キングサラマンダー2
気が付くと、いつの間にかブクマやいいね、評価等で応援して頂いた方が増えていました。
本当にありがとうございます。
第一章も佳境に差し掛かって参りましたので、更新頑張ります。
「GARRRRRRRRUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!!」
シャープスライフルの50口径弾のように巨弾の破壊力で頭を吹き飛ばす事は出来なかったが、308ウインチェスター弾は優れた貫通力を発揮して全弾キングサラマンダーの頭部を貫いた。
キングサラマンダーは苦し紛れに短くブレスを辺りかまわず吐き散らしながら、地面をのたうつ。 左眼は銃弾が当たったため潰れて見えていないようだ。
その苦し紛れのブレスは大半が空の彼方に消えたが、幾つかは街中や神殿にも着弾した。
ブレスの進んだ方向にあった家や商店は一瞬にして燃え上がり、灰になる。その周辺は余りの高温から出火し、炎が上がった。
そんな状況がキングサラマンダーを中心にいくつも伸びて、町中が火の海になりそうな勢いだ。
神殿横の神殿騎士団宿舎にもブレスが着弾し、その周辺施設と共に燃え上がる。
またもう一発のブレスは石動を狙ったのが上に逸れたのか、神殿より上の世界樹の幹部分に着弾し、幹を貫通した。
次いで貫通した穴からは、まるでジェットストーブのように炎が勢いよく噴き出し、その周辺も幹も燃え始める。
石動はテラス部分から上を見上げ、世界樹が猛烈な勢いで炎を上げているのを見て唖然とした。
まさか世界樹が燃えるとは・・・・・・世界樹も木材であるいう当たり前の考えが全く無かった自分に気が付いたのだ。世界樹は特別なんだから大丈夫、となんとなく思っていた。
「(自分のせいだ・・・・・・? ラタトスクになんて言えば・・・・・・)」
石動はジワリと胸に広がる自責の念を抑えられず、レミントンを抱えたまま動けない。
『ツトム、よく頑張ってくれたな、礼を言うよ。遅くなって済まなかった。後は任せてくれ』
突然、石動から2メートル程離れた空中にラタトスクが現れ、宙に浮いたまま優しく話しかけてきた。
ラタトスクの眼は怒りに燃えていたが、口調は平穏だった。
『ツトムが責任を感じることはない。初動の対処が遅れたのは私のせいだし、全てはこの騒動を企んだ者達が原因だ。私はそいつらを絶対に許しはしないよ』
ラタトスクは石動の眼を見つめて微笑んだ後、キングサラマンダーに向き直り呻くように言った。
『この身の程知らずの愚かなトカゲめ。この森に、そして私に手を出した報いを受けるがいい!』
ラタトスクの身体が光に包まれたかと思うと、両手をキングサラマンダーに向けた。
ドプンッ!!
大きな音と共にキングサラマンダーの身体が巨大な水の塊に包まれ、宙に浮く。
水の塊はキングサラマンダーの高温の鱗に当たっているはずなのに水蒸気になることも無く、高温によって沸騰するような気配もない。
キングサラマンダーは水の中で藻掻くが、完全に水に捕らえられていて脱出は不可能のようだ。
ブレスを吐こうとしたのか、口を開けたが口の奥が蒼く光ったと思うと光が消え、かえって水を飲んだかブクブクと泡を口から吐いて溺れだす。
そのうち、キングサラマンダーの蒼かった鱗にヒビが入り始め、色が蒼から黒っぽく変わってきた。
バタバタと水の塊の中で暴れていたキングサラマンダーの眼や棘の色も、鮮やかな金色だったのが灰色っぽい色に変わり、次第に動きが鈍くなっていく。
水の塊からかなり離れた石動の所にまで水の塊が発する冷気が伝わってくるほどなので、どうやらキングサラマンダーは低温の水の中で急速に冷却されているようだ。
いつのまにか世界樹の火も鎮火され、火を噴きだしていた穴からは水がしたたり落ちている。
暫くすると遂にはキングサラマンダーの身体を覆う鱗がバキバキにひび割れて剥がれ落ちて、キングサラマンダーは水の塊の中でゆっくりと仰向けになり、白い腹を上にして全く動かなくなった。
暴れていたサラマンダー達もキングサラマンダーが動かなくなったのを見ると、途端に動きがバラバラになり、攻め込もうとしていた動きが鈍くなった。森へ逃げ帰ろうとした個体も多かったが、怒りに燃えるエルフ達に捕まり矢の集中砲火を浴びて個別撃破され、朝日が顔を覗かせるころには襲ってきたサラマンダー達は全て殲滅され、死体となった。
こうして世界樹の森とエルフの郷に過大な被害を与えたキングサラマンダーの襲撃は、やっと幕を閉じたのだった。
◆
サラマンダーの襲撃事件から7日後・・・・・・。
今日も住民総出でエルフの郷の復興のため、あちこちで賑やかな掛け声や槌の音が響いていた。
負傷者から重症者まで被害にあったものは神殿に集められ、手当てを受けている。
郷の中は、かなりの家屋や商店などの建物が被害を受けたり焼失したりしているため、その焼け跡の瓦礫撤去から始まり、黒焦げになった死体の埋葬など、やることは山積みだった。
「ツトム! それ持ち上げてくれ!」
「了解! うぉーりゃあー!」
「いいぞっ、気合入れろよ!」
石動も神殿騎士達に交じって土木作業に従事していた。自衛隊時代に災害支援で出動した時のことを思い出す。
焼け焦げた太い柱の様な木材を持ち上げて運び、邪魔にならない場所へ降ろす。
既に煤で全身あちこち黒いが、気にせず汗を首から下げたタオルで拭くと、顔が斑に黒くなった。
「おおーっ、ツトム。男振りが上がっているぞ!」
「流石はキングキラーだなっ! 今度はマダムキラーでも狙ってみたらどうだ? 今なら選り取り見取りだぞ。ガハハハッ」
それを見ていた神殿騎士やエルフ達が笑いながら声を掛けてくる。皆の明るい笑顔が救いだった。
石動も笑顔を返す。
神殿騎士らは石動がサラマンダーらを数多く殺し、最後には皆が絶望する中、独りでキングサラマンダーに立ち向かっていたのを見ている。
最後はラタトスクが仕留めたとはいえ、石動がキングサラマンダーに致命傷を与えたのは間違いないと皆の意見は一致していた。
そのせいか、いつの間にか石動の事を親愛の情と尊敬の念を込めて「キングキラー」と呼ぶようになったのだ。
もちろん、今のように冷やかしのネタにされることの方が多いのだが。
「何っ、レディキラーがロサをどうするって?!」
そして一番、石動をからかってくるのはこの男だ。
背後から声をかけたのは、神殿騎士団の副団長でロサの兄のアクィラである。
石動がその声に振り返ると、ニヤニヤしながらアクィラが立っていた。隣にいる供の騎士の眼が、申し訳ないと石動に訴えている。その横で柳眉を逆立てたロサがアクィラを睨みつけていた。
「お兄ちゃん! いい加減にしないと怒るよ!」
「ハハハ、すまんすまん。ツトム、ロサの差し入れだ。少し休憩しないか?」
皆で被害を受けなかった街路樹の木陰に移動して休憩することになった。
木陰に向かうアクィラは軽く左足を引き摺っている。左腕も肘から先が無い。
パトロール中にキングサラマンダーらの集団に遭遇し、ブレスを受けたアクィラは、太い木の陰に飛び退いたおかげで即死は免れたが、ブレスが近くを通過したため左半身に重篤な火傷を負ってしまう。
気を失って森の中で倒れていたところを、捜索に来た騎士団の手で神殿に運び込まれたが、顔や身体の火傷は神官たちの手厚い回復魔法と治療で治ったものの、炭化して失われた左腕はラタトスクの回復魔法でも戻らず、左足にも障害が残ってしまった。
石動の視線で気が付いたのか、アクィラは肘までしかない左腕を振って見せる。
「キングサラマンダーなんて化け物に襲われて、これくらいで済んで俺は幸運だったよ。俺の小隊はアイツのせいでほとんど全滅だ。部下たちの無念を思うと片腕なんてどうということはない」
「・・・・・・」
「ツトム、お前は俺や部下たちの仇をお前は果たしてくれた。本当に感謝しているんだ。ありがとう」
「いやいやっ! 最後はラタトスクが止めを刺した訳だし。それより自分の銃撃のせいでキングサラマンダーのブレスの被害が町中に広がってしまったから・・・・・・。ラタトスクに任せておけば、もっと被害が少なくて済んだんじゃないかって・・・・・・」
石動は責任を感じて呻くように言い、下を向く。
「何を言ってるの? 誰もそんなことは思っていないわ」
ロサが冷たく冷やした果実水を木のコップに入れて石動に差し出しながら微笑む。
「ツトムが居なかったら、今頃はこの郷は全滅していると思うの。もしかしたら世界樹様だって燃えてなくなっていたかもしれない。世界樹様だって万能ではないのよ。キングサラマンダーが弱っていなかったら世界樹様だって止めを刺せたか疑問だと思うわ」
「そうだぞ、ツトム。俺はその場面を見ていないが、神殿騎士団の団長をはじめ皆がお前の働きを称え、尊敬する行動だったと言っている。謙遜するのもいいが、しすぎると嫌味になりかねんからな」
下を向いていた石動が顔を上げると、アクィラとロサが微笑みながら真直ぐに石動を見つめていた。供の騎士もアクィラの横で笑顔で頷いている。
「・・・・・・こちらこそ、ありがとう」
石動が小声で言うと、アクィラが右手で石動の頭をクシャクシャとかき回した。
それからしばらくは木陰に座り、果実水を飲みながら他愛ない話をした。
ふと気になって、石動はアクィラに尋ねる。
「結局、何だったんですかね? あのキングサラマンダーの子供と言い、サラマンダーの大群も含めて、ラタトスクが"企み"って言ってたけど・・・・・・」
「う~ん、まぁ『キングキラー』には言ってもいいか・・・・・・」
アクィラは少し眉を顰め、ボツボツと話し出した。
アクィラ曰く、災害復旧工事で瓦礫を片付けていると、不審な死骸が幾つか見つかったのだという。
ブレスに巻き込まれたのか、殆ど炭化している者もあったが、人間種であり焼け残った者の服装は黒ずくめで、如何にも怪しげなものだったらしい。
また、サラマンダー達が全滅した日の午前中には、王国から千人を超える軍勢が森に向かっていることを察知された。そのためキングサラマンダーに破られた結界を張り直して警戒していたところ、軍勢は午後には結界の周りに到達し、結界内に入れずウロウロしていたので誰何したところ、王国軍たちはまず神殿騎士団達が出てきたことに驚いたようだったという。
王国軍を率いる将校が言うにはキングサラマンダーの集団がエルフの郷を荒らしていると聞いたので、その矛先が王国に向かうようなら魔物を討伐するべく出陣してきたとのことだった。
キングサラマンダーらは討伐したと答えると、将校は再び大層驚いたようで、しばらく無言だったが、踵を返し軍勢を連れて王国に帰っていったという。
そして、神殿横の倉庫にキングサラマンダーの子供が入った木箱を置いたのは、納品書や該当の木箱周辺の商品から見て王国の商人ハープギルであると判明したが、襲撃があった日の二日後、つまり王国の軍勢が帰っていった翌日にはハープギルの王都の自宅と店舗に賊が入り、ハープギル自身はもちろん家族全員が皆殺しにされ、家屋敷や店は放火され全焼したらしい。
「要するに王国の陰謀だった可能性が高いということだな。やってきた王国軍の軍旗は第三軍のエルンスト・グラナート将軍のもので『銀狼将軍』と呼ばれている陰険なヤツだ。狼と言うより狐のような狡賢さだが」
アクィラは鼻に皺を寄せ、嫌悪も顕わに吐き捨てた。
「おそらく、黒ずくめの奴らはハープギルの商隊に紛れ込んでこの郷に侵入した者で、狐将軍の軍勢を招き入れる段取りだったんだろう。結界はキングサラマンダーが破っている予定だったしな。ツトムがキングサラマンダーを倒してしまったのが奴らの計算外の事だったわけだ」
「だから、キングサラマンダーを倒したのはラタトスク・・・・・・ってそれはもういいか。何故、王国はそんなことを企んだのでしょう?」
石動は苦笑いしながらも疑問に思ってアクィラに尋ねる。
「王国の奴らは昔からこの森が目障りで仕方ないんだ。世界樹様の結界に守られたこの森を真っ直ぐ抜けて帝国に侵攻するのが一番近道だが、この結界が張られた森を王国軍が通ることは不可能だ。森を抜ければ最短ルートで帝国に侵攻出来るのに、帝国との度重なる戦争で遠征する際はこの森を迂回せねばならないのが効率が悪く腹立たしいのだろう。今まで何度も金を払うから補給のために郷に入らせて欲しいと王国から要請があったけど、全て断っているよ」
「そりゃまた・・・・・・えらく露骨な申し出ですね」
「そうだろう? 誰が狼の群れを好んで郷に引き入れるものか。我々も弱くはないが数が少ない。王国軍数万には対抗できんよ」
アクィラは肩をすくめ、苦笑いする。
「では王国軍は何故、帝国と戦う前に数万の軍勢でこの郷を攻めないのでしょう?」
「そりゃ世界樹様がいるからな。まず、人族の力ではあの結界は破れない。キングサラマンダーのブレスの様な規格外の力でないと無理だ。そして人族は魔法を使えない。だから物理的な武力で数を頼んで押してくる。でも、世界樹様の魔法には痛い目にあっているから恐ろしくて手を出せないんだ。昔、世界樹様の怒りを買って、王国軍一個師団が水で流された事があるらしい」
「ええっ!水で?!」
「森に火を放って攻めようとした王国軍に怒った世界樹様は、森の中に人の高さ以上の水の壁を作って、それを王国軍に向かって勢い良く押し流し、王国軍はそのまま大河までゴミのように流されて捨てられたと聞いた。その時の水死者は一万とも二万ともいわれている」
石動は水洗トイレを連想し、次いで自衛隊時代に鉄砲水で被害を受けた被災地に災害派遣された時のことを思い出して、少しだけ王国軍の兵士に同情した。
「だから今回の企てがもし上手くいって、混乱の中、森や郷でエルフ族と人族が入り乱れてしまえば、世界樹様と言えど同じような対応は難しい。それに加えてキングサラマンダー達の襲撃により神殿騎士団が壊滅したり、世界樹様が燃えてくれれば儲けものと考えていたのだろう。実際、そうなりかけたしな。生き残りのエルフが居たなら、王国に拉致して連れ帰れば奴隷として高く売れただろうしな」
アクィラは眉を顰め、眼の中に憎しみの炎を燃やす。その隣でロサも自身の肩を両手で抱いて、怯えたように身を竦めていた。
「だが、残念ながら以上のことは推測でしかない。状況証拠だけで王国が企んだという確たる証拠はないんだ。黒ずくめの男達も身元を示す物は何も無かったし、ハープギルの配下だとしてもサラマンダーの襲撃に巻き込まれて死んだ商人と言われれば御終いだ。ハープギル自身も既に死んでるし、正に"死人に口なし"ってヤツだな」
アクィラはため息をつき、両腕を処置無しとばかりに頭の上まで上げる。
石動は頷いたが、あることに気が付いて指摘する。
「でも、ラタトスクは怒ってました。絶対許さないって」
「そのとおり。世界樹様も俺達も、このままやられっ放しで済ますつもりもないさ」
アクィラはニヤリと笑い、石動に悪戯っぽく呟く。
「そこで、ツトム。相談なんだが・・・・・・ちょっとばかし手を貸す気はないか?」
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