのが眼下に見えた。

 

 石動達は偽装をしたまま地面にマットを敷き、腹ばいの状態でジッと動かずにいた。

 もう既に何時間、動かずにいるのか分からない。身体や顔を虫が這っても払う動きすら厳禁だ。

 スナイパーの仕事は待つこと、と言うのはアクィラら2人に懇々としつこい位説明してあったので、2人も動かないで我慢しているようだ。


 銃は何時でも撃てる姿勢で背嚢の上にセットしてある。

 従者のウルススには観測手(スポッター)としての役割を割り振り、前世界から持ち込んだツァイスの双眼鏡とブッシュネルのレーザー距離計やKestrelの風速計を渡してあった。

 

 石動らが潜む崖の下に王国軍が陣を張り、宿営のテント等が張り巡らされ、兵士達が忙しそうに動き回っているのが見える。

 軍旗の紋章は王国軍第三軍グラナート将軍のものだ。


 石動はそれを見て、自分たちが潜む場所が絶好の狙撃位置であることに驚いたが、やっぱりと言う気持ちも強かった。

 何故なら石動達が潜むこの場所は、ラタトスクに指定された場所だったからだ。


 更に言えば、先日事前に3日かけてデータを取ったり南瓜を標的に見立てて試射したのもこの場所だ。


 それもラタトスクにこの場所で試す様に指定されたからだ。


 思い返せば、アクィラと共にラタトスクに呼び出されたのは、事前調査で初めてヴァイン大平原に行く前夜だった。


『ツトム、アクィラから話は聞いたかい? 聞いたよね。私にケンカを売った馬鹿共に鉄槌を振り下ろす話さ。今回は私も頭に来ていてね。よっぽど大河を溢れさせて王国ごと洗い流してやろうか、とも思ったけど、流石に罪のない者まで巻き添えにするのは寝覚めが悪い。そこで、今回は君達に託す事にした。私は直接、手を出さないことに決めたんだ』


 ラタトスクの何も無い不思議な空間の様な部屋で、椅子に座り足を組んで、肘掛けに頬杖をついたラタトスクは不機嫌そうに言った。


『一か月後にヴァイン大平原で王国軍の大規模な演習があるんだ。そこでツトムがグラナート将軍に鉄槌を下して欲しい。出来れば、その時にアクィラにも復讐のチャンスを与えてくれると尚嬉しいけど』

「分かった。自分らが狙撃すれば良いんだね。喜んでやらせてもらうよ。自分も腹が立っているのは皆と同じなんだ」


 そこからはラタトスクがヴァイン大平原の地図を出してきて、ある場所に印を付け、予行演習を行うならこの場所で行うように指定してきたのだ。

 その時はそれほど深く考えず、ラタトスクの言葉にうなずいて細かい打ち合わせを行った後、翌日にはアクィラらとヴァイン大平原に赴き、指定された場所で試射まで済ませてきた。


 しかし、実際に実行するにあたり、この広いヴァイン大平原の中で標的のグラナート将軍の第三軍が、まさにラタトスクが指定した場所の眼下に陣を張るのを見て、石動は様々な疑問が湧いてくるのを抑えきれない。


「(ラタトスクはどうして此処に標的のグラナート将軍が陣を張ることを知っていたんだろう? ラタちゃんのスキルである"アカシック・レコード"の力なのだろうか? それって未来予知が可能ということなのだろうか・・・・・・? だとしたら何故、キングサラマンダーの襲撃を予測できなかったんだろう・・・・・・。いや、予測したうえで放置していたのか? そう考えればキングサラマンダーが郷を襲う前やブレスを撃つ前に魔法で倒すことも可能だったのにしなかったのに筋が通る。何故そうしなかったのだろう? そうしなかった結果、郷の被害は拡大したし、誰にもメリットはないはずなのに・・・・・・)」


 そこまで考えて石動はゾッと背筋が寒くなる。


「(いや、1人だけメリットを得た者がいるじゃないか! 自分だ! ライフルで戦い、その威力を皆に見せつけ、英雄に祭り上げられた!  ひょっとして今回もこの狙撃を計画したのには・・・・・・)」


 草原の草木に偽装して、じっと動かずに待機している石動の頭の中はグルグルと疑問が渦巻いていたが、その時ツァイスの双眼鏡で監視していたウルススが呟いた。


「動きがあります。兵たちが閲兵台の前に整列しました。将軍が出てくると思われます」


 石動はサッと頭を狙撃モードへと切り替えた。

 ゆっくりとした動きでブリーチを解放していたシャープスライフルの薬室に50‐130金属薬莢弾を装填すると、そっとレバーを戻してブリーチを閉鎖する。

 薬指と小指の間に予備の弾丸を挟んでおく。

 

「距離623メートル。風向き西南西、風速10.2メートル・・・・・・」


 ウルススが小声でレーザー距離計や風速計の計測データを読み上げている。

 石動はそれを聞きながら、銃床(ストック)の横に張り付けた試射の際に取ったデータを見てタング・サイトを調節する。


 隣でアクィラが自分と同じ動きをしているのを感じていた。そしてアクィラが石動より早くサイトを覗き込み狙撃体勢を整えた。


 石動もサイトから狙いをつける。銃は砂を詰めた袋の上に置いて、安定するようにはしてあるが、なにせ肉眼での600メートル超えの狙撃だ。豆粒の様な狙撃対象は少しのブレでピープサイトから外れてしまう。

 

「狐が台に登りました」


 ウルススが双眼鏡を覗きながら呟くように報告する。

 石動はこれ以上ないほど眼を凝らしていて、眼球の表面を流れる涙の筋が見える程だ。


「狐の演説が始まりました」

「俺からヤる」


 ウルススの呟きに続いてアクィラが落ち着いた声で囁いた。


 ドバァンッ!


 大量の発射煙と共に放たれたアクィラの銃弾は僅かに外れ、隣に立っていた将校の頭を吹き飛ばした。


「外しました! 左30センチ!」

「了解。自分が仕留める」


 ウルススの焦って大きくなった声に、石動は静かに囁く。

  

 ドバァンッ!


「命中! 狐の頭が吹っ飛びました!」


 ウルススが今度は喜びの声を上げる中、石動は素早くシャープスライフルのレバーを操作し、薬室の撃ち終わった薬莢を排夾すると、指に挟んでいた弾丸を装填しブリーチを閉じる。


「すまない、ツトム。風を読み違えて思ったより流されたようだ」

「大丈夫ですよ。問題ないです。それより追撃が無いか警戒をしてください」


 アクィラの呻くような謝罪の言葉に、石動は気にしていない様子で返すと、まだ任務は終わっていないと伝える。


「第三軍の現場は混乱しているようです。何人かの壇上の将校がこちらを指さしています。あっ、弓を持った騎士が数名、騎馬でこちらに向かってきました」 


 双眼鏡で観察していたウルススの報告に石動は頷き、2人を見てニコッと微笑んで声を潜めながら答えた。


「よし、では状況終了。これより速やかに撤退します」


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