準備
台風14号が心配ですね。
私の住む地域が影響を受けるのは明日の様ですが、本日暴風の中でお読みいただいている方もいらっしゃるのでは? と思います。
なにぶん、台風慣れした九州の方でも(私も転勤族でしたので九州は殆ど回りましたし、素早い避難誘導や相互扶助の精神は他に無いものだと感心していました)経験が無いような巨大な台風の様ですから、私ごときが云う事ではないかもしれませんが、十分警戒し早めの避難等、命を守る行動を心掛けくださいますようお願いします。
石動はアクィラの計画を聞いた後、まずシャープスライフルをもう一丁作成すべくアクィラと親方の鍛冶場に籠った。
長距離射撃に対応すべく、まず銃身を今使っているライフルより長い30インチから36インチに伸ばすことにし、作成に取り掛かった。
更に弾道が安定するように少し肉厚のヘビーバレルにしたかったので、正面から見ると銃身の断面が八角形に見えるオクタゴンバレルにする。
銃身を造るのも、もう慣れたものでサクサク作業は進み、ライフリングもキレイに彫り終えることが出来た。
見よう見まねで親方も同じようにもう一本同様な銃身を造り上げる。
続いて機関部の作成だが、今回は引き金をオリジナルのシャープスライフルにも装備されていたセットトリガーにする。
これは「ダブルセットトリガー」と呼ばれるもので、引き金が前後に2本並んでいる。
通常の撃発は前のフロントトリガーで行い、引き金を引く力はやや重めにして誤射を防止していているのが普通だ。
後ろのリアトリガーは、引くとフロントトリガーが非常に軽い力で撃発できるようになる安全装置解除機能として作用するもので、これを調節することにより自分の好みの軽さと引き味で引き金を引くことが可能となり、長距離射撃でのストレスが大いに軽減される。
シャープスライフルのダブルセットトリガーの構造は割と単純だが効果的なもので、それほど苦労せずに組み上げることが出来た。
石動は自分の鍛冶スキルが上がっていることを実感する。
この機関部は細かいパーツやバネの作り方を親方に教えるには時間が足りないので、石動がもう一つ作り上げた。
そしてサイトは銃身の先に左右調整可能のフロントサイトを組み込み、フロントサイトを何かにぶつけても狂わないようにトンネル状のカバーを付ける。
リアサイトは銃身上にも簡易型のリアサイトも付けるが、メインとしてレシーバー後ろの銃床握り部分に折り畳み式のタング・リアサイトも装着した。
これは上下左右の調整可能な精密射撃用のピープサイトで、これにより今まで以上に精密な射撃が可能となる。
最大射程は1000メートルまで目盛を刻んであるが、実際構えてみると標的というより空を撃つのでは、というくらい銃口が上がる。それだけ黒色火薬で発射された低速で大口径の弾丸は山なりの軌道を経て標的に当たるということだ。
機関部の仕上げは前回同様にケースハードーン仕上げで行い、機関部に銃身や銃床などを取り付け、作り始めて2日で完成させた。
同様にして、親方やアクィラの協力のもと、もう一丁のシャープスライフルも組み上げ、仕上げる。
こうして二丁の銃が出来た。
そして今回の長距離射撃では、ついに銃弾を安定して使用できる金属薬莢にするべく挑戦する。
そのため石動は錬金術スキルを上げるために師匠の研究室に籠った。
まず銅と亜鉛を合金して「調合」し真鍮を「組成」する。
そして長い筒状の50‐130弾の薬莢を「錬成」した。
真鍮を「組成」するまでは割と順調だったが、薬莢を「錬成」するのは苦戦した。
長過ぎたり太過ぎたり、薬莢の側面が分厚過ぎたり薄かったりと、安定して「錬成」するまでにはかなりの失敗作と時間を積み上げねばならなかった。
しかし、計画の日が近づいている為に昼夜を問わず「錬成」し続けると、1週間ほどでレベルが上がり安定して「錬成」することが出来るようになった。
次は今まで最大の難関だった「雷管」である。
これは前世界の物をそのまま再現するのは現時点ではあきらめているので、銅のキャップの中に薄く加工し「組成」した火の魔石を入れることで発火させることにする。
幸か不幸か、先日のサラマンダーの襲撃で死亡したサラマンダーから採った魔石を山ほどラタトスクから貰っているので、火の魔石には困らない。
因みにキングサラマンダーの巨大な魔石も要らないと言って断ったのに、ラタトスクに押し付けられたので、マジックバッグの中に仕舞ってある。
銅製の小さなキャップの中に、ボクサー型雷管をイメージして中央が盛り上がるような山形に魔石を「組成」し、その山に衝撃を受けると爆轟するよう「錬成」して蓋をする。
この作業も最初は失敗して素材を無駄にしたが、薬莢を錬成するうちに錬金術スキルが上がったせいか、以前出来なかったのがウソのように捗り、こちらも5日程で完成させることが出来た。
作り置いた真鍮製の薬莢に出来上がった雷管を嵌め込み、黒色火薬を秤で正確に計測して薬莢の中に注ぎ込んで手製のプレス機で弾頭を挿入する。
この作業を繰り返し、100発の50‐130弾の金属薬莢弾を完成させた。
石動の横で、師匠が石動の作業を見て薬莢や火の魔石を使った雷管を「組成」「錬成」し、もう100発の銃弾を造る。
石動のように失敗はほとんどなく、アッサリ作って見せたが、師匠は顰め面で呻く。
「ふぅーん、錬成作業はそんなに難しくないけど、こりゃツトムは火の魔石をたくさん持ってるから良いが、そうでない者が普通に造ったら一発が非常に高いものにつくねぇ」
「(いや、自分は作業もめっちゃ苦労したんですけど! )そのとおりなんです。本来は安く買えるはずのものなんですけどね・・・・・・。何とか原価を下げられるように魔石を使わずに再現したいなぁ~」
石動も師匠に同意し、コストの問題は今後解決すべきポイントだと認める。
ここまでで2週間。
計画実行日まではあと16日。
1日を完全休養の日として寝て過ごした石動は、次の日に神殿騎士団の射場で100メートルと300メートルでの照準合わせを済ませた。
同時にアクィラには、まず射撃に慣れてもらうために以前造った紙薬莢仕様のシャープスライフルで練習してもらう。
さすがは弓矢が得意なエルフと言うべきか、長距離射撃にもすぐに慣れ、標的の黒丸に命中弾がまとまるようになったところで、新しく作ったもう一丁の金属薬莢仕様のシャープスライフルの照準合わせをアクィラに教えながらやらせてみる。
金属薬莢の弾は貴重なので無駄には出来ないと思っていたが、アクィラの成長は目覚ましく、思ったよりも少ない弾の消費で照準合わせをやり遂げた。
そして今日はエルフの郷を出て、アクィラと従者兼護衛のウルススと一緒に、森を横切って外れをすぎ、そこから腰まである草が続く草原を抜けた先にあるヴァイン大平原まで来ていた。
左足に障害が残るアクィラだったが、それでもエルフだけあって流石に足は速く、石動の方が付いていくのにやっとだったが、ヴァイン大平原に着いた頃には日も陰っていた。
慎重に周辺を偵察し、まだ王国軍の姿が無いことを確認してから草原で野営をすることにした。
翌日朝から3日かけて試射とデータ取得に勤める。
朝、昼、晩の気温の変化や風向き、風力など射撃に影響を与える要素を確認し、ノートに記録しておく。そして実際に500メートルや1000メートルでの射撃を行い、タング・リアサイトでの修正値を記録する。
実際、荒れ地から想像はしていたが、雨はほとんど降らず、日中は日光が容赦なく降り注いで暑い。
そのため昼間は遠距離射撃を続けていると熱せられた銃身から陽炎がのぼり、照準の邪魔をする。
ただ空気は乾燥しているので日陰に入れば涼しいものの、ほぼ1日中強い風が荒野や岩山の間を吹きぬけているという、長距離射撃にはタフなコンディションだった。
石動とアクィラで様々に検討した結果、安全に隠れて狙撃できるのは崖の上の草原からしかないという結論で合意した。
その代わり、風速10メートル前後の風が吹く中で、最低でも500メートルを超える狙撃になる。
最終日にウルススに600メートル程離れた岩山の間に2メートル程の棒に刺した南瓜を立ててもらい、予行演習してみることにした。
最初は石動も対象を拡大できるレンズ付のスコープではなく、肉眼で見て狙う600メートル先の南瓜など、心臓の鼓動と共に震えるピープサイトから覗いた先ではゴマ粒の様で、到底当てられるものなのだろうか? と自問していたが、20発も撃つほどにコツを掴み最終的には命中弾を送り込めるようになっていた。
アクィラは石動から教えられたスナイピングのコツや理論を砂地が水を吸い込むように吸収し、自分の物にして成長している。
南瓜への狙撃も"引き金を引くのでなく落とす"という感覚を掴むまで苦労したが、エルフだけに驚異的な視力や風や陽炎など自然を読む力は石動より上で、最終的には石動の倍の40発程は使用したものの命中させられるようになっていた。
石動はこのアクィラの上達具合に舌を巻く。
「(驚いたな。もう既にスナイパーとして自衛隊でもやっていける。エルフが皆、銃を持ったらどんな無敵の軍隊が誕生するのだろうか・・・・・・)」
少し背筋に寒いものを覚えた石動だったが、首を振って思い直し、得意げなアクィラを揶揄いながらウルススとも協力して痕跡を残さないよう片付け、ヴァイン大平原を後にしたのだった。
お読みいただきありがとうございました。
良ければ評価とブックマークをお願いします。
作者の書き続けるための活力になります。
感想でご指摘を頂き、オクタゴンバレルの箇所で「六角形」とあるのを「八角形」
に修正いたしました。
我ながら、なぜ六角形と書いたのか・・・・・・。ヘキサゴンじゃん。
こんな恥ずかしいミスが作者の脳みその程度を示しています。
笑って許してやってください(半泣)